月うさぎのパン屋と、星をひとつ乗せたメロンパン
眠れない夜がある。
胸の奥がそわそわして、目を閉じても明日のことばかり考えてしまう夜。
そんな夜にだけ現れる不思議なパン屋が、この町にはあるらしい。
月うさぎのパン屋。
細い路地を抜けて、古い時計台の横を通って、三日月みたいに曲がった石畳の坂を上る。
すると、月明かりの下に、小さな灯りがぽつんと浮かぶ。
木の看板には、うさぎの耳と三日月の絵。
店先には、まだ湯気の立つパンたち。
ふわふわの白パン、星砂糖をまぶしたクロワッサン、夜空色のブルーベリーデニッシュ。
その中にひとつだけ、ころんと丸いメロンパンが並んでいた。
表面はさくさくで、真ん中には小さな金色の星。
まるで、空からこぼれた星を、そのまま乗せたみたいだった。
「それ、特別なメロンパンなんです」
声をかけてきたのは、白い耳を揺らした小さな店主だった。
大きな帽子に青いリボン。
ふわふわの頬に、小さな粉砂糖がついている。
「願いごとがある人にだけ焼くんですよ」
「願いごと……?」
「はい。会いたい人がいたり、言えなかった言葉があったり、頑張りたいのにうまくいかなかったり」
うさぎはそう言って、メロンパンをそっと紙袋に入れた。
「星をひとつ乗せたメロンパンは、心の奥にある本当の気持ちを見せてくれるんです」
私は少し迷ってから、そのメロンパンを受け取った。
本当は、会いたい人がいた。
春になって、新しい場所へ行ってしまった友だち。
毎日一緒に帰っていたのに、最近はメッセージも減って、なんとなく距離ができてしまった。
嫌いになったわけじゃない。
でも、どう話しかければいいのか分からなくなっていた。
家に帰って、メロンパンをひとくち食べる。
さくり、と優しい音がした。
ふわっと甘い香りが広がって、少しだけ、涙が出そうになる。
すると、窓の外で小さな光が揺れた。
気づけば、部屋の中に淡い星屑が舞っていた。
机の上、カーテンの端、本棚の隙間。
きらきらした光の中に、懐かしい景色が浮かぶ。
一緒に笑った帰り道。
くだらない話で笑い転げた放課後。
コンビニで半分こしたアイス。
どれもちゃんと、大切だった。
そのとき、星屑のひとつが、ぽん、と弾けた。
小さな声が聞こえた気がした。
『また話したい』
それは、たぶん。
私の気持ちだった。
翌日。
少しだけ勇気を出して、「元気?」とメッセージを送った。
すぐに返事が来た。
『ちょうど私も連絡しようと思ってた!』
たったそれだけで、胸の奥がふわっと軽くなる。
昨夜の星は、ちゃんと届いていたのかもしれない。
その日の夜。
窓の外を見上げると、月の隣で、小さな光がひとつだけ瞬いた。
まるで誰かが、空の上から「よくできました」って笑ってくれたみたいに。

片桐みかんさんのお題に参加させて頂きました✨️👇️
