星くずが降る駅のホーム
片桐みかんさんのこちらのお題に参加させていただきました👇️✨️
終電を逃した夜だった。
誰もいないはずの駅のホームに立つと、空気が少しだけ違っていた。
しん、と静まり返った空の下で、ふいに、ひとつ。
きらりと光るものが、線路の上に落ちた。
最初は、気のせいだと思った。
けれど次の瞬間、またひとつ、またひとつと、
まるで空からこぼれるみたいに、星くずが降りはじめた。
それは音もなく、ただ静かに、やわらかく、地面に触れては消えていく。
確認しようと思わず一歩、線路の方へ近づく。
すると足元で、かすかに光が揺れていた。
手を伸ばせば届きそうなのに、触れた瞬間に消えてしまいそうで、
少しだけ、ためらった。
「きれいでしょう」
声がして、振り返る。
いつの間にか、ベンチにひとりの人が座っていた。
駅員のようでもあり、そうでないようでもある、不思議な人。
「ここは、ときどきこうなるんです。行き場をなくした星たちが、降りてくる」
その人は、そう言って微笑んだ。
「行き場を、なくした……?」
「ええ。願いになれなかったものや、誰にも見つけてもらえなかった想いが、ね」
静かな声だった。
だけど、その言葉は、やけに胸の奥に残った。
足元でまた、ひとつ光が消える。
言えなかった言葉や、届けそびれた気持ち。
そういうものが、こんなふうに降ってくるのだとしたら。
ここは――
星くずが降る駅のホーム。
そんな名前が、ふと浮かんだ。
この場所は、きっと少しだけ、やさしい。
「次の電車は、いつ来るんですか?」
気づけば、そんなことを聞いていた。
その人は、少しだけ考えてから答えた。
「来るかもしれませんし、来ないかもしれません」
曖昧なのに、不思議と不安にはならなかった。
空を見上げる。
星くずは、まだ静かに降り続いている。
帰る場所は、あるはずなのに。
もう少しだけ、ここにいたくなった。
言葉にできなかったものが、
少しだけ、やわらかくほどけていく気がしたから。
その夜、電車が来たのかどうかは、よく覚えていない。
ただひとつ、確かなのは。
あの駅を出るころには、
胸の奥にあった小さな痛みが、ほんの少しだけ、軽くなっていたということ。

