「練習では完璧なのに」が消える日…熟練者50人の実験でわかった、加圧:プレッシャーで上がる人と落ちる人の分かれ目
― 同じ研究室、同じ課題、同じ加圧:プレッシャー。それでも初心者は崩れ、熟練者はむしろ伸びました ―
熟練者50人の実験では、同じ加圧で初心者は崩れ、熟練者はむしろ伸びました。分かれ目は性格ではなく自動化の度合いです。本番の重さを練習に足す順番と、崩れる前に戻す手順を、国内外の研究をもとに設計します。
はじめに――「練習では完璧なのに」という言葉
指導の現場で、いちばん多く聞く言葉のひとつがこれです。
「練習では完璧にできるんです。本番になると、なぜかできなくなるんです」
この言葉を聞いたとき、多くの大人は「心の問題だ」と考えます。そして「もっと自信を持て」「本番に強くなれ」と声をかけます。ときには「気持ちの問題だから、気持ちで解決しろ」と言ってしまうこともあります。
けれども、この言葉には、もっと素直な読み方があります。
練習と本番で、やっていることが違うのです。
練習には、順位表示がありません。観客もいません。1本外しても、何も起こりません。本番には、その3つが全部あります。つまり、練習で「完璧にできる」というのは、「3つが全部ない状態でなら、完璧にできる」という意味でしかありません。
そこで出てくるのが、この記事のテーマです。
練習の中に、本番の重さを持ち込む。
スポーツ心理学では、これを圧力を加える練習、つまり加圧練習と呼びます。順位表示・観客・結果条件を段階的に足していき、選手が崩れる手前で止め、戻す手順まで含めて練習にします。それだけの話です。
けれども、この「それだけ」を間違えると、選手を壊します。
この記事では、実験室で実際に何が起きたのかを、まず正確に見ていきます。そこには、多くの人の直感を裏切る結果がありました。
第1章 同じ研究室で起きた、正反対の2つの結果
イギリスのバーミンガム大学の研究チームが、2010年と2011年に、ほとんど同じ実験をしました。
課題は同じです。ゴルフのパッティングです。加圧のやり方も同じです。低圧・中圧・高圧の3段階を、この順番で経験してもらいます。測るものも同じです。不安、努力感、心拍、筋肉の活動、クラブの動き。
違ったのは、参加者だけでした。
2010年の実験は、初心者58人でした。
結果は、多くの人の予想どおりです。加圧すると、入ったパットの数が減りました。不安も、努力感も、心拍も、筋肉の活動も、クラブの横ぶれも増えました。そして分析の結果、成績の低下を部分的に説明していたのは、努力感と、筋肉の活動と、クラブの横ぶれでした(Cooke, Kavussanu, McIntyre, & Ring, 2010)。
つまり、初心者は「がんばろうとして、力が入り、クラブが横に振れて、外した」わけです。現場の実感どおりです。
2011年の実験は、熟練者50人でした。
結果は、逆でした。
加圧すると、正確さが上がったのです。ボールがカップに近い位置で止まるようになりました。不安も、努力感も、心拍も上がりました。しかし、握る力はむしろ弱くなりました。そして分析の結果、成績の向上を部分的に説明していたのは、努力感と心拍でした(Cooke, Kavussanu, McIntyre, Boardley, & Ring, 2011)。
同じ研究室、同じ課題、同じ加圧です。参加者の腕前だけが違いました。それで、結果の向きが反転しました。
ここから引き出せる結論は、ひとつです。
プレッシャーで上がるか落ちるかを決めているのは、性格ではありません。技がどこまで自動になっているか、です。
第2章 熟練者で上がったのは、「努力」と「心拍」だった
2011年の実験で、いちばん大事なのは、何が成績の向上を説明したか、という部分です。
説明したのは、努力感でした。加圧すると、参加者が感じる「がんばり」の度合いが、はっきりと上がりました。低圧のときが70.12、中圧で84.02、高圧で93.38です(0から150までの尺度)(Cooke ほか, 2011)。
そして、この努力感が、成績の向上を部分的に説明していました。研究者たちは、これを「努力が成績の向上を説明することを示した最初の研究」だと書いています。
ここは、はっきり押さえておく価値があります。
同じ「がんばり」が、初心者では成績を下げ、熟練者では成績を上げていました。
なぜでしょうか。
初心者の「がんばり」は、動きの中身に向かいます。「もっと真っ直ぐ引こう」「もっとゆっくり」「もっと力を抜こう」。動きを意識で操作しようとします。ところが、動きはまだ自動になっていないので、操作しようとするほど壊れます。
熟練者の「がんばり」は、動きの中身には向かいません。動きはもう自動になっているからです。だから「がんばり」は、注意の量として使われます。読みに使える注意が増えるので、ラインをより丁寧に見て、狙いがより正確になります。
もうひとつ、心拍も成績の向上を説明していました。心拍は低圧で89.63、中圧で92.91、高圧で99.38まで上がりました(Cooke ほか, 2011)。
ただし、この心拍の上がり方は、自己申告の不安とは結びついていませんでした。研究者たちは、心拍が上がった理由として「楽しさ、のめり込み、わくわく感などの前向きな感情」の可能性を挙げています。つまり、ドキドキそのものが悪者ではなかったわけです。
ここは、選手に伝えるときのいちばん大事なところです。
「ドキドキしてきた」は、崩れる合図ではありません。ただの「関わっている」という合図です。
第3章 なぜ、熟練者の握りは軽くなったのか
2011年の実験で、もうひとつ意外な結果が出ています。
加圧すると、熟練者の左手の握る力が弱くなりました。
左手の握力は低圧で24.81ニュートン、中圧で23.70、高圧で23.79と、加圧するほど下がっていきました(Cooke ほか, 2011)。
「緊張すると力が入る」という常識と、真逆です。
初心者の実験では、逆のことが起きていました。2010年の実験では、加圧すると前腕の伸筋の活動が高まり、それが成績の低下を部分的に説明していました(Cooke ほか, 2010)。研究者たちは、これを「プレッシャーがかかったときにゴルファーが固くなる、という現場の言い伝えと一致する」と書いています。
つまり、こうです。
初心者は、加圧されると握りしめます
熟練者は、加圧されるとむしろゆるめます
ただし、2011年の研究では、この「軽く握る」が成績の向上を説明したわけではありませんでした。研究者たちが調べたところ、左手をゆるめたぶん、右手の握りが強くなるという入れ替えが起きていて、結果として握力そのものは成績と結びつきませんでした(Cooke ほか, 2011)。
それでも、この事実には現場での価値があります。
上手な選手の体は、加圧されたときに「よけいな力を抜く」方向に動きます。
これは、練習で見るべきポイントを教えてくれます。加圧練習をしたとき、指導者が見るべきなのは、成績だけではありません。握りの強さ、肩の位置、あごの角度です。ここが強くなったら、その選手はまだ自動になっていません。
第4章 大リーグ4年分のデータも、同じことを言っています
実験室の話だけでは、心もとないかもしれません。本物の試合ではどうでしょうか。
台湾の研究者が、2015年から2018年までの大リーグの試合を分析しました。観客の数を、プレッシャーの強さの代わりに使いました。
結果は、全体としては「観客が多いほど、打席で成功する確率が下がる」というものでした。ここまでは、崩れる説を支持しています。ところが、スター打者だけは違いました。スター打者は崩れず、むしろ大観衆の前で成績を伸ばしていました(Jane, 2022)。
実験室と、まったく同じ形です。
腕前が上のところにいる人は、プレッシャーで上がります。そうでない人は、下がります。
そして、この研究は、もうひとつ大事なことを言っています。課題が「努力で決まる課題」なら、プレッシャーは努力を増やして成績を上げます。課題が「技で決まる課題」なら、プレッシャーは成績を下げやすくなります(Jane, 2022)。
ここから、加圧練習の設計にひとつの原則が出てきます。
加圧を足すのは、その動きが「努力で伸びる段階」を抜けて、「自動で出る段階」に入ってからです。
ただし、腕前だけで全部が決まるわけではありません。中くらいのハンディキャップを持つゴルファーを対象にした研究では、加圧すると不安が上がり、処理の効率は落ちたのに、一部の人は成績を保っていました(Wilson, Smith, & Holmes, 2007)。
つまり、同じ加圧をかけても、崩れる人と崩れない人が同じチームの中に必ず出ます。だから加圧練習は、チーム全員に同じ強さでかけるものではありません。1人ずつ、止める場所が違います。
第5章 崩れるとき、体では何が起きているか
日本の研究が、この問いにはっきり答えています。
東北大学で行われた実験です。22人の男性に、利き手ではないほうの手で、下手投げをしてもらいました。ストレスをかける条件と、かけない条件を比べました。
ストレスをかけると、成績が下がりました。そして体の中では、2つの反対のことが同時に起きていました。腕の関節どうしのつなぎ方が、投げるたびにバラバラになりました。ところが、ボールを離す位置は、逆にガチガチに固定されました(Higuchi, 2000)。
これは、とても大事な発見です。
崩れるときの体は、「全部バラバラになる」わけでも、「全部固まる」わけでもありません。
つなぎ目が、バラつく
仕上げの一点が、固まる
現場の言葉に直すと、こうなります。「腕だけで合わせにいって、リリースだけ意識して固めた」。
もうひとつ、日本の研究があります。名古屋大学のチームが、32人の大学生に、記憶の課題を、評価される条件とされない条件でやってもらいました。近赤外線分光法という装置で、前頭前野の血流を測りました。
結果はこうでした。誤答率が上がり、前頭前野の活動が高まったのは、いちばん難しい課題のときだけでした。いっぽう、自律神経の高ぶりは、課題の難しさに関係なく、どの条件でも上がりました。そして誤答率と結びついていたのは、前頭前野の過剰な活動のほうで、自律神経の高ぶりとは一貫した関連が見られませんでした(Ito, Yamauchi, Kaneko, Yoshikawa, Nomura, & Honjo, 2011)。
この研究が言っているのは、こういうことです。
ドキドキすること自体は、成績を下げていませんでした。下げていたのは、頭の前のほうが働きすぎることでした。
そして、働きすぎが起きたのは、課題が難しいときだけでした。
ここから、加圧練習の第2の原則が出てきます。
加圧するとき、課題の難しさは上げない。加圧と難易度を、同時に上げない。
この原則には、別の裏づけもあります。イギリスの研究チームが、課題の難しさを変えることで「必要とされる努力の量」を操作し、不安との組み合わせを調べました。結果として、不安・必要な努力・成績の3つが組み合わさったときにだけ、成績が急に落ちる形が現れました(Hardy, Beattie, & Woodman, 2007)。
急な崩れは、不安だけでは起きません。**不安と、必要な努力の多さが、重なったときに起きます。**加圧の日に課題を難しくすることは、この2つを同時に引き上げる行為です。
第6章 信号機モデルで整理します
ここまでの研究を、現場で使える形に整理します。私が指導で使っている信号機モデルです。
🟢 緑(整っている)
呼吸がゆっくりで、深さがある
視野が広く、周りが見えている
動きの中身を考えていない。ただ動いている
話しかけると、ふつうの速さで返事が返ってくる
この状態のとき、加圧を足すことに意味があります。熟練者の実験で成績が上がったのは、この状態から中圧に移ったときです。
🟡 黄(戦える緊張)
心拍が上がっている。手にじわっと汗をかいている
「よし、来た」という感じがある
やることが1つに絞れている
視野は、まだ広い
ここが、いちばん力が出る場所です。熟練者の実験で、いちばん多くのパットが入りやすかったのは、実は高圧ではなく中圧のときでした。そして中圧のときこそ、参加者が「動きを意識していた度合い」がいちばん低くなっていました(Cooke ほか, 2011)。
🟡は、我慢する場所ではありません。いちばんいい場所です。
🔴 赤(崩れている)
呼吸が浅く、速く、一定になる
視野が狭くなる。カップだけ、ネットだけしか見えない
やることが増える。手順が2つ、3つと足されていく
体のどこかが、握りしめられている
「失敗したくない」が、頭の中で回りはじめる
ここに入ったら、加圧を続けても練習になりません。壊れる練習になります。
加圧練習でやることは、たった1つです。🟡まで上げて、🔴に入る手前で止めます。そして🟢に戻す手順を、その場でやります。
ここから先は、その具体的な設計です。加圧の材料を3つに分解し、順番を決め、崩れる合図を見分け、戻す手順を作ります。そして「やってはいけないこと」を5つ、はっきり書きます。
第7章 3つの勘違い
加圧練習がうまくいかないとき、たいてい、この3つのどれかが起きています。
勘違い1「本番に慣れさせれば強くなる」
慣れは、目的ではありません。副産物です。
ゴルフのパッティングで、加圧の効果を調べた研究では、研究者たちが「1回目の加圧で慣れてしまい、2回目の加圧が効かなくなるのではないか」と心配して、わざわざ1回目の加圧を受けない統制群を追加していました(Mullen, Hardy, & Oldham, 2007)。研究者ですら、慣れは「起きてしまうと困ること」として扱っていたのです。
加圧練習の目的は、慣れることではありません。加圧されても、動きが自動のまま出るかどうかを確かめることです。確かめて、出なければ、加圧を下げて技術に戻ります。それだけです。
勘違い2「厳しくすれば、心が強くなる」
これは、はっきり否定できます。
心拍の反応が繰り返しのストレスに慣れていくかどうかを調べた研究では、146人を同じストレス課題に2回さらしました。反すう、つまり終わったことを頭の中で何度も再生する傾向が強い人ほど、2回目でも心拍の反応が下がりませんでした。つまり、慣れが起きませんでした(Costello, Creaven, Griffin, & Howard, 2025)。
**終わったことを引きずる人には、繰り返すだけでは効きません。**引きずりを止める手順を、加圧のあとに置く必要があります。これが、この記事でくり返し出てくる「戻す手順」です。
勘違い3「本番の緊張を、練習で完全に再現できる」
できません。研究者自身が、そう書いています。
熟練者50人の実験の論文には「今回引き出せたプレッシャーの水準は、現実の大きな大会で経験するものより低いと考えられる」と、はっきり書かれています(Cooke ほか, 2011)。
静かな目の訓練の研究でも「加圧条件で不安の得点は2倍になったが、それでもまだ中くらいであり、本人にとって本当に大きなものがかかっている場面ほど高くはない」と書かれています(Moore, Vine, Cooke, Ring, & Wilson, 2012)。
だから、加圧練習の目的は「本番と同じにすること」ではありません。本番より軽い段階で、崩れ方の癖を見つけることです。
第8章 加圧は、3つの材料でできています
では、何を足せば加圧になるのでしょうか。
心理学の古典的なまとめが、答えを出しています。
1986年に発表された総説では、成績が下がる現象を引き起こす条件が4つに整理されています。観客の存在、競争、成績に応じた報酬と罰、そしてその課題が自分の価値と結びついていること、の4つです(Baumeister & Showers, 1986)。
現代の研究では、これをさらに2つに分けます。
1つは「見られている圧」です。観察されること、成績のフィードバックを受けることで生まれます。もう1つは「結果の圧」です。特定の結果に対して見返りが用意されることで生まれます(Wadhwani, Lim, & McConnell, 2025)。
現場の言葉に直すと、こうなります。
加圧の材料は3つです。
見られる(人が見ている、記録される、名前が出る)
比べられる(順位が出る、貼り出される、共有される)
結果がつく(成功と失敗で、あとに起こることが変わる)
この3つは、別々に足せます。別々に外せます。ここが、加圧練習を設計できる理由です。
第9章 加圧の作り方――実験室のレシピを、そのまま現場へ
初心者58人の実験では、加圧をどうやって作ったのでしょうか。論文には、驚くほど具体的に書かれています。そのまま現場に移せます。
低圧の作り方
参加者には「白いボールと白黒のボールで、パットの入り方に差があるかを調べる研究です」と伝えました。そして「距離は記録しますが、個人の成績は分析しません。全員のデータをまとめて、ボール2種類の平均を出すだけです」と説明しました(Cooke ほか, 2010)。
現場に直すと、こうです。「これは今日のデータには入れません。手の感じだけ確かめてください」
中圧の作り方
「ここからが競争の段階です。あなたの正確さは、他の参加者と直接比べられます」と伝えました。そして「全員の成績を順位をつけて掲示板に貼り出し、全員にメールでも送ります」と説明しました。さらに、上位5人に賞金が出ること、およそ50人と競っていること(つまり10パーセントが賞金をもらえること)まで伝えました(Cooke ほか, 2010)。
現場に直すと、こうです。「今日の記録は、あとでボードに貼ります。全員が見ます。ここから10本、始めます」
高圧の作り方
高圧では、1本ごとにお金が積まれたり減らされたりする仕組みを加えました。1本打つたびに、目の前の積み上げが変わるわけです。
現場に直すと、こうです。「1本ごとに、その場で結果が動きます」
日本の研究でも、同じ作り方が使われています。早稲田大学の研究では、加圧条件として、ビデオで撮影して専門家が後で評価すること、上位3人に追加の謝礼が出ること、評価が低い人は別の日に追加の実験に呼ばれること、基準を超えたら追加報酬・下回ったら減額されることを伝えました(Mizuno & Masaki, 2023)。
ここで気づいてほしいのは、どれも道具がいらないということです。
板とペンがあれば、順位表示は作れます。スマートフォンが1台あれば、「見られる」は作れます。「次の1本が入らなかったら、全員でもう1周」と言えば、結果条件は作れます。
加圧練習に必要なのは、設備ではなく、順番です。
そして、同じ加圧でも、言葉づかいで結果が変わります。
127人を対象にした実験で、参加者を2つの群に分けました。片方には「この課題は難しく、これまでの参加者も苦戦してきた」と伝えました。もう片方には「これは挑みがいのある課題で、あなたには乗り越える力がある。これまでの参加者もよくやってきた」と伝えました。それ以外の条件は同じです。順位の掲示も、ビデオ撮影も、賞金も、両方の群に伝えました。
結果はこうでした。挑戦として伝えられた群のほうが、正確さが高く、感情も良好で、視線の使い方、クラブの動き、筋肉の活動まで、すべて効率的でした。そして分析の結果、群による成績の差を説明していたのは、クラブの動きの変数でした(Moore, Vine, Wilson, & Freeman, 2012b)。
言葉ひとつで、体の動きが変わったわけです。
だから、加圧練習を始めるときの一言は、決めておいてください。
「これは難しいぞ、外すなよ」ではなく、「ここからが面白いところです。準備できたら始めます」
第10章 予告なしの加圧は、効きません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
イギリスの研究チームが、160人を対象に2つの実験をしました。指先でつまむ精密な動きの課題です。参加者には、これから社会的な評価と成績に応じた見返りがある、というストレス場面が来ることを知らせました。
ただし、知らせるタイミングを変えました。早めに知らせる条件と、直前に知らせる条件です。
結果はこうでした。罰への敏感さが高い人は、脅威を早い段階で察知でき、備える時間があったときにだけ、成績が良くなりました。そして、その利点は、有効な対処の手順を実際に使ったことによって支えられている可能性が示されました(Manley, Beattie, Roberts, Lawrence, & Hardy, 2018)。
言い換えます。
同じ性格の人が、予告があれば強くなり、予告がなければ強くなりませんでした。
これは、加圧練習のやり方を根本から決めます。
日本の部活動でよく見る加圧は、たいてい抜き打ちです。「じゃあ、今から全員の前で1本。外したら全員で走る」。これは、いちばん効果が薄い形です。
正しい形は、こうです。
「次のセットから、順位を貼り出します。そのつもりで準備してください。準備の時間を2分とります」
予告する。準備の時間をとる。そのうえで、加圧する。
さらに、もうひとつ。
イタリアの研究チームが、不安の高い人と低い人に、反応課題をやってもらいました。ひとつは、誤りに対して反応に関するフィードバックがある課題。もうひとつは、フィードバックのない課題です。
フィードバックのない課題では、不安の高い群は、動きの準備に関わる脳の活動がほとんど見られず、誤反応も多く、反応も遅くなっていました。ところが、フィードバックのある課題では、これらの活動が高まり、不安の低い群と同じ水準になりました。誤反応の数も、反応の速さも、差がなくなりました(Mussini & Di Russo, 2023)。
不安の高い人は、結果が分からないことに弱いのです。結果がその場で分かるようにすると、戻ります。
だから、加圧練習では、結果をあいまいにしてはいけません。「なんとなく良くなかった」で終わらせてはいけません。何本中何本か、どれだけ寄ったか、その場で数字にします。
第11章 4つの合図――崩れる手前のサイン
加圧を止めるタイミングは、成績では判断できません。成績が落ちたときには、もう遅いからです。
体と言葉に、先にサインが出ます。4つ挙げます。
合図1 握りが強くなる
熟練者の実験で、加圧されたときに握りが弱くなったことを思い出してください。逆に、握りが強くなった選手は、まだ自動になっていません。
見る場所は競技によって違います。ラケット、バット、クラブ、ボール、シャトル。楽器なら、指の付け根と手首です。道具に触れているところが、白くなっていないか。ここを見ます。
合図2 つなぎ目がバラつき、仕上げが固まる
日本の投げの研究が示したパターンです。関節どうしのつなぎ方がバラつき、ボールを離す位置は固定される(Higuchi, 2000)。
現場では、こう見えます。フォームの「途中」が毎回違うのに、「最後」だけ毎回きっちり同じ。フォロースルーだけが妙にきれい。これは、直しにいっている証拠です。
合図3 やることが増える
🟢のときは、選手はほとんど何も考えていません。🔴に入ると、手順が増えます。「肩を落として、あごを引いて、ゆっくり引いて、目線を残して」。
やることが3つ以上言えたら、もう🔴です。
合図4 目が動きすぎる
視線が細かく動きます。ボールとカップ、ボールとカップ、と往復が増えます。
静かな目の訓練を受けなかった群は、加圧されると、視線を止めている時間が短くなりました。訓練を受けた群は、加圧されても視線の長さを保ちました(Moore ほか, 2012a)。
**「見る場所を1か所に決めて、動かさない」ができているかどうか。**ここが分かれ目です。
第12章 ソマリセット法――90秒で🟢に戻します
合図が出たら、加圧を下げて、体から戻します。順番は決まっています。体が先、言葉があとです。
90秒版
吐く息を長くします(20秒)。吸う時間の2倍かけて吐きます。数えなくてかまいません。「吐ききってから吸う」だけを守ります。
足の裏を感じます(20秒)。かかと、母指球、小指球。3点が床にあることを確かめます。体重を、少しだけ前後に動かします。
視野を広げます(20秒)。目の前の一点を見たまま、部屋のはしまで見える範囲を広げます。目は動かしません。広げるだけです。
道具に触れている手をゆるめます(15秒)。一度、いちばん強く握ります。そこから、ゆっくり半分にします。
やることを1つだけ言います(15秒)。「次は、〇〇だけ」。ここで初めて言葉を使います。
10秒版(試合中・レッスン中)
長く吐く(4秒)
足の裏(3秒)
やることを1つ言う(3秒)
順番を変えないでください。言葉から入ると、戻りません。体の状態が整わないうちに意味づけを変えようとしても、うまくいかないことは、緊張の受け取り方の研究でも指摘されています(Sharpe, Leis, Moore, Sharpe, Seymour, Obine, & Poulus, 2024)。
第13章 崩れる前に戻す手順を、練習に組み込みます
多くの現場では、加圧練習は「上げるところ」だけが練習になっています。ここが最大の問題です。
戻すところまでが、練習です。
具体的には、こう組みます。
手順1 予告する(30秒)
「次の10本は、記録して貼り出します。準備の時間を2分とります」
予告と準備の時間が、効果を決めます(Manley ほか, 2018)。
手順2 準備の時間をとる(2分)
この2分で、選手は「やることを1つ」に決めます。指導者は口を出しません。決めたことを、紙かボードに1行書かせます。
手順3 加圧して実施する(10本)
材料は、その日1つだけ足します。今日は「見られる」だけ。次は「比べられる」を足す。その次に「結果がつく」を足す。一度に3つ足しません。
手順4 その場で数字にする(30秒)
何本中何本か、どれだけ寄ったか。あいまいにしません(Mussini & Di Russo, 2023)。
手順5 ソマリセット法で戻す(90秒)
ここを飛ばさないでください。飛ばすと、次のセットに🔴のまま入ります。
手順6 低圧で3本打つ(1分)
これが、いちばん省略されやすく、いちばん大事です。次の章で説明します。
手順7 1行だけ書く(30秒)
「今日、崩れかけたときのサインは、〇〇でした」。感想は書かせません。サインだけ書かせます。
合計、約7分です。1回の練習に、1セットか2セットで十分です。
第14章 加圧のあとに、必ず低圧に戻します
静かな目の訓練の研究には、実験の組み方に、現場がそのまま真似できる工夫があります。
この研究では、参加者は保持テスト、加圧テスト、そしてもう一度保持テスト、という順番で課題を行いました。研究者たちはこれを「保持―加圧―保持」の設計と呼んでいます(Moore ほか, 2012a)。
つまり、加圧のあとに、加圧のない状態をもう一度置いたわけです。
これには、2つの意味があります。
1つは、測る側の意味です。加圧のあとに元の状態に戻れているかどうかが分かります。
もう1つは、選手にとっての意味です。「あの重さのあとでも、自分はふつうに打てる」という経験が、最後に残ります。
加圧練習を、加圧で終わらせると、選手の記憶には「重かった」だけが残ります。これは、次の本番の重さを増やします。
低圧で終わらせると、「重かったけど、戻れた」が残ります。これは、次の本番の重さを減らします。
加圧練習は、必ず低圧の3本で終わります。ここは、例外を作らないでください。
第15章 上げる前に、自動にする
ここまで読んで、「うちの選手はまだ自動になっていない」と感じた方は、順番が正しく見えています。
では、どうすれば自動になるのでしょうか。研究には、2つの手がかりがあります。
手がかり1 動きの中身を言葉にしすぎない
ゴルフのパッティングを使った実験で、32人を、動きの説明を受けながら練習する群と、説明を受けずに練習する群に分けました。
結果として、動きの説明を受けずに身につけた群のほうが、プレッシャーがかかっても成績が崩れにくいという証拠がさらに得られました(Mullen ほか, 2007)。
ただし、この説には反対の証拠もあります。別の研究チームは、同じ形の実験を再現したうえで「プレッシャー下での差は、練習条件とテスト条件の違いで説明できる」と結論づけ、説明の有無が不安への強さを変えるという主張を支持しませんでした(Bright & Freedman, 1998)。
ですから、「説明するな」とまでは言えません。言えるのは、こうです。**加圧を足す日に、動きの説明を足さないでください。**説明の日と、加圧の日を、別の日にします。
手がかり2 見る場所を決める
静かな目の訓練を受けた群は、技術的なコーチングを受けた群と比べて、成績が良く、視線の止まりが長く、クラブの加速が小さく、心拍の落ち着き方が大きく、筋肉の活動が少なくなりました。そして加圧テストでも、その状態を保ちました(Moore ほか, 2012a)。
視線を1か所に置く。それだけで、体の力みまで減ります。
これは、加圧の前にやっておく作業です。加圧してから「集中しろ」と言っても、視線は決まりません。
第16章 やってはいけないこと5つ
その前に、なぜ「やってはいけない」があるのかを、はっきりさせておきます。
応用スポーツ心理学の専門家に面接した研究では、崩れとは単なる成績の低下ではなく、**「ストレス反応が積み重なって大きな成績の低下に至り、その人を心理的に傷つける過程」**だと整理されました。そして、この過程と結果は、競技の種類と個人差によって変わることも示されました(Hill, Hanton, Fleming, & Matthews, 2009)。
**崩れは、その日の記録が悪くなるだけでは終わりません。**加圧練習を雑に扱うと、選手の中に「あの場面の自分」が残ります。だから、以下の5つは守ってください。
1 抜き打ちで加圧する
予告と準備の時間がなければ、効果は出にくくなります(Manley ほか, 2018)。「油断してるやつを試す」は、練習ではありません。
2 加圧と難易度を同時に上げる
評価される圧で誤りが増え、前頭前野が働きすぎたのは、いちばん難しい課題のときだけでした(Ito ほか, 2011)。加圧する日は、いつもの課題でやります。
3 罰を、加圧の中心にする
結果条件は加圧の材料のひとつですが、罰だけに寄せると、選手は「失敗しないこと」を目標に変えます。罰への敏感さが成績にプラスに働くのは、早めに察知でき、対処の手順を使えたときだけです(Manley ほか, 2018)。手順を教えていない罰は、ただの罰です。
4 加圧のまま終わる
「保持―加圧―保持」の順で終わってください(Moore ほか, 2012a)。
5 引きずる選手に、繰り返しだけで対応する
反すうの強い人は、同じストレスを繰り返しても、体の反応が慣れませんでした(Costello ほか, 2025)。この選手には、加圧の回数を増やすのではなく、戻す手順を増やします。
第17章 演奏する人へ――ピアノの実験が示したこと
ここまでスポーツの話をしてきましたが、演奏する人にも、そのまま当てはまります。むしろ、演奏の世界のほうが、加圧の設計が切実です。
東京大学の研究チームが、7人の熟練したピアニストに協力してもらいました。全員が、大学でピアノ演奏を専攻していた人たちです。平均で19.9年、個人レッスンを受けてきました。
条件は2つです。1つは、練習室で1人で弾く条件。もう1つは、およそ46人の聴衆と5人の審査員の前で弾く条件です。
結果はこうでした。聴衆の前で弾いた条件では、主観的な不安が上がり、自律神経の高ぶりが上がり、そして上肢の筋肉の活動が上がりました。研究者たちは、これが演奏の質の低下につながりうると書いています(Yoshie, Kudo, & Ohtsuki, 2009)。
ゴルフの初心者の実験と、まったく同じ形です。力が入り、質が落ちる。
そして、この研究はもうひとつ大事なことを指摘しています。研究者たちは、この結果が「演奏に関連する筋骨格の障害を防ぐうえでも重要な意味を持つ」と書いています。つまり、本番の力みは、けがにもつながるということです。
演奏する人にとって、加圧練習が必要な理由は、もうひとつあります。
63人の演奏に不安を持つ演奏者を対象にした古い研究では、リラクセーションと注意を向ける技術を4週間かけて教えました。全員、主観的な恐れは下がりました。ところが3か月後、恐れが戻ってきた人がいました。恐れが戻った人たちは、そうでない人たちと比べて、追跡期間中に本番をこなした回数が少なかったのです(Craske & Rachman, 1987)。
技術を学んでも、本番の回数が少なければ、恐れは戻ります。
だから、レッスンの中に、小さな本番を作る必要があります。
ピアノ教室での加圧練習(10分版)
予告する。「次に弾く曲は、録音します。あとで聴きます」
準備の時間を1分とる。この間に、「今日この曲でいちばん大事にすること」を1つだけ決めてもらう
通して弾く。止めない
その場で数字にする。「止まった回数は何回でしたか」。上手下手ではなく、回数を数える
ソマリセット法90秒。長く吐く、足の裏、視野を広げる、手をゆるめる
加圧なしで、いちばん好きな8小節だけ弾いて終わる
次の週は、録音に加えて、家族に1人聴いてもらう。その次は、教室の別の生徒に聴いてもらう。材料を1つずつ足していきます。
なお、演奏不安は、決してめずらしいものではありません。職業として演奏している人のうち、16.5パーセントから60パーセントが経験していると報告されています。しかも、助けを求める人はおよそ15パーセントにとどまります(Miley, O'Connor, & Ní Longphuirt, 2024)。
また、3つの群を比べた古典的な研究では、演奏不安がいちばん低かったのは職業演奏家で、いちばん高かったのは学生でした。そして、すべての群で、最悪の事態を思い浮かべる考え方が不安と結びついており、状況を現実的に見積もる考え方は、不安が中くらいの人たちにいちばんよく使われていました(Steptoe & Fidler, 1987)。
**不安が中くらいの人が、いちばん現実的に考えられていた。**これも、🟡がいちばんいい場所だという話と重なります。
第18章 限界を、正直に書きます
この記事の元になっている研究には、限界があります。隠さずに書きます。
限界1 実験室の加圧は、本番より軽い
研究者自身が書いています(Cooke ほか, 2011)。ですから、「加圧練習で崩れなかったから本番も大丈夫」とは言えません。
限界2 順番が固定されていた
熟練者の実験では、低圧・中圧・高圧の順番が固定されていました。研究者たちは「高圧で成績が上がったのは、加圧のせいではなく、学習のせいかもしれない」という可能性を自ら挙げ、参加者が熟練者であることを理由に、その可能性は低いと論じています(Cooke ほか, 2011)。可能性が完全に消えたわけではありません。
限界3 測るものによって、結論が変わる
同じ2011年の実験でも、「カップまでの平均の距離」では成績が上がりましたが、「入った本数」では、はっきりした変化がありませんでした(Cooke ほか, 2011)。2010年の実験は逆で、「入った本数」では下がり、「平均の距離」では変わりませんでした(Cooke ほか, 2010)。
**何を測るかで、結論が変わります。**現場でも、同じことが起きます。数字を1つだけ見て判断しないでください。
限界4 心拍のゆらぎは、あてになりませんでした
両方の実験で、心拍のゆらぎは、努力感が上がっているのに変化しませんでした。研究者たちは「スポーツ中の精神的な努力の指標として、心拍変動を使うことには反対する結果だ」と書いています(Cooke ほか, 2010; Cooke ほか, 2011)。
腕時計の数字で、選手の状態を判断しないでください。
限界5 説明を減らせば強くなる、とは言い切れない
説明なしで身につけた技術がプレッシャーに強い、という主張には、それを支持しない再現研究があります(Bright & Freedman, 1998)。ここは、まだ決着していません。
限界6 課題が違えば、結果も違う
バスケットボールのフリースローで不安を強めた研究では、不安が上がったことは眼圧という別の指標でも確認できたのに、フリースローの成功率そのものには影響が見られませんでした(Vera, Jiménez, Redondo, Madinabeitia, Alarcón López, & Cárdenas, 2019)。
**加圧すれば必ず崩れる、わけではありません。**崩れない選手・崩れない課題も、たくさんあります。
第19章 立場べつ チェックリスト(5立場・25項目)
選手のあなたへ
練習でいちばんうまくいく1本と、いちばん重い1本で、握りの強さが違いませんか
大事な場面で、やることが3つ以上に増えていませんか
「失敗したくない」が出てきたとき、止める合図を決めていますか
終わったあと、頭の中で同じ場面を何度も再生していませんか
加圧された練習のあと、必ず軽い状態に戻してから帰っていますか
指導者のあなたへ
加圧を、予告してから始めていますか
加圧の材料を、一度に1つだけ足していますか
加圧する日に、技術の説明も同時に足していませんか
その場で、結果を数字にしていますか
加圧のあと、低圧で終わらせていますか
保護者のあなたへ
家で「今日は何本入ったの」と結果だけを聞いていませんか
試合の帰りの車で、その日の場面を何度も振り返らせていませんか
「緊張したの」ではなく「どこが固くなった」と聞けていますか
本番の回数が、その子にとって少なすぎないか把握していますか
練習では完璧だ、という言葉を、本人の前でくり返していませんか
演奏する方へ
人の前で通して弾く機会を、月に何回持っていますか
録音を、上手下手ではなく「止まった回数」で見ていますか
本番のあと、必ず好きな数小節を弾いて終えていますか
手首と指の付け根が、本番だけ固くなっていませんか
通し練習の前に、その日の「1つだけ」を決めていますか
働くあなたへ
大事な場面の前に、準備の時間を自分で確保していますか
手順を増やしたくなったときに、減らす合図を持っていますか
結果があいまいなまま終わる仕事が、多くなっていませんか
加圧の高い日のあとに、軽い日を意図的に置いていますか
終わった場面を、何度も再生していないか気づけていますか
第20章 21日プログラム
第1週――見ることに慣れる
1日目 いつもの練習を、1セットだけ録画します。見返しません。録るだけです
2日目 録画を見返します。成績ではなく、握りの強さだけを見ます
3日目 いつもの練習を、誰か1人に見てもらいます。感想はもらいません
4日目 ソマリセット法90秒を、練習の途中で2回はさみます
5日目 「今日崩れかけたときのサイン」を1行だけ書きます
6日目 見てもらう人を2人に増やします
7日目 休みます。振り返りもしません
第2週――比べられることに慣れる
8日目 予告してから、10本の記録をとります。貼り出しはしません
9日目 記録を、自分の過去の記録と並べて書きます
10日目 記録を、1人に見せます
11日目 記録を、チーム内で貼り出します
12日目 貼り出したあと、必ず低圧で3本打って終わります
13日目 予告から実施までの準備の時間を、2分から1分に短くします
14日目 休みます
第3週――結果がつくことに慣れる
15日目 「次の1本が入ったら、今日はここで終わり」という条件を1つ足します
16日目 条件を「入らなかったら、もう1セット」に変えます
17日目 3つの材料を全部足します。ただし1セットだけです
18日目 加圧のあと、ソマリセット法から低圧まで、手順どおりにやります
19日目 加圧セットを2つに増やします。あいだに休みを5分入れます
20日目 予告なしを1回だけ試します。崩れ方を観察するためだけに使います
21日目 いちばん軽い条件で通します。「戻れた」で終わります
第21章 言いかえ20
「本番に強くなれ」→「本番の重さを、今日の練習に少しだけ足します」
「気持ちの問題だ」→「握りの強さを見ます」
「集中しろ」→「見る場所を1か所に決めます」
「落ち着け」→「吐く息を長くします」
「緊張するな」→「緊張したまま、やることを1つに絞ります」
「ドキドキするな」→「ドキドキは、関わっている合図です」
「もっとがんばれ」→「がんばりを、動きではなく狙いに向けます」
「力を抜け」→「一度いちばん強く握って、そこから半分にします」
「なぜできない」→「どこが固くなりましたか」
「練習ではできるのに」→「練習には、まだ足していない材料があります」
「本番だと思って」→「今日足す材料は、これ1つです」
「プレッシャーに勝て」→「🟡で止めて、🔴に入る前に戻します」
「失敗するな」→「失敗しても、戻る手順があります」
「メンタルが弱い」→「まだ、その動きが自動になっていません」
「気合いで乗り切れ」→「予告して、準備の時間をとります」
「厳しくいくぞ」→「材料を1つ足します。順位を貼ります」
「もう1本」→「いまの1本の数字を、先に書きます」
「今日は追い込むぞ」→「今日は加圧の日なので、技術の説明はしません」
「終わり。解散」→「最後に、軽い条件で3本打って終わります」
「あの場面を思い出してみろ」→「あの場面で、体のどこが先に固まりましたか」
第22章 よくある質問 8つ
Q1 何歳から加圧練習をしていいですか
年齢ではなく、その動きが自動になっているかどうかで判断します。自動になっていない動きに加圧すると、初心者の実験と同じことが起きます(Cooke ほか, 2010)。まず、その動きを何も考えずにできるかを確かめてください。
Q2 週に何回やればいいですか
1回か2回で十分です。加圧練習は、量ではなく順番の話です。増やすほど良くなるという根拠はありません。
Q3 加圧しても、うちの選手はまったく崩れません
良いことです。加圧して崩れない選手は、次の段階に進めます。ただし、崩れない課題もあります(Vera ほか, 2019)。課題を変えて確かめてください。
Q4 加圧すると、いつも同じ選手だけが崩れます
その選手は、まだ自動になっていない可能性と、終わったことを引きずりやすい可能性の両方があります。後者なら、加圧の回数を増やしても慣れません(Costello ほか, 2025)。戻す手順の練習を増やしてください。
Q5 罰は、まったく使ってはいけませんか
結果条件そのものは、加圧の材料のひとつです(Baumeister & Showers, 1986)。使ってはいけないのは、予告なしの罰と、手順を教えないままの罰です(Manley ほか, 2018)。
Q6 心拍計を使えば、崩れているかが分かりますか
分かりません。心拍のゆらぎは、努力感が上がっても変化しませんでした(Cooke ほか, 2011)。そして、心拍が上がること自体は成績の低下と結びついていませんでした(Ito ほか, 2011)。数字より、握りと視線を見てください。
Q7 加圧練習をすれば、本番で崩れなくなりますか
そこまでは言えません。実験室の加圧は本番より軽く(Cooke ほか, 2011)、加圧の効果には結論の出ていない部分もあります(Bright & Freedman, 1998)。この記事が言えるのは、崩れ方の癖を、本番より安全な場所で見つけられるということまでです。
Q8 本番前日に、加圧練習をしてもいいですか
すすめません。加圧のあとには戻す時間が必要です。前日は、軽い条件で「戻れる」という経験だけを残してください。
まとめ
同じ課題・同じ加圧で、初心者は崩れ、熟練者は伸びました。分かれ目は性格ではなく、自動化の度合いです(Cooke ほか, 2010; Cooke ほか, 2011)
熟練者で成績を押し上げたのは、努力感と心拍でした。ドキドキそのものは、崩れる合図ではありません(Cooke ほか, 2011)
加圧は3つの材料でできています。見られる・比べられる・結果がつく。1つずつ足します(Baumeister & Showers, 1986)
予告して、準備の時間をとってから加圧します。予告のない加圧は、効きにくくなります(Manley ほか, 2018)
加圧と難易度を、同時に上げません(Ito ほか, 2011)
崩れる合図は、握りの強さ・つなぎ目のバラつきと仕上げの固定・やることの増加・視線の往復です(Higuchi, 2000; Moore ほか, 2012a)
加圧のあとに、必ず低圧で終わります。「重かったけど、戻れた」を最後に残します(Moore ほか, 2012a)
引きずる人には、繰り返しではなく、戻す手順を増やします(Costello ほか, 2025)
演奏する人にとって、本番の回数の少なさは、恐れの戻りにつながります(Craske & Rachman, 1987; Yoshie ほか, 2009)
練習の完璧さは、本番の完璧さを保証しません。保証できるのは、崩れたときに戻れることだけです
参考文献
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Craske, M. G., & Rachman, S. J. (1987). Return of fear: Perceived skill and heart-rate responsivity. British Journal of Clinical Psychology, 26(3), 187–199. doi:10.1111/j.2044-8260.1987.tb01346.x
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