鬼が泣いた夜
村はずれの大岩の裏に、鬼は住んでいた。
誰も近づかない。近づけない。
赤い肌に黒い角、拳ほどもある牙。
ただそれだけの理由で、
鬼はずっとひとりだった。
その夜、鬼は泣いた。
声を殺して、膝を抱えて。
満月だけが、その背中を照らしていた。
泣いた理由を、鬼は誰にも言えなかった。
村の子どもが川に落としたまりを、拾ってやったのだ。
子どもは礼も言わず、悲鳴を上げて逃げていった。
そうだろう、と鬼は思った。
それでも、手のひらがまだ温かかった。
まりが触れた、その感触だけが。
翌朝、岩の前に握り飯がひとつ、置いてあった。
小さな、不格好な握り飯が。
鬼はしばらく、それを眺めていた。
やがて、大きな手がそっと伸びる。
口に入れると、塩が足りなかった。
なのに、鬼はまた泣いた。
今度は、夜ではなかった。
片桐みかんさんのお題に参加させていただきました👇️✨️
