見出し画像

#1-7 平凡という名の迷い|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街〜

第7話 平凡という名の迷い

夕方。家に戻ったタトは、庭先でニナとジルに石を見せた。

「これ、変わった石だね。黒いけど、つるつるで…なんだか綺麗。」

ニナが手にとって目を丸くする。 ジルも鏡のように黒く磨かれた石に顔を映していた。

タトは石を素手で触らないように気をつけて受け取った。

「…ボクは、ごく普通の人間なんだ。」

ぽつりとタトはつぶやいた。

「ニナみたいに耐久性の高い布を織る才能もない。ジルみたいに植物を育てて食べ物を作ることもできない。ましてや、魔法も持たない…。」

「教えれば何でもすぐにそつなくできる、器用貧乏ってやつだな」

ジルが笑って言った。

「うん…その通りなんだよ」

「タトは、がんばりやさんだよ!!」

ニナが慌てたように言った。
タトの様子が、いつもと違うことに気づいたのだ。

「何でもできるタトがいて、この街のみんなは助かってるさ。」

ジルの声も、少し真剣になった。

「…うん。ボクも、皆のことが好きだよ。」



少し間をあけてから、タトが続けた。

「……ねえ、ジル。前の吹き下ろしのこと、覚えてる?」

「もちろんさ。あのときは多くの人が死んだ。 傷ついて、いまも起き上がれない者もいる」

「そうだね……。そしてまた、いつ襲ってくるか分からない」

「ああ。でも、仕方ないさ。我々は、できることをするしかない」 

ジルは静かに言った。

タトは、不安そうな顔をしたニナの頭をポンポンと軽く叩き、少し微笑んでから、家に入っていった。




(つづく)


いいなと思ったら応援しよう!

望月むう(ムーン)🐾|物語と思考|物語に浸りたい ここまで読んでくれてありがとう♡