死亡診断書には、「孤独」とは書けない
WHOが警告する、見えない健康リスク
多くの死に立ち会ってきました。
死亡診断書には、死因を書きます。
心筋梗塞。
脳卒中。
肺炎。
心不全。
老衰。
けれど、そこに「孤独」と書くことはありません。
たとえ、その人が長い間、誰とも話さず、助けを求められないまま、一人で亡くなっていたとしてもです。
死亡診断書に記されるのは、最後に命を止めた病名です。
その人がどのように暮らし、誰とつながり、どれほど寂しい思いを抱えていたのかは、ほとんど残りません。
孤独と社会的孤立は、同じではない
2025年、WHO(世界保健機関)は、人とのつながりと健康に関する報告書を公表しました。
そこで、まず区別されているのが「孤独」と「社会的孤立」です。
孤独とは、
「自分が望んでいるほど、人と心がつながっていない」
と感じる主観的な苦痛です。
一方、社会的孤立とは、家族や友人との交流、地域との関わりなどが少ない、客観的な状態を指します。
一人暮らしでも、孤独ではない人がいます。
自分の時間を楽しみながら、必要なときには誰かに相談できる。そんな人もいます。
反対に、家族と暮らし、多くの人に囲まれていても、
「自分のことを分かってくれる人がいない」
と感じることがあります。
つまり、
孤独は「感じ方」、社会的孤立は「つながりの少ない状態」
と考えると分かりやすいでしょう。
社会的なつながりとは何か
社会的なつながりとは、単に知り合いが多いことではありません。
WHOは、人との関係を、
誰と、どのくらい関わっているか
困ったときに支えてもらえるか
その関係を安心できるものと感じているか
という、関係の数・働き・質を含めて捉えています。
たくさんの人に囲まれていても、安心して話せる人がいなければ、心は孤独になります。
反対に、つながる相手が一人でも、
「困ったときは、この人に話せる」
と思えれば、それは大きな支えになります。
世界の6人に1人が孤独を感じている
WHOによれば、世界では約6人に1人が孤独を感じています。
さらに、孤独に関連する死亡は、年間約87万1,000人。1時間に約100人にのぼると推計されています。
もちろん、死亡診断書に「孤独」と書かれた人数ではありません。
孤独や社会的孤立によって、心臓病、脳卒中、うつ、認知機能低下などの危険が高まり、その結果として失われた可能性のある命を、統計的に推計した数字です。
孤独は、ただ「寂しい」という心の問題ではありません。
身体を蝕み、ときに命を縮める健康上の問題なのです。
死亡診断書には、「孤独」とは書けません。
けれど、その心筋梗塞の後ろに。
その脳卒中の後ろに。
その衰弱の後ろに。
誰にも気づかれなかった孤独が、隠れていることがあります。
次回は、孤独や社会的孤立が、なぜ身体を傷つけ、健康寿命を縮めるのかを考えます。
※出典:WHO Commission on Social Connection『From loneliness to social connection: charting a path to healthier societies』(2025年6月30日)
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