Cats Rule the World Ⅳ(Green)
★previous episode
*作者注
前半の冒頭、原案では「11月」です。ピリカしゃんに了承を頂いたうえで、「12月」に変更させてもらいました。4つ繋げる上で、どうしても時間軸の整合性が取れませんでした。実力不足でごめんなさい(๑`→Д←´乂)
【The First Half (written by Prika)】
12月に入ったばかりだというのに、もうクリスマスソングなんて。
「気が早いのよ」
誰にも見えないように、菜穂子はふうっ、とため息をつく。
夕方のスーパーマーケットは、人でごった返していた。皆それぞれ忙しそうで、そして何より充実して幸せそうに見える。
「超目玉商品!小松菜88円」
と書かれた値札がなぜか、隣のほうれん草の方についており、客からクレームが来たとフロアマネージャーからのお叱りを受けたばかり。
「小松菜かほうれん草かなんて、見りゃわかるでしょうよ」
形ばかり、すみませんと頭を下げながら菜穂子は口角を下げる。
ああ、もう心底嫌だ。
このクリスマスソングの浮わついた歌声も、やたら充実感に溢れた買い物客も、毛玉のついたカーディガンに、「安さが自慢です」と書かれたエプロンをつけた私も。
なんか、自分まで安売りされてるみたい。
毎日毎日、おなじことの繰り返しだ。
菜穂子は自分のささくれた指先を見つめる。
9時から17時まで、倉庫とレジを往復して、なんとなく1日が終わる日々。
休みの日も、行くとすれば隣町のちょっとお洒落なスーパーだけ。そこで、うちの店には置いてないグリーンスムージーを買うのがちょっとした楽しみなのだ。
それだけ。
最近はメイクもしなくなった。
どうせマスクで隠れるし、だいたい私の顔なんて誰も見ていないんだから。
客が興味があるのは、20%引きのシールが張ってある商品が、ちゃんとその値段になってるかだけなんだから。
このまま、ぱさぱさに乾いて年老いていくのだろうか。毎年クリスマスソングに苛立ちを感じるおばさんになっていくのだろうか。
いま一番頻繁に着てる服が、この緑のエプロンなんて悲しすぎる。
「おつかれさまでした」
今時あり得ない、昭和感漂うタイムカードを印字し、菜穂子は同僚に声をかける。
ジジジ、と辺りに響く時代錯誤な音で、また憂鬱な気分にさせられた。
「おつかれさま。今日の特売イマイチだったよね。佐々木マネージャー、ありゃ売れ筋を読み間違えたわ。ねえ、そう思わない?まあ、また明日ね」
精肉担当の吉村が割烹着を脱ぎながら声を返す。
また明日。
また明日?
また明日、私はおなじ1日を過ごすんだろうか。野菜を棚にならべ、豆腐と蒟蒻の品出しと発注をし、レジが混めばレジに入る。
気にいらないことがあった客にちくちくと嫌みを言われ、ただすみませんと謝る。
朝から晩まで、うかれたクリスマスソングは流れつづける。
私はずっとここにいる。
ずっといる?
私…
あと何年、ここにいるの?
私には、幸せなクリスマスはもうこないの?
「吉村さん…あの…」
菜穂子の顔は真っ青だ。
目は何かを決意したように、見開かれていて、尋常でないのは見てとれる。
吉村は思わず、一歩後ずさりした。
「ど、どうしたの?菜穂ちゃん」
「ごめんなさい、マネージャーには明日連絡します。私…これもう要らない!」
バタバタと店から出ていく菜穂子が投げ捨てたものは、緑色のエプロンだった。
【The Second Half(written by Mero)】
店を出て、とりあえず近くの公園まで走った。吉村さんは追いかけてきていないようだ。
辺りを見回す。いつもは閑散とした夜の公園にも、煌びやかなイルミネーションが。ここも一足早くクリスマスシーズンをアピールしている。店の中も外も、結局浮かれてる。同じ空間にいるのに、私だけ別世界にいるみたい。いや、いっそのこと別世界に行ってしまってもいい。そこで、イキイキするような日々が送れるなら。
「!!」
「・・・お、菜緒」
「哲也・・・」
「仕事終わりか」
「・・・・・・」
「どうした?何かあったのか?」
「・・・ううん」
哲也に泣き顔を見られたくない。
「・・・・・・なんでも、ないっ」
「おい・・・」
ん?どうしたんだアイツ。今泣いてなかったか。仕事で嫌なことがあったのかな・・・それとも、失恋したとか?いやいや、先月話した時は彼氏はいないって言ってたしな。
幼なじみの涙。何かがタップリあるとしか思わせない「なんでも、ないっ」からの逃亡。このシチュエーション。ここは男として、追いかけていった方が良いのか?思わず2秒程妄想に耽ってしまった。いやいや。馬鹿か俺。菜緒も気にはなるけど、今は健吾とフェイシアのところに向かわねばならんのに。
菜緒には明日連絡してみよう。いや、むしろアイツから「昨日はごめん」ってLINEが来るかもしれないしって、何期待してんだよ、俺。
今の俺は、女より友情を選ぶ。
いや、いつだってそうか。
選択する機会がそもそもないですけど!ってやかましいわ。
とにかく健吾、今助けに行くからな。
無事でいろよ。
******
今度は自宅近くまで走った。哲也もまた、追いかけてこなかった。なんだし。吉村さんは無いとして、哲也だったら追いかけてきて、話を聞いてくれるかも・・・とちょっぴり期待した自分が恥ずかしい。だったら逃げるなよって話だけど。
30過ぎて、お互いフリーだったら結婚しようぜw
・・・何それ。
いやホラ、ぶっちゃけ菜緒は恋愛苦手じゃん?
哲也に言われたくないし。
ま、お互い様だけどwww
哲也、こんな会話したの、全然覚えてないだろうな。
ま、いいや。もうどうでもいい。何もかも。
私はスマホを取り出した。とある禁を破るためだ。「業務に関わることを、SNSで書いてはならない」マネージャーから厳命されていた。でも、周りは結構やってるのを知ってた。私は、ルールを破る人たちを横目に、これまでひとりバカ真面目に、我慢して生きてきた。でも、もう関係ない。やりたいことやろう。後先なんて考えない。もういいんだ。
「何もかも嫌になって、仕事ブッチしてきた。
キリスト教信者でもないのに、みんな浮かれてて、本当バカみたい。
あーあ、もういっそのこと、猫になりたい。
猫になって、自由気ままに暮らしたい」
私のtwitterなんて、誰も興味ないのは分かってるけど。いいんだ。好きなことしよう。どうせクビだ。私の人生、一生懸命頑張ったって、いいことなんて何も起こらないんだ。私を好きな人なんて、1人もいないんだ。いいよ。私もみんなきらいだもん。自暴自棄になってやる。
twitterの送信ボタンを押した直後に、電話が鳴った。
司だ。LINEはくるけど、電話は珍しい。
正直、電話に出られる精神状態ではないけど、司は大事にしないと。私は目を閉じて、2回深呼吸して、緑色の通話ボタンを押した。
「はーい」
「あ、姉貴。ごめん急に」
「珍しいわね。司から電話なんて」
「・・・どうした姉貴?」
「ん?」
「なんか、声に元気がない。具合悪いの?」
「ううん。仕事で疲れただけ」
「毎日おつかれさま」
「ありがと。で、どうしたの?」
「いや、ちょっとお願いごとがあってさ」
「私に?」
「うん。俺、あと1か月ちょっとで大学入学共通テストじゃん?」
「もう1か月か。あっという間だね」
「でさ、生物が足を引っ張ってて」
「そうなんだ」
「この前の模試も、生物だけ酷くてさ。で、姉貴にちょっと教えを請おうと・・・」
「え?私勉強なんて教えらんないよ?」
「あれ?姉貴、前に遺伝超得意だったって言ってなかった?」
「あー遺伝ね!うんうん。遺伝だけはなぜか得意」
「うらやましいな。俺全然ダメなんだよ」
「遺伝のところは、センターでも満点だったよ。他は散々だったけど、高校時代の唯一の自慢笑」
「唯一ってw 姉貴、年末年始実家帰ってくるでしょ?その時にちょっと教えてもらえたら嬉しいかなって」
「あー、年末年始か。今年はどうかなー。ちょっと仕事のシフトが・・・」
ここまで言いかけて、私はハッとなった。
今さっき、自分でシフトを白紙にしてきたんだった。
「そっか。仕事があるなら厳しいか・・・」
「あ、ううん!大丈夫。今年はちゃんと帰るから」
「ホントに!?」
「うん。その時に教えるね」
「ありがとう。お礼は出世払いでいい?」
「いいよそんなの笑 司のためだもん」
「姉貴、俺絶対獣医になるから。獣医として、保護猫活動をして、野良猫のいない世界を作りたいから」
「昔からの司の夢だもんね」
「うん」
私と違って、司は小さいころから優秀だった。何かにつけ比較してくる親は嫌だったが、司本人とはわだかまりはなく、仲がいい。少し歳が離れているせいもあるが、屈託なく接することができる。たとえこんな日でも、司に対しては「優しいお姉ちゃん」として、明るく振る舞っていられる。せめて、私は姉として、少しでも、司の力になりたい。
司の姉であること。これは私に残された、最後のアイデンティティかも知れなかった。
「姉貴前にさ、ペットOKのところに引っ越ししたら、猫飼いたいって言ってたじゃん」
「うん」
「その子が、もし病気やケガをしても、俺が絶対に治すから」
「ありがと。期待してるね笑」
司と話して、ちょっと気持ちが回復した。
そして、私は冷静になった。
そうだよな。衝動的に飛び出して来ちゃったけど、司も受験に向けて日々頑張ってるんだし、姉である私が、こんなことくらいで逃げてちゃダメだ。お金を貯めて、引っ越して、猫を飼おう。将来は、司と一緒に保護猫活動するのもいいな。
マネージャーには、明日謝りに行こう。クビになったらそれまでだけど、もし許してもらえるなら、気持ちを入れ替えてお仕事頑張ろう。あ、でも年末年始は司のために全休させてもらうし、やっぱ切られちゃうかな。ま、ダメならダメで、隣町のスーパーに応募すればいいか。品出しやレジ業務なら、即戦力になれる自信がある。
******
先ほどの愚痴チャットも消去しておかないと思い、菜緒子はtwitterに再度ログインをした。するとそこに、一通のDMが舞い込んでいた。見慣れない赤い猫のキャラクターのアイコンから、メッセージ。
「貴女、猫になりたいの?」
なんだろう。いたずらだろうか。私の呟きに反応してくれたのは間違いないだろうけど。twitterは乗っ取りや詐欺の被害も多い。安易に返事しないほうがいいかと菜緒子は一瞬迷ったが、同時にその赤い猫のアイコンに興味が沸いた。猫好き仲間かも知れない。ちょっと話して、ヤバかったらブロックすればいいか。菜緒子は興味本位で、一旦返事してみることにした。
「はじめまして。どちら様でしょうか。
もしかして、リアルの知り合いですか?」
すぐに返信がきた。
「はじめまして。私はフランボワーズと言います。
貴女、猫になりたいの?」
フランボワーズと名乗ったその赤い猫のアイコンは、さっきの質問を繰り返す。私と同じで、猫になって気ままに暮らしたい勢なのかな?菜緒子は思った。
「はい。出来ることならなってみたいですね笑」
「そう・・・貴女とは気が合いそうね」
******
ピンポーン
「はい」
「須賀哲也だ。約束通り来たぞ」
「どうぞー。鍵は空けておくので、そのまま入ってきてください」
男の声。フェイシアの仲間か?
まあいいや。行けばいるだろう。
エレベーターで17Fに向かう。フェイシア。お前が健吾に何をしているのか、この目でしっかりと確かめさせてもらう。
ティーン
1705は・・・角部屋か。かなり広い部屋のようだな。
「俺、猫になるから」
「は?」
健吾は明らかにおかしくなっていた。あんなヤツじゃない。やっぱり、新興宗教の類なのだろうか。セミナーって感じで誘いかけて、ここで何人も集めて、監禁・洗脳して、食い物にして・・・みたいな感じだろうか。
いや、ここで考えていても仕方がないぞ、俺。
それを確かめるために来たんだろーが。
南無三・・・!
ガチャッ
(ФωФ)ニャーン
!?
け・・・健吾!?お前何だその恰好
「あ、須賀さんですねーお待ちしてました」
「・・・・・・」
「僕はこーたって言います。須賀さんのことは、フェイシアさんから聞いてますんで。とりあえず、上がってください」
「・・・・・・」
(ФωФ)
「おい、健吾・・・おま」
(ФωФ)ブルニャーン
「何だよそれ・・・」
「あ、詳しいことは中で説明するんで、とりあえず上がってもらっていいですかね?」
「フェイシアはどこだ」
「ちょっと出かけてくるって言ってて。須賀さんがいらっしゃるまでには戻ってくるって言ってたんですけどねー。ちょっと手間取っているのかも知れないですねー」
ラジオDJのような、そつのない流れるような会話。
こーた、お前は何者だ。健吾は教育係と言っていたが。
(ФωФ)
「健吾がこんなことになってるのは、あんたの仕業か」
「仕業って言われても・・・僕はフェイシアさんからお願いされただけなんで。あと、ケンゴくんもやる気満々でしたし」
「健吾がこんなこと望むわけないだろ」
「あ、いえ、何かフェイシアさんと約束したからって言ってて。本人も頑張りますってことだったんで、僕も協力させてもらった感じですねー」
(ФωФ)ブルニャーン
「お、ケンゴくんもすっかり猫らしくなりましたね笑」
「ふざけんな!」
(ФωФ) ニャーン・・・
「いい加減にしろ健吾!さっきから何してんだよ。とりあえず立って普通に話せ!あと服着ろ!」
「すみません須賀君。長くなるんで。詳しくは中で説明するんで、上がってもらえないですかね?ドア空いたままだと、部屋寒くなっちゃうんで」
「・・・・・・」
「ケンゴ君も、1回戻ってもらって良いですよー」
(ФωФ)「・・・分かりました!」
!?
何なんだよ。
どうしたんだよ健吾!!
どこ行ったんだよフェイシア!!
そして、こーた!!
お前は一体ナニモンなんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
Continue to the final chapter(Four Colors)
