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時を渡るかんざし

むかしむかし、ある町に、

ひとつのかんざしを大切にしている娘がおりました。


そのかんざしは、

町はずれの小さな店で、ふと手に取ったものでした。


蝶のかたちをした、美しい細工。

光にあたると、まるで星くずのようにきらめきました。


「それはね、時を渡るかんざしだよ」


店の主は、そう言って静かに笑いました。


娘は半信半疑のまま、

そのかんざしを受け取りました。


ある春の夕暮れ。


娘はかんざしを挿して、外へ出ました。


風に揺れる桜の中を歩いていると、

ふと、空の様子が変わっていることに気づきます。


夜でもないのに、星が流れ、

光がゆっくりと渦を描いていました。


まるで、空に“時間の流れ”が見えているようでした。


思わず立ち止まり、

娘はその光を見つめます。


すると、不思議なことに、

胸の奥に浮かんできたのは、

遠い昔の出来事ではなく、

まだ来ていないはずの“これから”でした。


笑っている自分。

誰かと並んで歩く日。

少しだけ大人になった姿。


どれも、まだ知らないはずの時間なのに、

なぜか、とてもやさしく感じられました。


娘は、そっとかんざしに触れます。

そのとき、気づきました。


このかんざしは、

過去へ戻るためのものではなく、

流れていく時間を、

少しだけ信じさせてくれるものなのだと。


やがて、空の光はゆっくりとほどけ、

いつもの夕暮れに戻っていきました。


町の灯りがひとつ、またひとつと灯ります。


娘は小さく息をつき、

少しだけ前を向いて歩き出しました。


その髪には、

変わらず、かんざしが揺れていました。


——時を渡るかんざし。


それは、過ぎた時間ではなく、

これからの時間に、

そっと光を灯す、不思議な贈りものだったのです。



みかんさん提供イラスト✨️
いつも綺麗で素敵です🥹


片桐みかんさんのこちらのお題に参加させていただきました👇️✨️


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