「褒めて伸ばす」が選手を壊していた——7万人を見てきた専門家が明かす、"条件付きの承認"という最悪の指導法
「厳しさ」ではなく「条件付きの承認」が選手を壊す。統制的な指導は自律性・有能感・関係性を阻害し、燃え尽き・活力低下・怒り・いじめを生む。褒め方の落とし穴まで踏み込んだ、指導者と管理職のための組織改革の実践書。
はじめに——「叱っていないのに、選手が壊れていく」現場
ある部活動の指導者から相談を受けました。
「私は殴りません。怒鳴りません。それなのに、去年から3人が辞めました。しかも辞めた子ほど、真面目で、よく練習していた子なんです」
この指導者は、自分では「良い指導者」だと思っていました。実際、暴力も暴言もありませんでした。ただ、ひとつだけクセがありました。
うまくいった日は、たくさん話しかける。ミスした日は、何も言わない。
本人にその自覚はありません。「ミスした子には、そっとしておいてあげよう」という優しさのつもりでした。
しかし選手たちが受け取っていたメッセージは、まったく別のものでした。
「うまくできたときだけ、自分は大事にされる」
これが、この記事のテーマである 「条件付きの承認」 です。
そして、たくさんの研究が示しているのは、この静かな指導法こそが、選手のやる気を奪い、燃え尽きを生み、ときには仲間へのいじめまで生み出す、ということです。
「厳しい指導」は、実は問題の本質ではない
スポーツ心理学の世界では長い間、「自律性支援」——つまり選手の意思を尊重する指導が良い、という研究が積み重ねられてきました。
ところが近年わかってきたのは、もっと重要な事実です。
「自律性支援が少ない」ことと、「統制的である」ことは、別物だということです。
これは、多くの指導者が誤解しているポイントです。
自律性支援が少ない = 選手に選ばせない、理由を説明しない(不足)
統制的 = 選手の心を積極的に押さえつける(攻撃)
たとえるなら、前者は「水をあげ忘れた植物」、後者は「根っこを踏みつけられた植物」です。同じ「元気がない」でも、起きていることがまったく違います。
そして研究が繰り返し示しているのは、心が壊れる原因になるのは、圧倒的に後者だということです。
Hein, Koka, & Hagger(2015)の研究でも、統制的なふるまいと支援的なふるまいの相関はそれほど強くないことが確認されています。つまり、同じ指導者が、同じ日に、支援的にも統制的にもなれるということです。「良い指導者か、悪い指導者か」という二択ではありません。行動の一つひとつが問われているのです。
心には「3つの栄養」がある
自己決定理論という考え方では、人の心には食事のような「必ず必要な栄養」が3つあるとされています。
自律性——自分で決めている、という感覚
有能感——自分はできる、うまくなっている、という感覚
関係性——ここにいていい、受け入れられている、という感覚
ここまでは、聞いたことがある方も多いでしょう。
問題は、その先です。
この3つには、「満たされる」の反対に、「積極的に壊される」という第3の状態があります。研究の言葉では「欲求阻害」と呼ばれます。
自律性の阻害——「こう動けと押しつけられ、自分では何ひとつ決められない」
有能感の阻害——「お前にはできない、と思わされる場面がある」
関係性の阻害——「自分は拒まれている、軽く扱われている」
「満たされていない」と「壊されている」は、まったく違います。
お腹が空いているのと、食べたものを吐かされるくらい違う、と思ってください。
統制的な指導には「4つの顔」がある
統制的な指導を測る国際的な尺度(Controlling Coach Behaviours Scale)では、統制的なふるまいが4つに分けられています。
① 報酬をぶら下げる——「結果を出したらレギュラーにする」
② 条件付きの承認——うまくいったときだけ関心を向け、そうでないときは冷たくする
③ 威圧——怒鳴る、辱める、罰をちらつかせる、人格を攻撃する
④ 過剰な干渉——競技外の生活や自由時間まで管理しようとする
ここまでは無料で公開します。ここから先が、この記事の本題です。
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