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#8-3 惑いの始まり|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

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第3話 惑いの始まり


冷たい段差を一つずつ確かめながら降りていく。
行き着く底に、女王が眠るパレスがあるはずだ。

時間の概念のない氷山の内部。その歪んだ空間は、歩いても歩いても、進まない気がしてくる。
世界の中心にそびえる巨大な氷山は、麓から見れば八千メートルを越える。

そのうち、下っているはずのに、上っているような感覚にすらなった。


カツ、カツ、コツ、コツ……


五人の足音は、空洞に反響しあい、どこから聞こえてくるのか分からなくなった。
まるで何人もで歩いているかのようだ。


ふと、タトがつぶやいた。

「あれ、この氷の突起……さっきと同じ…?」


続くミミが笑いながら応じる。

「ほんとだ。つかまりやすい形だよね。で、こっちに大きなつららがあってぇ……あ、同じのあった…」


「まさか。似た景色でしょう?
この階段は一本道よ。私たちは徐々に降りているのよ」

ルリがたしなめつつ、そっと周囲を見渡した…どの氷も同じように見える。


しかし、レイが厳しい表情で足を止めた。

「いや…、念のため印をつけている。ここに、同じものがある……」


指差す先の壁に、レイの杖の打刻印があった。氷の表面に、言霊魔法で刻まれた小さな文字が残っている。


「同じ場所に、戻っている……」


「いつの間に印を!ボク、後ろにいたのに気づかなかったよ。でも…、なぜだろう?」


「そうよ、分かれ道なんてあるはずないわ。壁伝いの階段なのよ?」


ドクン、と嫌な振動が体を走った。


「……」


通ってきた階段を仰ぎ、目で辿る。
分かれ道や不審な箇所は見られない。

頭上には階段が、遥か上空まで進んだ分だけあり、
下を見れば、これから降りる段差が続いている。底は靄で見えない。

足先が急にスーッと冷たくなった。

レイが温度のない声を一拍早くかけた。

「イオ、計算して」

押し黙ったまま、みんながイオを振り返る。
ルリは両腕を強く握った。


「はい。ここまでのデータから算出してみましょう。
歩行速度と体感時間から算出すると、移動距離は二十キロ以上。
螺旋構造から推定すると、百階以上降下している計算です。」

イオが言葉を止めた。

「…ここの時間は特殊に流れているとのこと、食事や排泄が必要ないのもそのためと考えられます。
そのため、基準点がずれています」

そのまま沈黙した。
イオは、確定しない言葉を発するのを好まないのだ。


「ウォールの門をくぐった時点で、違う次元にいるのか…」

レイは顎をつまんだ。

「上の階へ戻って、印を見てくる。皆はここで待っていて」

「ボクも行くよ!」

一人では行かせられないとタトが声を上げた。しかし、レイはタトを気遣って言った。

「いや、タトは休んでいて」



「私が行きましょう」

意外な人物の申し出に、思わずルリがつぶやいた。

「えっ…?イオ……?」

今まで一度も、自分の判断で動いたことがないのに。


「助かるよ、イオ。行こう」

レイは踵を返して皆の横を通り抜けた。


「イオ?!どうして?イオは私と…」

ルリは、レイを追うイオのマントを思わずギュッと掴んだ。

イオはゆっくりと振り向き、

「リスク回避です」

そう短く言うと、荷物を置いてレイの後に続いた。


「私の言う事に従っていたのに…」


階段を上っていく二人の影を、ルリは呆然と見つめていた。



(つづく)


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