夜を集める古いポスト
片桐みかんさんのこちらのお題に参加させていただきました👇️✨️
そのポストは、町のいちばん高い場所にあった。
誰が置いたのかも、いつからそこにあるのかも、誰も知らない。
ただひとつ言われているのは、
夜になると、あのポストは“何か”を集めている、ということだった。
最初は、ただの噂だと思っていた。
けれどその夜、ふと足が向いてしまったのは、
たぶん、手放せないままの気持ちがあったからだと思う。
坂道を上りきると、そこにポストはあった。
古びた鉄の箱。
街灯に照らされて、静かに立っている。
近づくと、不思議なことに気づく。
投函口の奥が、わずかに光っていた。
まるで、夜空をそのまま閉じ込めたみたいに。
思わず、手を伸ばす。
触れるか触れないかの距離で、ためらった。
入れるものなんて、手紙は持っていない。
それでも、胸の奥にひとつだけ、
しまいきれなかった想いがあった。
言えなかった言葉。
届かなかった気持ち。
あのとき、渡せなかったもの。
「……これでも、いいのかな」
小さくつぶやいて、目を閉じる。
そして、そっとその想いを手放すように、
ポストの中へと落とした。
次の瞬間、
ふわり、と光が揺れた。
投函口の奥で、星のような粒が、ひとつ増える。
それは確かに、そこに“集められた”のだとわかった。
——夜を集める古いポスト。
その名前が、自然と浮かんだ。
ここはきっと、
誰にも届かなかった夜を、受け取る場所なのだ。
しばらくその場に立ち尽くす。
胸の奥にあった重さが、
少しだけ軽くなっていることに気づく。
全部消えたわけじゃない。
でも、抱えたままじゃなくていいと思えた。
帰り道、何度か振り返る。
ポストは変わらず、そこにあった。
けれど、さっきよりも少しだけ、
やさしく光っている気がした。
あの中には、きっと、
たくさんの夜が眠っている。
誰にも言えなかった想いや、
静かに終わった時間や、
そっと手放された気持ちたちが。
そして今夜、その中に、
私の夜も、ひとつ加わった。

