虹が消える日のひみつ
雨が三日も降り続いた朝のことでした。
ようやく雲の切れ間から太陽が顔をのぞかせたのに、空には虹が現れません。
「おかしいな」
広場に集まった人たちは、みんな首をかしげました。
雨上がりの町では、いつだって大きな虹が空にかかるはずだったのです。
そのとき、丘の上から子どもたちの声が聞こえてきました。
「いたぞ!」
「虹を盗んだ猫だ!」
屋根の上を、ひとりの小さな猫が駆け抜けていきます。
黒いマントをひるがえし、大きな袋を背負ったその姿は、まるで小さな怪盗のようでした。
袋の口からは、こぼれ落ちるように七色の光があふれています。
誰が見ても、虹を盗んだ犯人はその猫でした。
子どもたちは夢中になって追いかけます。
けれど、猫は振り返ることなく、古い石畳の坂道をどんどん登っていきました。
町のはずれにある、小さな丘の上まで。
そこには、ひとりの女の子が座っていました。
女の子は空を見上げたまま、ぽつりと言います。
「今日はお誕生日なのに、お母さんお仕事で帰ってこられないって……」
その声は、雨上がりの水たまりのように寂しそうでした。
猫は女の子の前に袋を置くと、前足でそっと口を開きます。
すると、中から七色の光がふわりと舞い上がりました。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
こぼれ出した光は空へとのぼり、丘の上だけに小さな虹を描きます。
女の子の瞳に、虹の色が映りました。
すると、曇っていた表情が
少しずつ笑顔に変わっていきます。
猫は満足そうにひげを揺らすと、くるりと背を向けました。
その姿を見ていた子どもたちは、ようやく気づきます。
虹を盗んだのではありません。
あの猫は、寂しい気持ちを見つけると、空から虹を少しだけ借りて届けていたのです。
だから雨上がりの空には、ときどき虹が現れない日がありました。
そんな日は、どこかで誰かが笑顔を取り戻している日。
夕暮れの空に、少しだけ短い虹がかかっていたら思い出してください。
もしかしたら今日も、あの猫がマントをひるがえしながら、誰かのもとへ虹を届けていたのかもしれません。
片桐みかんさんのこちらのお題に参加させていただきました👇️✨️
