願いを食べる竜の森
森の奥には、
**「願いを食べる竜の森」**という場所が存在すると言われている。
そう呼ばれている理由を、
少女はまだ知らなかった。
けれど——
その姿を見た者は、
みな、やさしい顔で帰ってくるのだと。
少女は、その森へ足を踏み入れた。
光がこぼれるような木々のあいだ、
風は静かで、どこかあたたかい。
怖いはずなのに、
不思議と心は落ち着いていた。
やがて、ひらけた場所に出る。
水のほとり。
花のあいだに、
ひときわ大きな存在が、静かに息づいていた。
白い竜だった。
光をまとい、
まるで森そのもののように、そこにいる。
竜は、ゆっくりと少女を見下ろした。
その瞳は、驚くほどやわらかい。
少女は、小さく息を吸って言った。
「ひとつだけ、お願いがあります」
竜は答えない。
ただ、手の中にある光を、そっと差し出した。
それは、小さな願いのかたち。
あたたかくて、やさしくて——
どこか、懐かしい光。
少女は、それに触れる。
その瞬間、
胸の奥から、ひとつの記憶がほどけた。
大切だった時間。
誰かと笑い合った日々。
消えないと思っていた、やさしい思い出。
少女は、少しだけ目を細めて——
そっと、その光を手放した。
竜は、それを静かに受け取る。
飲み込むのではなく、
大事に包み込むように。
やがて、竜のまわりに
新しい光が、ひとつ生まれた。
それは、少女の願い。
言葉にしなくても、
たしかにそこにあった想い。
竜は、何も言わない。
けれど、その光はやがて
少女のもとへ、そっと返された。
胸の奥に、やさしく沈んでいく。
少女は、静かに息を吐いた。
「……ありがとう」
何を失ったのかは、もうわからない。
けれど——
手の中には、たしかに残っているものがあった。
少女は振り返り、
もう一度だけ竜を見つめる。
白い竜は、ただ静かにそこにいた。
森の光とともに。
その日から。
少女はときどき、思い出す。
名前のない、やさしい光のことを。
そして、ほんの少しだけ——
自分が軽くなった理由を。

片桐みかんさんのお題に参加させて頂きました👇️✨️
