人魚のかんざし
昔々、海辺の小さな村に、一人の少女が暮らしていました。
少女は夕暮れになると、桟橋に座って海を眺めるのが日課でした。
ある満月の夜。
波打ち際で、月の光を受けてきらりと輝く一本のかんざしを見つけます。
それは貝殻や真珠で飾られた、とても美しいかんざしでした。
「こんなに綺麗なものを落とした人は、きっと困っているはず…。」
少女は大切に持ち帰らず、毎晩同じ場所で持ち主を待ち続けました。
七日目の夜。
静かな海がゆっくりと揺れ、一人の人魚が姿を現します。
淡い青い髪をなびかせ、人魚は少女を見ると、ほっとしたように微笑みました。
「そのかんざしは、母から受け継いだ宝物なのです。」
少女は何も言わず、両手でそっとかんざしを差し出しました。
人魚は涙を浮かべながら受け取りました。
「お礼に、あなたの願いを一つだけ叶えましょう。」
少女は少し考えて、小さく首を振ります。
「私は大丈夫。だから、海で暮らすすべての命が、これからも幸せに過ごせますように。」
人魚は驚いた顔をしたあと、優しく微笑みました。
「あなたは、自分の願いよりも、誰かの幸せを選ぶのですね。」
そう言って、人魚はかんざしを髪に挿します。
すると、真珠が月明かりを受けて輝き、静かな海に光の輪が広がっていきました。
それからというもの、村の海はいつも穏やかで、魚たちは豊かに育ち、嵐も不思議と村を避けていったといいます。
人々は理由を知りません。
けれど満月の夜になると、ときどき沖の方から、美しい歌声が聞こえてくるのでした。
それはきっと――
大切な宝物を届けてくれた少女へ贈る、人魚からの「ありがとう」の歌だったのです。
片桐みかんさんのこちらのお題に参加させていただきました👇️✨️
