母のテレビから始まった、水谷豊と歩んだサスペンス
子どものころ、母がよくサスペンスの再放送を見ていました。
最初は「なんか難しそう」と思いながらも、気づいたら隣に座って一緒に見ていた。そんな積み重ねが何年も続いて、気がつけば「刑事サスペンス好き」どころか「サスペンスすぎ」な大人になっていました。我ながら筋金入りです。
刑事貴族から相棒へ——見えてくるキャストの系譜
相棒の前に放送されていた「刑事貴族」を見ていたんですが、放送直後、気づいてしまいました。あれ、このキャスト……相棒にも出てる。
相棒って2000年スタートのシリーズですが、刑事貴族は1990年代。10年越しで受け継がれているキャストの縁に気づくと、なんだか長年サスペンスを見てきた自分へのご褒美みたいな感覚があって、静かにうれしくなります。
そして最新の相棒(season24)を見て、ふと思いをはせていたのが……「地方記者・立花陽介」のことです。
水谷豊という俳優の、サスペンス街道
「地方記者・立花陽介」は1993年から2003年まで、火曜サスペンス劇場で放送されたシリーズ。全20作。主演は水谷豊さんです。
東洋新聞の地方通信局記者・立花陽介が、赴任先で事件に遭遇するたびに解決していくという設定で、新聞記者らしくコツコツと聞き込みや取材で情報を集めていくスタイルが好きでした。
そしてここで面白いのが、立花陽介の妻・久美を演じていたのが森口瑤子さん、ということ。そう、相棒で「こてまり」の女将をやっている、あの森口瑤子さんです。水谷豊×森口瑤子という組み合わせが、時を経て形を変えながら引き継がれている……。こういう発見があるから、長くサスペンスを見続けているのはやめられません。
水谷豊さんのサスペンス史をたどると、こうなります。
浅見光彦ミステリー(1987〜1990年・日本テレビ)
地方記者・立花陽介(1993〜2003年・日本テレビ)
相棒(2000年〜現在・テレビ朝日)
この流れをリアルタイムで追いかけてきた自分は、もはや「水谷豊ウォッチャー歴30年以上」と言っても過言ではないかもしれません。
浅見光彦ミステリー——8作しかないのが不思議なくらい
浅見光彦シリーズといえば、TBS、フジテレビ、テレビ東京など複数の局で競作されている、他のサスペンスとは一線を画すシリーズです。同じキャラクターを複数の局が手がけるというのは、それだけ内田康夫さんの原作世界が豊かで、どの局も「うちでやりたい」となったということ。
その中でも、水谷豊さんが演じた日本テレビ版「浅見光彦ミステリー」(1987〜1990年)は全8作。正直、8作しかないのが不思議なくらいの完成度でした。
その理由は、水谷さんの光彦はもちろんですが、脇を固めるキャストが本当にぴったりだったから。
母・浅見雪江役の乙羽信子さん。口やかましいのに嫌みにならない、光彦を持て余しながらも溺愛しているのが滲み出てくるあの佇まい。
兄・浅見陽一郎役の高橋悦史さん。もともとエリート・知識人的な役が多い方なので、警察庁刑事局長という設定が一切無理なく見える。光彦のことを内心では認めつつ、表向きは「またか」という顔をする余裕が、兄らしくて。
浅見家って「品のある旧家」という設定なので、母も兄も、ただ上手いだけじゃなくて佇まいそのものに格がないと世界観が崩れてしまう。乙羽さんも高橋さんも、その点が本当に上品で、水谷さんの光彦が「チャーミングな次男坊」として成立していたのは、このお二人あってこそだったと思っています。
残念ながら、このシリーズは原作者・内田康夫さんからストップがかかって8作で終了してしまいました。乙羽信子さんも高橋悦史さんも今はもう亡くなられているだけに、あの8作は本当に貴重な記録です。
お約束の、あのシーン
浅見光彦シリーズを語るなら外せないのが、「警察署での身元証明シーン」です。
地元警察に連行されて、散々怪しまれて、しぶしぶ「実は兄が警察庁刑事局長で……」と告げた瞬間、警察官の態度が180度ひっくり返る。平身低頭になる地元のお偉いさんたちの慌てぶりが毎回笑えて、でも何度見ても飽きない。
水谷版はこのシーンのリアクションが特に絶妙で、光彦本人は決して威張らず、ちょっと困ったような、でもちょっと「してやったり」みたいな顔をする。その間が好きでした。水戸黄門の印籠に近い気持ちよさ、とでも言えばいいでしょうか。
シリーズものの「お約束」って、うまく機能すると本当に強いですよね。
沢村一樹さんも、中村俊介さんも——「お坊ちゃん感」の難しさ
TBS版の沢村一樹さんの光彦は、爽やかさの中にちょっとした色気があって、ヒロインが惹かれる理由がとても自然に見えました。フジテレビ版の中村俊介さんはより繊細な感じで、ルポライターとしての知性が前に出ていた印象があります。
どちらも共通していたのが、「お坊ちゃん感」が嫌みにならないこと。
これって実は難しくて、わざとらしくなると途端に鼻につくんですよね。浅見光彦は育ちの良さがにじみ出ているのに憎めない、というキャラクターだから、演じる俳優さんが持っている素の雰囲気がそのまま出る役でもあると思います。
ここで少し驚きの数字をご紹介すると——実は歴代の浅見光彦の中で、最も多く光彦を演じたのは中村俊介さんなんです。フジテレビ版で2003年から2018年まで、なんと16年間・39作にわたって浅見光彦を演じ続けました。
水谷豊さんの8作、辰巳琢郎さんの13作、沢村一樹さんの18作……と比べても、39作というのは圧倒的な数字です。「意外と知られていないけど実は最多出演」というのが、中村俊介さんの浅見光彦。穏やかで品のある佇まいが、これだけ長く愛された理由なのかもしれないですね。
ところで最近の中村俊介さんといえば——金持ちで嫁をいびるモラハラ夫役が増えていませんか?「育ちの良さ」がそのままダークサイドに転換すると、嫌みな上流階級の夫になる、という。あの品の良さが今度は圧迫感に使われているわけで、役者さんって面白いなあと思います。浅見光彦を39作も演じた人が、今やモラハラ夫の常連に……これもまた、長年テレビを見続けてきたからこそ気づける変遷ですね。
粋だな、と思った配役
最後に、長寿シリーズならではのうれしい発見をひとつ。
フジテレビ版で初代・浅見光彦を演じた榎木孝明さんが、テレビ東京の岩田剛典版では兄・陽一郎役として登場しているんです。
かつて光彦だった人が、今度は光彦を見守る兄の側に回る。長年見続けてきたファンへのご褒美みたいな配役で、思わずニヤリとしてしまいました。こういう遊び心に気づけるのも、長くサスペンスを見続けてきたおかげかな、と。
母のテレビの前に座り込んでいた子ども時代から、気づけばずいぶん遠くまで来たものです。
サスペンス沼の住人より、愛を込めて。
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