ネオンの向こうの純喫茶
夜の街は、 少しだけ秘密が増える。
ネオンが滲むたび、 誰かの物語が静かに灯り始める。
夜十時を過ぎるころ。
駅前のネオンが、 雨上がりの道路にゆらゆら映りはじめる。
居酒屋の笑い声。
遠くを走るタクシー。
コンビニの白い灯り。
そんな夜の街を抜けた先に、 小さな純喫茶があった。
古びた木の扉。
少しくすんだショーウィンドウ。
ガラス越しに揺れる、 オレンジ色のランプ。
ネオンの向こうの純喫茶は、 今夜も静かに灯りをともしている。
カラン、と扉を開けると、 コーヒーの香りがふわりと広がった。
「いらっしゃい」
カウンターの奥では、 白シャツ姿のマスターが静かに笑っている。
店内にはレコードの音楽。
ゆっくり回る古い扇風機。
棚には使い込まれたカップが並び、 この店だけ時間がゆっくり流れているみたいだった。
最近は、 夜の写真を撮るのが好きな子たちの間で、 少しだけ話題になっているらしい。
「クリームソーダが可愛い」とか、
「夜景みたいなお店」とか。
そんな理由で訪れる人も増えた。
でも、 私はこの店の“静けさ”が好きだった。
窓際の席に座ると、 ガラス越しにネオンが滲んで見える。
青。赤。紫。
光が混ざるたび、 夜の街が夢みたいに揺れていた。
「今日は疲れた顔してるね」
マスターが、 小さく笑いながらクリームソーダを置く。
しゅわしゅわ弾ける炭酸。
溶けかけたアイス。
赤いさくらんぼ。
それだけなのに、 張りつめていた心が、 少しだけほどけていく。
私はストローをくるりと回しながら、 ぼんやり窓の外を見つめた。
今日も街は騒がしい。
でも、 ネオンの向こうにあるこの純喫茶だけは、 ゆっくり時間が流れている。
そして今夜も、 純喫茶には、 静かな灯りがともっていた。

片桐みかんさんのお題に参加させて頂きました👇️✨️
