まじょのお庭とひらがなの先生~ひらがな練習帳~
編集画面とプレビュー画面とで行間が異なるので、どの程度行間を空けるのか迷います。
今日もひらがなの練習にお話を書きました。
タイトルが統一されてなかったので直しました。
ひらがな練習帳
『まじょのお庭とひらがなの先生~ひらがな練習帳~』
今日はまわり道をして帰るわ。
前から行ってみたかった町のはずれのあの場所に。
学校から見える、町のはずれにある森の中。
そこだけをかくすように、まあるく木にかこまれた場所があるのよ。
この町の花や木や草は全部調べたけれど、あの場所だけはまだなのよ。
あたしは将来、植物学者になるの。
なにひとつ取りこぼさないように調べなくっちゃ。
森に近づくと、まあるく木にかこまれた場所に、青い屋根が見えたの。
小屋か何かあるみたい。
木の中はつたにかこまれていて、外から中が見えないようになっていたわ。
つたをかきわけて、中を見てみると、
そこは上から太陽の光がそそぎ、手入れの行きとどいた美しくてちいさなお庭があったわ。
あたしの知らない青い花がたくさん咲いていたの。
あたしはもっと見たくて、中に入られる場所をさがしたわ。
すると、つたが消えて、お庭がぜんぶ現れたのよ。
「こんにちは、おじょうさん」
お庭には木のテーブルセットがあって、そこにおばさんが座ってこっちを見ていたわ。
その奥には青い屋根の小屋があったわ。
きっとおばさんはここに住んでいるのね。
「こんにちは、おばさん。すてきなお庭ね、見てもいい?」
「どうぞ」とおばさんがほほえむと、お庭への門が開いたのよ。
やさしそうなおばさんでよかったわ。
あたしはお庭におじゃまして、片っぱしから草木を見てまわったわ。
やはり一番目をひくのは、お庭のいたるところに咲いている青い花かしら。
花だんのところどころには、ねんどで作った動物の像があいきょうのある顔をのぞかせていたわ。
うさぎにねずみにくまの像まで。これもおばさんが作ったのかしら。
「この青い花きれいだわ。図鑑にものっていない、ほんとめずらしい花ね」
「おじょうさんは、お花が好きなのね」
「あたし植物学者になろうと思ってるの」
「それは素晴らしいわ。そうだ、その花で作ったお茶を入れましょう」
おばさんは小屋からお茶とクッキーを持ってきてくれたわ。
なんと青い色のお茶よ。
そしてお茶を飲みながら、たくさんお庭の花の話をしてくれたの。
とても楽しい時間はあっという間にすぎてしまったわ。
「また来てもいい?」
「ええ、いつでも」
次のお天気のよい日に、またおばさんのお庭に行ったわ。
あたしが近づくとつたは消え、門が開いてむかえ入れてくれたの。
おばさんはお庭のテーブルでノートを広げ、字を書いていたわ。
「何を書いているの?」
おばさんは少しはずかしそうに笑って答えてくれた。
「この頃、字を忘れてね。特にひらがなを書き間違えるのよ。
昨日も『ね』と書こうとして『ぬ』と書いてしまってね。
だからこうして、ひらがなを書く練習をして忘れないようにしているの」
あたしはひらめいたわ。
「だったら、あたしがひらがなの先生になってあげるわ」
あたしは学校で誰よりも先に字をおぼえたのよ。
ひらがなだって大得意だもの。
「まあ頼もしいわ。お願いしようかしら」
「そのかわり、おばさんはあたしにこのお庭の植物のこと、もっと教えてくれる?」
「もちろんよ」
こうしてあたしは、ひらがなの先生になったの。
たびたびここにやってきて、おばさんのひらがなの練習につき合ったわ。
お天気のいい日はお庭で、よくない日は小屋の中で。
おばさんはいつも青い色のお茶を出してくれたわ。
あたしはこのお茶が大好きになったの。
だけど、おばさんったら何度練習してもいつも『ね』を『ぬ』とまちがえて書くのよ。
そのたびにおかしくてしょうがないけど、
あたしが笑うと、おばさんも楽しそうだったわ。
ある日、おばさんの小屋の中に入ると、
おばさんは大きななべを火にくべて、何かをくわえ、長い木のぼうでかきまぜていたの。
あまずっぱい香りにさそわれ、なべをのぞくと青い色をしているわ。
いつもの青いお茶ではないようだけど……。
「何を作っているの?」
「薬だよ、気持ちが落ち込んだ時に元気になる薬だよ」
「まあ、おばさんは薬も作れるのね」
おばさんは得意そうな顔で片目をぱちりと閉じたわ。
「町に医者が現れるまでは、私が薬を作っていたんだよ。
今はもう薬を売ることはできないけれど、
作り方を忘れないように、時々こうして作っているのよ」
あたしはひらめいたわ。
「だったら、あたしにも薬の作り方を教えてほしいわ。
あたしも覚えていれば、もしおばさんが忘れても、今度はあたしがおばさんに教えてあげられるもの」
「そうねえ……」
おばさんはゆっくりとあたしの前にしゃがみ込むと、じっとあたしの目を見たの。
おばさんはじめて困った顔していた。
それからやさしい声でこういったのよ。
「おじょうさんが植物学者になったら、私の知ってる薬の作り方を全部教えるわ。
それまではあなたに教えてもらったひらがなで、薬の作り方を忘れないように、しっかりと頭の中に書いておくわね」
おばさんとゆびきりげんまんをしたの。
とても大事なやくそくをしたと思ったわ。
今日はいつもより長くひらがなを教えて、あたしは帰ったわ。
日が落ちてすっかり遅くなってしまったの。
家に帰ると、ドアの前にお母さんがうでを組んで立っていたの。
ひどく怒って、どこにいたのかを問いただしたわ。
ここずっとあたしが学校からまっすぐ帰らなかったことも、気になっていたらしい。
あたしが町はずれの森の中にある小屋で、おばさんにひらがなを教えていると答えたら、お母さんは真っ青になったわ。
「なんてこと!娘がたぶらかされてるわ!」
お母さんは慌ててあたしを部屋に閉じこめ、あたしが出られないように鍵をかけたわ。
部屋の外では大人たちが集まって大さわぎを始めたの。
どんどん人数が増えて、声も大きくなって。
あたしはこわくなってベッドの中でうずくまっていたわ。
次の日の朝、部屋の鍵が開いてお母さんが入ってきた。
「まじょはたいほされたわ。あやしい薬を作っていたのよ。
もうあの小屋には近づいてはいけません」
それを聞いて、あたしは胸がはりさけそうになったわ。
家を出ると学校には行かず、急いでおばさんの所に向かったの。
お庭をかくす、つたは焼き払われてたわ。
おばさんの美しいお庭は踏みつけられ、花もあちこちに散らばっていた。
小屋の中も荒らされ、大きななべは割られてしまっていた。
そしておばさんの姿はどこにもなかったの。
おばさんが作っていた薬のあまずっぱい香りだけがただよっていたわ。
こわくて、おそろしくて、だけど泣き出さないようにこらえたわ。
おばさんの顔を思い出すと、泣いちゃいけない気がしたの。
「どうして、こんなことに」
途方にくれて、ふと机に目をやると、
おばさんがひらがなを書く練習をしていたノートを見つけたわ。
あたしがひらがなを教えていた時、おばさんがいつも開いていたノートよ。ノートを開くと、最後のページにこう書いてあったの。
ぬてるぬずみのぬんどのぞう
おばさんたら何を書こうとしたのかしら。
あたし、おばさんのひらがなの先生なのに、もっとちゃんと書けるように教えてあげたらよかったわ。
いつまでたっても「ね」を「ぬ」って書いてしまうの直らなかったのよ。
まって、ということは──。
「ぬ」を「ね」に直せばいいのかしら。
ぬてるぬずみのぬんどのぞう
ねてるねずみのねんどのぞう?
あたしはお庭に出て、ねんどで作ったねずみの像をさがしたわ。
ねずみの像はたくさんあって、いくつかは割れてしまっていたの。
「いったいどれが、ねてるねずみのねんどの像なのかしら」
花だんからはなれたお庭の片すみに、それは横になって転がっていたわ。
目を閉じた、おなかの大きなねずみの像よ。
それを持ち上げると、その下から手紙が出てきたの。手紙には種も入っていたわ。
手紙にはこう書かれていたの。
みらいの植物学者さん
つぎに会うときまで、この花を育ててふやしてぬ
それではまたぬ
さっきまでのふるえが、背中をたたかれたように一気に飛んでいったわ。
あたしは手紙と種をかばんの一番奥にそっとおしこむと、
ぜんそくりょくで学校に向かったの。
