《日誌》第164回 みんな苦しい、という値札
昨日、NHKニュースに立ち止まった。
6月に値上げされる食品が、
1000品目を超えるという内容だった。
民間の調査会社、帝国データバンクのまとめによると、
6月に値上げされる食品は1078品目。
7月には、さらに2269品目の値上げが予定されているという。
値上げの理由として挙げられていたのは、
原材料高、物流費、包装資材の上昇。
そして、今回から調査項目に加えられた「中東情勢」も、
値上げ要因として挙がっていた。
記事の中で、特に印象に残ったのは、
都内のアイスクリーム製造会社の話だった。
アイスクリームそのものだけではない。
牛乳などの原材料。
ドライアイス。
紙の容器。
プラスチックの容器。
それらが値上がりし、
ものによっては調達も難しくなっているという。
食品は、中身だけでできているわけではない。
包むものがある。
冷やすものがある。
運ぶ人がいる。
売る場所がある。
それを支える仕組みがある。
そのどこかが詰まれば、最後には値札が上がる。
中東情勢を、私たちがどうにかできるわけではない。
原油価格を動かすこともできない。
ナフサ不足を解決することもできない。
けれど、その影響は、遠い場所で止まってはくれない。
原油が上がり、
ナフサが不足し、
包装資材が上がり、
容器が足りなくなり、
物流費が上がり、
やがて、スーパーや店頭の値札に届く。
遠い世界の出来事が、
近くの値札に変わっていく。
食品メーカーも苦しい。
原材料が上がる。
容器が上がる。
包装資材が上がる。
それでも、何度も簡単に値上げできるわけではない。
物流も苦しい。
燃料費が上がる。
人手も足りない。
鮮度管理や時間指定など、求められる水準は高いままだ。
小売も苦しい。
仕入れ価格は上がる。
けれど、売場では消費者の財布と向き合わなければならない。
高くすれば売れない。
安くすれば利益が削られる。
そして、買う側も苦しい。
食品は、買わないわけにはいかない。
日用品も、電気も、ガスも、交通費も、少しずつ上がっていく。
みんな苦しい。
だから、誰か一人を責める言葉は、簡単には出せない。
企業が値上げするのにも理由がある。
物流費が上がるのにも理由がある。
包装資材が上がるのにも理由がある。
売る側にも、買う側にも、それぞれの事情がある。
けれど、だからといって、
この苦しさが消えるわけでもない。
「仕方がない」
そう言えば、たしかにその通りなのかもしれない。
でも、仕方がないことが積み重なると、
暮らしは少しずつ重くなる。
ひとつひとつの値上げは、数円かもしれない。
数十円かもしれない。
けれど、それが毎日の食品に重なり、
日用品に重なり、光熱費に重なっていく。
気づけば、財布を開くたびに、少し立ち止まるようになる。
買うか。
やめるか。
減らすか。
別のものにするか。
そんな小さな判断が、日々の中に増えていく。
専門家は、買い込みを避け、
必要な時に必要な量を買うことが家計の防衛策だと話していた。
それは、その通りだと思う。
買い占めれば、さらに不足を招く。
不安が不安を呼び、値上がりを加速させることもある。
だからこそ、冷静に買う。
必要なものを、必要な分だけ買う。
無駄を減らす。
優先順位を考える。
それは大切なことだ。
けれど同時に、こうも思う。
必要なものそのものが高くなっていく時、
多めに買うことは悪いことなのか。
私たちは何を削ればよいのだろうか。
贅沢を減らす。
外食を減らす。
買い替えを遅らせる。
省エネを心がける。
できることはある。
でも、どこかで、削るものが暮らしの余白になっていく。
少し楽しみにしていたもの。
少し人にあげようと思っていたもの。
少しだけ楽をするためのもの。
少しだけ気持ちを明るくするもの。
そういうものから、先に削られていく。
値上げのニュースを読むたびに、
数字だけでは見えないものを考える。
1078品目。
2269品目。
9361品目。
数字として見れば、ただの品目数かもしれない。
けれど、その奥には、作る側の苦しさがある。
運ぶ側の苦しさがある。
売る側の苦しさがある。
買う側の苦しさがある。
値札の奥に、いろいろな苦しさが重なっている。
だからこそ、怒りだけでは語れない。
あきらめだけでも語れない。
遠い戦争。
見えない資材。
上がる物流費。
不足する容器。
そして、今日の値札。
世界は、思っている以上につながっている。
そのつながりの最後に、私たちの日々の暮らしがある。
大きな解決策を語れるわけではない。
ただ、ニュースを読んで、立ち止まった。
値上げとは、単に価格が上がることではない。
社会のどこかで起きた苦しさが、
形を変えて、値札にあらわれることなのかもしれない。
みんな苦しい。
その一言で終わらせてはいけないのだろう。
でも、その一言から始めなければ、見えないものもある。
今日も、店頭には値札が並ぶ。
その小さな数字の向こうに、
遠い世界と、近い暮らしがつながっている。

一句
みな苦し 値札の奥に 声がある
