戦巫女は異世界を舞う 第三話
虎人「オレが相手になるからよう」
アスカ「お前が、首謀者?」
虎人「ああ。虎人のコウガだ。よろしくな。巫女と御子」
アスカ「アスカと」
アユム「アユム」
コウガ「それは失礼した。改めて、勝負を申し込もう」
アスカ「対局条件は?」
コウガ「二人戦」
二人戦。
二人でひとつの将棋を指す。本来将棋は1対1で指すものだが、二人戦は二人で相談して、指し手を決めることができる。
アスカ「承知した。でも良いのか、そちらは一人しかいないようだが?」
コウガ「いや、二人いる」
コウガの影から、研究者風のネズミ男が顔を出す。
コウガ「こいつはハカセ。オレとハカセの二人で指す」
アスカ「わかった」
アユム&アスカ VS コウガ&ハカセ の二人戦。
戦型はコウガ達の先手四間飛車VSアユム達の右四間飛車穴熊。
淡々と駒組が進み、中盤戦に進む。アユム達が仕掛けを模索する場面で、指していたハカセが急に話しかけてきた。
ハカセ「研究者の戯言に、ちょっと付き合ってもらえんかなぁ」
アスカ「なんだよ」
ハカセ「今、将棋が一番強いのは誰だとおもう?」
アスカ「ギョクト巫女だろうな。オウカ巫女も強いけど、今はギョクト巫女が一番だ」
ハカセ「では、そのギョクト巫女が二人いて、二人で対局したら、どっちが勝つ?」
アスカ「先手を持った方。強くなればなるほど、先手と後手の一手の差は大きくなると思う。先手を持った方が7割から8割は勝つんじゃないかな」
ハカセ「なるほど。では視点をかえて、そのギョクト巫女と全人類だったら?」
アスカ「もし仮に、そんなことができるのだとしたら。結構良い勝負するとおもうけどな。それこそ、全人類側が勝っても、おかしくはないかも」
ハカセ「なぜ?」
アスカ「初心者の意見と達人の意見は一致するから。あとは、一人じゃ限界があるものでも、人数が集まればなんとかなることも多いから。質で劣っていても、量で補える気がする」
ハカセ「なるほど。おおむね賛成する」
アスカ「それがどうした?」
ハカセ「いやね。私たちは、私たちの目的達成のために、これから巫女を倒していかないといかないわけだ。そうだとして、どうしたら巫女に勝てるだろうか。ってね。そう思ったんだよ」
アスカ「そんなの考えなくていいよ。オレ達がお前たちを倒す。それでおしまいだから」
ハカセ「はは。まぁそうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。全部、この対局が教えてくれるよ」
アスカ。ハカセの話を変に感じながらも、仕掛けを実行する。互角の捌き愛になれば、穴熊の堅城がある分アスカ達に有利になる。
そのはずだった。
ハカセ達は素直に応じて、互いに相手陣に飛車を下ろした。
アスカM(おかしい。この変化はこちらが良いはずなのに。ずいぶんあっさり応じてきた。──なんとなく、不気味だな)
アスカが警戒してみていると、不意にコウガが頭を押さえて苦しみ出した。その苦しみ方は酒場の時よりも酷かった。
アスカ「あんたの相方。ずいぶん頭がいたそうだが、大丈夫か?」
ハカセ「コウガを苦しませているのは、君たちだよ」
アスカ「ああ。そんなわけないだろ」
ハカセ「いや、そうさ。君たちが強ければ強いほど、コウガは頭痛に苦しむ。そして苦しんだ分だけ、最善手をさせる」
ハカセ、そういって着手する。その指し手に、アスカは言い知れぬ恐ろしさを感じる。
アスカM(指されてみると、確かに嫌な手だ。でも、なんだか気持ち悪い。人が指した手じゃないみたいな)
アスカとアユムの視野と読みの前には、優勢を築くのは簡単ではない。そのはずだった。ハカセの指し手は、段々と形勢を詰めていく。対局場には、駒音と、コウガの苦しむ声だけが響いている。
アスカ「なぁ。あんたの相方、苦しみ方が変だって。対局を止めて、医者に見せに言った方が良いって」
ハカセ「心配無用だ。あれはコウガ自身が選んだ道だ。コウガは苦しんでいるかもしれないが、その苦しみで巫女たちを倒せるなら、あいつにとっては本望なんだ」
アスカ「なぁ、なんであいつが苦しんでいるのか。なんでそっちはそんなに平気でいられるのか、説明してくれよ」
ハカセ「聞きたいか? ならば特別に教えてやろう。コウガは今、一人だけ将棋の新世界にいるんだ」
アスカ「新世界?」
ハカセ「ああ。まだコウガ以外は誰もいない新世界だ。お前さんは、将棋の手を考えるときに、頭の中でどんなことが起こっているか、知っているか? 人は考えるときに、頭のなかに弱い弱い電気が走っている。怒るのも、悲しむのも、他人の心配するのも、将棋の手を読むのも。全部、弱い弱い電気のせいなの。ってことは、その弱い弱い電気を好きなように操作できたら、脳みそって、自由に使えるようになるんじゃないかな。そう思って、コウガの頭のなかには、微弱な電流を流せる装置をつけました。この装置を使えば、頭のなかを自由に使って、将棋を考えることできます。代償は、ひどい頭痛に襲われることですが、巫女に勝てるくらい将棋が強くなるなら、問題ではないですね」
アスカ「なに言ってんだ、あんた」
ハカセ「でもそれだけじゃ、頭を上手に使えるようになっただけ。それだけじゃ、いつか限界が来る。その限界を突破できないと、意味がない。例えば、君たちみたいな、強い巫女に勝てるようになるためにね」
アスカ「……何をしたんだ」
ハカセ「コレ、私が作った記録媒体装置。この小さな箱のなかに、棋譜が10万局登録できるようになっている。これを使って、ありとあらゆる将棋を記憶させていく。人類が指した将棋のすべてを、この装置に覚えさせていくんだ。全人類の将棋をここに納めていく。さて。ここで、自由に使える頭と、全人類の頭脳である棋譜が揃ったわけだ。頭で考えて、困ったときは、この記録媒体装置を図書館みたいに使うわけだ。コウガは将棋に関しては中級者くらいだ。そのゴウガでさえ、巫女2人を相手に互角以上に戦えている。これからの将棋は、今までの将棋では想像もできなかったくらい、進化していくだろう。この一局が、それを証明していく」
形勢はじりじりとコウガ&ハカセ達に傾いていく。受けも、攻めも、疑いようなく最善手しか、指されていない。
コウガの苦しむ声が、一段と大きくなっている。
アユム「ねぇ、アスカ。お願いがあるの」
アスカ「なんだよ?」
アユム「私、コウガさんの姿は見てられない」
アスカ「同感」
アユム「でも、私たちが負けたら、コウガさんはずっと戦わなくちゃいけなくなる。そうすれば、この先ずっと苦しむことになる。だから。勝とう。それが、最終的にコウガさんを救うことになると思うの」
アスカ「そうか。確かにそうだな。──迷いは晴れた。持てる全力でぶつかって行く」
終盤戦。
全力で倒しに行く決意をした巫女御子は、攻めを中心にシフトしていく。穴熊の特権。それは金銀が密集して堅い、ということだけじゃない。王様が遠いことで王手がかからない状況、Z(ぜっと)を作れることにある。王手がかからなければ詰むことは絶対にない。詰むことがなければ、必死をかければ勝ちになる。つまり、勝利の難易度を、一段階も二段階も下げることができる。「攻撃は最大の防御」とはよく言うが、穴熊はその逆だ。「防御は最大の攻撃」なのである。
コウガの読みは精度は終盤になって陰りが見え始めた。頭痛という身体的なダメージが、読みに影響するほど大きくなった。一方で巫女御子達は精度は落ちなかった。むしろ、戦い慣れた局面で読みを絞ることができていた。
最善手の応酬が続いたが、コウガ達の指し手は受けに回ることが多くなった。穴熊相手に、受けの手が最善手になる。それは、形勢が傾いていることを意味する。巫女御子は、王手のかからない穴熊をフル活用して、攻めて攻めて攻め倒した。
コウガの叫びはだんだん小さくなり、最後には辺りは、駒音しか聞こえなくなった。
ハカセ「ここまでか」
そういって、ハカセは駒台のうえの駒をつかみ、盤の上に離した。投了の合図だ。
ハカセ「まぁ、今回は負けてしまったが。良いデータが取れた。それで良しとしよう」
ハカセが立ち上がる。そこで、後ろに倒れているコウガが息をしていないことを確認する。
ハカセ「やれやれ。またやり直しか」
そういうなり、脇に指した鉈包丁を取り出して、コウガの首を切り落とした。その首をもって、アスカたちに言った。
ハカセ「またどこかで会うだろう。その時は、もっと強くなっていてくれよ」
そういって、どこかに消えてしまった。
アユム「これで、終わりなの?」
アスカ「ああ。そうだな」
アスカはそういうと、「クソっ」と宙に毒づいた。
時刻:昼過ぎ
場所:王宮第三会議室
オウカ「任務お疲れさま。南ではなにやら不穏な動きがあったみたいだったけど、君たちの活躍で反乱を鎮圧できた。君たちの、内部での評価はかなり高いものとなった。そこで、君たち二人を新設する精鋭集団に配属することが決定した。巫女の中でも、とびっきりに強い人たちばかりだ。ちょっと個性は強めだけどね。君たちなら、そんな巫女たちの中でもやっていけるはずだ。期待しているよ」
アユム・アスカ「ハイッ」
