#4-12 出発前の波紋|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街
前回の話
教会塔の跡地で見つかった地下空間。そこには、魂を縛る言霊の魔法が今もなお生きていた。レイは、長の息子ティルを証人として魔術の解除に臨む。ルリの歌声とミミの炎に見送られ、タトの涙とともに、亡霊は静かに姿を消した。
ヴァリスの教会跡に広がる広場で、祭りが開かれた。
亡霊の気配が消えたその場所は、かつてないほど明るく、人々の笑顔があふれていた。
祭りはもちろん、ルリの提案だった。
広場は整えられ、ミミが森から狩ってきた獲物が香ばしく焼かれた。風に乗って、食欲をそそる匂いが広がる。
普段は集まることのない各集落の人々も、この日は多くが顔を出していた。
たくさんの差し入れが机を彩り、子どもたちが走り回る。
ルリの周りには、いつも以上に人だかりができていた。
彼女の歌に合わせて、自然と手拍子や踊りが始まる。
手製の笛を吹く者、鼓を叩く者もいた。
気づけば大きな輪ができて、教会跡の広場は音楽と笑い声であふれていた。
「祭りって…人の心をまとめるものでもあるんだな…」
レイはその様子を見つめ、ぽつりと言った。
「今度ノーレムに帰ったときは、僕もきちんと祭りに参加しようと思うよ」
タトはそんなレイの横顔を見て、ほほ笑んだ。
やがて、祭りの熱気が一段落したころ。
長のヴォルドがゆっくりと広場の中央に立った。
「……さて、今日は、みんなに知らせることがある」
長の声が広場に響き渡った。
「このルリが、他の街から旅をしてきた彼ら『オリジン』と共に、
氷山を目指す旅に出ることになった」
町の人々からどよめきと歓声があがった。
ヴォルドはルリを呼ぶと、手巻きの葉巻を差し出した。
「こいつは、炊くだけで魔獣よけになる。持っていけ。
…おまえには、芯がある」
ルリは一瞬、驚いた顔をした。
けれどすぐに、笑顔でそれを受け取った。
「長…ありがとう」
「よし、みんな!彼らの出発は、三日後だ!」
その声には、以前と違った力があった。
*
その夜。
ルリの家に集まった四人は、それぞれ静かな時間を過ごしていた。
ミミはうとうとし、レイは本を読んでいた。
ふと気づくと、タトはルリと二人、カップを手に向かい合っていた。
「……あら、そんなふうに思ってたの?」
ルリのいたずらっぽい笑顔に、タトはハッと意識を戻した。
何を話していたのか覚えていない。
どうやらアルコールが入っていたようだ。
「それなら、こうしたらどうかしら?」
そう言うとルリは、そっとタトの手を握った。
その手は華奢で柔らかく、確かなぬくもりが伝わってきた。
タトは目を見開き、思わずルリを見た。
「大丈夫、うまくいくわ。タトなら」
そのとき――
「……おい、タトを誘惑するな」
静かで鋭い声が飛んできた。
振り返ると、レイがじっとこちらを見ていた。
「誘惑…?あら、そんなつもりはなかったのだけど」
ルリがくすくすと笑った。
「レイは純粋ね。かわいいわ」
「忠告、したからね」
そう言うと、レイはふいっと横を向いた。
タトは思わずうつむいた。
視線の先の、自分の手を見つめる。皮が厚く、固く、荒れていた。
ルリといると、どこか胸の奥がざわつく。
それが何なのか、タトはまだ、分からずにいた。
(つづく)
〇全話はこちらから
いいなと思ったら応援しよう!
ここまで読んでくれてありがとう♡