人間の条件 『四谷心中』
友人に薦められてYoutubeにて鑑賞。映像は2023年7月、条件の演劇祭vol.1@BUoYでの収録。上演時間は約70分。
近松門左衛門の『曾根崎心中』は、人に騙されて夜を儚んだ男女が心中を遂げる、もっとも有名な「心中もの」の作品です。一方で、四世鶴屋南北による『東海道四谷怪談』は、かつて人を殺してまで妻を手に入れた男が心移りから彼女を捨て、それを怨まれて呪い殺される話です。
『四谷心中』では、「生活は汚れである」という世界観のもとにこの二つの作品をドッキングします。心中に失敗した男女の愛が落ち延びて生活するうちに萎びてゆくドラマを、古語による台詞と非日常的・非生活的な身体で描きます。
近松の『曾根崎心中』と大南北による『東海道四谷怪談』のドッキング。それこそ、南北が得意とした複数「世界」の組み合わせ=「綯交ぜ」の手法と言えるだろうか。
「この世のなごり 夜もなごり」。未練を抱えながらも心中を遂げたお初と徳兵衛であったが、その2人の魂は浄土に導かれるのではなく、輪廻を遂げて、昭和的な家父長制の時を経て、四谷怪談に着地する。
つまり、徳兵衛が奸物・伊右衛門になってしまうというアクロバティックな展開を見せることになるわけだが、それを繋いだのは「三百六十五歩のマーチ」であった。
高度経済成長(金)とは、かくも人間を変えてしまうものか…。愕然としながらも、いや、いくらなんだって徳兵衛が伊右衛門にはならない!今度はそう思って眺めているともう一段階メタ的に、かつて愛し合ったカップル(『曽根崎心中』)が壮絶なる別れの修羅場を迎える(『東海道四谷怪談』)話として物語が立ち上がってくる。
伊右衛門が岩に離縁を迫る場面では、2人がお初と徳兵衛だった頃の残像が残っているからこそ、その悲劇が倍化しても見えてくる。驚いたのは、今度はここにプリプリの「M」が重ねられたことだ。
この劇団はトレーニングにスズキメソッドを取り入れていることが劇団紹介映像からも見て取れるが、演歌や歌謡曲を採用する鈴木演劇の"魔改造"が行われている。さらに、その他の音楽にもSPAC(棚川寛子)の影響さえ窺え、友人が薦めるわけだと妙に納得しながら新作の公演にも足を運んできた。そちらも忘れぬ内にまとめたい(つづく)
(2026年4月5日鑑賞)
