#3-3 湿原の灯|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街〜
夜明けとともに、タトとミミは北へ向かった。
フェリサリアの街を大きく迂回し、ぬかるむ湿地へ足を踏み入れる。
その遥か先に、目指す連峰が広がっていた。
地面はひどくぬかるみ、
足を踏み出すたびに泥に沈みそうになる。
「このへん!獣が通った跡がある」
ミミが指さした先には、草がなぎ倒された細い道が続いていた。
「根っこの上を歩くと、沈まないよ」
ぴょん、と木の根から根へと軽やかに跳ねるミミ。
沼地すら、彼女にとっては遊び場のようだった。
タトもその獣道を慎重に進んだ。
「うわっ!」
不意に足をとられ、タトがバランスを崩したその時。
振り返ったミミの耳がぴくりと動き、鼻がひくついた。
「くるよ!」
その一言の直後、
ズバァァン!
黒い巨大な影が沼から飛び出し、ぬめった体をくねらせ、
タトに一直線に向かってくる。
逃げきれない──!
ミミが獣のような姿勢でタトの前に滑り込み、
咆哮とともに、喉の奥から炎を吐き出した。
「グワァァオー!!」
炎は魔獣を包み、巨体は身をよじって水の中へ逃げ込んでいく。
バシャァァァン!!
すさまじい音と泥のしぶきの後、辺りは静まり返った。
「は、初めて見る魔獣だ……引き込まれるところだった……」
ナタを握ったタトの手が震えている。
「あれは野獣ナマズだよ。泥の味がして、おいしくない」
ミミは鼻を鳴らしながら、ぺっと泥を吐いた。
タトは泥と汗をぬぐいながらつぶやく。
「水の中にも危険があるのか……」
「大丈夫!ミミがやっつけてあげるよ!」
ミミは得意そうに、生き生きとタトに笑いかけた。
*
行く手は水に阻まれ、人々がことごとく退けられてきた湿地が、迷路のように広がっていた。
その様々な困難を、ミミは驚くほど軽やかに乗り越えていく。
いったい、何度助けられただろう。
そして、
ミミが火を灯せるということが、どれほどこの旅を救ってきたことか。
冷え込む沼地を火でしのぎ、暖かな食事をつくり、水辺に灯をともす。
もしミミがいなければ、
タトは道に迷い、泥と水に沈み、魔獣に襲われて、
誰にも気づかれずに消えていただろう。
無邪気な少女は、
今やこの旅になくてはならない存在となっていた。
(つづく)
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