見出し画像

「大丈夫」は、本当に大丈夫か

救急医が見てきた“感覚のズレ”と、脳の生存戦略

「大丈夫です」

その言葉を、私は何度も疑ってきました。

救急の現場では、
その一言が“本当ではない”ことが、あまりに多いからです。

顔色は明らかに悪い。
冷や汗がにじみ、呼吸も早く、浅い。
致死的な診断名を伝えても、

それでもその人は、無理に笑って言うのです。
「大丈夫です、まだやれます」と。

一方で

検査をしても異常が見つからないのに、
強い不安に包まれて来院される方もいます。

「何かおかしい。このまま死んでしまうんじゃないか」

同じ“体”を持ちながら、
なぜここまで感じ方が違うのか。

私は長く、その答えを探してきました。


脳は「正しさ」よりも「生存」を選ぶ

一つの答えは、脳の働きにあります。

人の脳は、
いつも正しく現実を判断するためにあるのではありません。

生き延びるために、あえて“感じ方を変える”ことがあるのです。

ある人の脳は、
恐怖に飲み込まれて動けなくなるのを防ぐために、
「まだ大丈夫だ」と感覚を鈍らせます。

別の人の脳は、
最悪の事態を少しでも早く避けるために、
「危険だ!」といち早く強く警報を鳴らします。

どちらが正しいわけでも、間違っているわけでもない。

どちらも――
その人が今を生き抜くために選んだ、
脳の生存戦略なのです。

「大丈夫」と言わざるを得ない理由

限界を超えても「大丈夫」と言う方の背中には、
言葉にならない事情があります。

「今、自分が抜けたら仕事が回らない」
「弱音を吐いてはいけない」
「病気だと認めたら、生活が壊れてしまう」

それは強がりではありません。

“倒れるわけにはいかない人生”もしくは「病院なんかで休んでいられない」を、背負っているのです。

守りたい仕事。
守りたい家族。

そのすべてを抱えながら、
人は「大丈夫」と言います。

医師が見ている“その先”

確かに、今はまだ大丈夫かもしれません。

けれど私たちは、
その「大丈夫」の数時間先にある現実を、何度も見てきました。
最悪の状況を見ているからこそ、そうならないようになんとかしたい。

患者さんが守りたいのは「今の生活」。
私たちが守りたいのは――

あなたの「明日」です。

責任も、家族も、日常も。
すべては、命があってこそ続いていく。

だから私たちは、
時に嫌がられても、立ち止まることを伝えます。

最後に

これまで私は、
たくさんの「大丈夫」と、
たくさんの「怖い」に出会ってきました。

そのどちらも、
あなたが必死に生きている証です。

もし、自分の感覚に迷うことがあったら――

思い出してください。

人の感じ方は、もともと揺らぐようにできている。

無理をしてしまうあなたも。
不安に震えるあなたも。

どちらも、間違っていません。

ただ――

その違和感だけは、
どうか一人で抱え込まないでください。

あなたが守りたいものを、
これからも守り続けるために。

そして最後に、ひとつだけ。

「大丈夫」と言う、その瞬間が、
いちばん大丈夫ではないこともあるのです。

いいなと思ったら応援しよう!

今井寛 よろしければ応援お願い致します。