孤独は、別の病名に姿を変える
人とのつながりが健康寿命を支える理由
前回、死亡診断書には「孤独」とは書けない、という話を書きました。
死亡診断書に記されるのは、心筋梗塞、脳卒中、肺炎、心不全など、最後に命を止めた病名です。
しかし、その病気の後ろに、長い孤独や社会的孤立が隠れていることがあります。
孤独は、少しずつ身体に入り込む
孤独そのものが、突然、心臓を止めるわけではありません。
孤独な状態が続くと、眠れなくなる。
食事が乱れる。
外に出なくなる。
身体を動かさなくなる。
お酒やたばこに頼ることがある。
受診や服薬を支えてくれる人がいない。
そして何より、身体の小さな変化に気づいてくれる人がいなくなります。
「今日は少し顔色が悪いよ」
「一度、病院で診てもらったら」
そんな何気ない一言が、病気の早期発見につながることがあります。
ところが、誰とも会わない生活では、小さな異変が見過ごされます。
転んでも、助けを呼べない。
食べられなくなっても、誰にも気づかれない。
意識を失っても、発見が遅れる。
こうして、孤独や社会的孤立が背景となり、心筋梗塞、脳卒中、肺炎、フレイル、認知症など、別の病名となって現れることがあるのです。
死亡リスクは14〜32%高くなる
WHO(世界保健機関)が2025年6月30日に公表した報告書『From loneliness to social connection(孤独から社会的つながりへ)』によれば、社会的なつながりが乏しい人では、死亡リスクが14〜32%高くなるとされています。
また、心血管疾患のリスクは29%、脳卒中のリスクは32%高くなると報告されています。
世界の認知症リスクの約5%は、社会的孤立に関連するとも推計されています。
ただし、「人間関係をよくすれば、健康寿命が何年延びる」とまでは分かっていません。
それでも、孤独や社会的孤立が、身体、心、認知機能、そして日常生活を送る力に影響することは明らかになりつつあります。
健康寿命とは、単に病気がない期間ではありません。
自分の足で歩き、自分の口で食べ、自分の意思で暮らせる期間です。
その力を支えるものの一つが、人とのつながりなのです。
つながりは、多ければいいわけではない
人間関係は、あればあるほど良いというものではありません。
争い、支配、暴力、過度な負担を伴う関係は、かえって心身を蝕みます。
大切なのは、数ではなく、安心できるつながりです。
安心して話せる人がいる。
困ったときに「助けて」と言える。
自分を気にかけてくれる人がいる。
自分にも役割がある。
誰かの役に立っていると感じられる。
そんな良質なつながりこそが、心と身体を守ります。
健康寿命を支える、もう一つの処方箋
健康寿命を延ばすために、私たちは運動、食事、睡眠、禁煙、血圧管理の大切さを伝えてきました。
これからは、もう一つ加える必要があります。
人とのつながりです。
近所の人に挨拶する。
昔の友人に電話をかける。
誰かと一緒に食事をする。
地域の集まりに顔を出す。
人の話を聞く。
自分にできる小さな役割を持つ。
特別なことでなくても構いません。
人は、誰かに助けてもらうことで救われます。
そして同じくらい、誰かの役に立つことによっても、生きる力を取り戻します。
今日、しばらく顔を見ていない人を一人、思い浮かべてみてください。
「元気ですか」
その短い連絡が、今日の孤独を和らげるかもしれません。
そして、未来の病気や、失われる命を防ぐことになるかもしれません。
人とのつながりも、健康の一部です。
長く生きるためだけではありません。
最後まで自分らしく、誰かと支え合って生きるために、孤独を見えないままにしてはいけないと思うのです。
※出典:WHO Commission on Social Connection『From loneliness to social connection: charting a path to healthier societies』(2025年6月30日)
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