あまねく星の夜に
あまねく星が空に輝いていた。
空は深く澄みわたり、
その光は湖のすみずみにまで届いている。
小舟は、まるで星の上を滑るみたいに、静かに進んでいた。
櫂を動かすたび、
水面がやわらかく揺れる。
ぱしゃり、と小さな音。
それだけが、この世界の現在だった。
森の奥には、淡い光の柱が立っている。
強くはない。
けれど確かに、そこに在る。
誰かを導くための灯りではない。
帰る場所を示す印でもない。
ただ、消えないだけの光。
流星群が流れはじめる。
ひとすじ、またひとすじ。
空を裂くのではなく、
夜を撫でるように。
願いを急かす光ではなかった。
叶えるとも、約束するとも言わない。
それでも、星は落ちる。
湖面に触れた光は、
小さく波紋を広げ、
やがて水と同じ透明さになる。
消えたわけではない。
溶けただけだ。
小舟の上で、彼女は櫂を止める。
星に手を伸ばすことはしない。
森の光へ向かうことも急がない。
夜は何も求めなかった。
ただ、星が満ち、
水が揺れ、
光が息をする。
それだけで、世界は整っていた。
やがて彼女は、
もう一度ゆっくりと櫂を動かす。
行き先は決めなくていい。
夜は広く、
あまねく星は、どこにいても同じように輝いているのだから。
片桐みかんさんのお題に参加しました👇️
