#5-6 穏やかな出迎え|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
第6話 穏やかな出迎え
温厚な笑みをたたえた年配の男性は言った。
「私はここを治めています、モーゼと申します。こちらは妻のラー」
二人は丁寧に一礼した。
「たまに旅人がいらっしゃるんですよ。 一番最近は…十年ほど前だったかしら。ねぇ、あなた?」
ラーが夫に問いかける。
「そうだったな。
さあ、どうぞ楽にしてください」
モーゼはそう促すと、静かに席に着いた。
レイはすぐさま尋ねた。
「それは男性ですか?自信の塔に立ち寄った人かもしれない」
「ええ、男性でしたよ。ですが、すぐに出かけていきました。あまり話せずに残念でした」
「そうね。前のめりの人だったわ。怪我をしていないといいけれど。人生、あんなに急ぐものじゃないわ」
ラーはどこか遠くをみるように話した。
タトは、自分たちがパレスを目指して旅をしてきたことを伝えた。
モーゼとラーは、まるで孫でも見るように、目尻にしわを寄せて、穏やかに頷いて聞いた。
彼らは、何百年も前に地上の街を去り、この地下に都市を築いてきたという。
ラーが説明をする。
「地上は『穢れの地』として伝えられているのよ。私たちは長く地下で暮らしてきたから、外の光や空気は刺激が強すぎるの」
モーゼが指を静かに組んで続けた。
「実際、地上は危険だらけですからね。ここが安住の地なのです」
タトはゆっくりと尋ねた。
「この世界の伝承はご存じでしょうか?氷山の成り立ちや、オリジンについて何かわかりますか?」
「ふむ、伝承ですか…。残念ながら、我々は外の伝承にはあまり詳しくありません。書庫はありますが……」
オリジア石についても、手がかりはないようだった。
モーゼはタトたちに向き直り、静かに説明した。
「我々は、この地に最も安全な都市を作り上げてきました。地下都市の歴史ならたくさんお伝えできます」
ルリが不思議そうに尋ねた。
「そんなに長い間、どのようにこの地下で暮らしていらしたの?この光や、あたたかい空気はなにかしら?」
モーゼは誇らしげに微笑んだ。
「ラー、見せてあげなさい」
彼女は立ち上がるとそっと壁を触る。
「ここは地下水脈を巡らせているの。水の温度を変えることで様々な応用ができるわ」
ラーの周囲の空気が揺らぐ。不思議な力が壁に伝わる。すると、石造りの天井から水がザーッと落ちてきた。
湯気が立ち上り、壁一面をカーテンのように水の流れが覆った。
「これは温水なのよ」
「初めて見ます!あなたは、水の『エレメンタル』なんですね!」
タは、ラーが操る水の魔法に興奮して言った。
モーゼが穏やかに続ける。
「他に、光を操る者もいます。これは私たちの暮らしを清潔に、豊かに保つための技術です。我々には十分なのです」
「色々な食べ物もあるわよ。ミミちゃん、しばらく滞在して、どうぞ試してみて?」
机の軽食を頬張るミミに、ラーが微笑んで語りかけた。
「本当?うん!!」
ミミはしっぽをブンブンと振った。
トは拳を握り、核心へと話を戻した。
「では……この世界が終わりに近づいているのを、ご存知でしょうか?」
モーゼの表情は変わらなかった。
その瞳はあくまで穏やかだ。
「そうですか……。
自然の力が決めたことなら、それもまた、仕方ありませんね」
タトは、無言で視線を落とした。
ここには、水と光のエレメンタルがいる。
他にはない力も、技術もある。
それなのに――本当に彼らは、何も変えようとしないのだろうか。
(つづく)
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