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文化祭のクラス動画が消えた!?——企業向けインシデント教育ゲームを情報Ⅰの授業にアレンジする

はじめに:企業向け教材を、生徒が「やばい」と思う場面に置き換える

2026年2月、特定非営利活動法人日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が、セキュリティインシデント対応と報告の重要性を体験的に学べる協力型ボードゲーム「CoRepo」を発売しました(情報漏えいが発生、どう対応して報告する!? JNSAがセキュリティ教育ゲーム「CoRepo」を発売|こどもとIT、2026年2月18日)。参加者はECサイトを運営する会社のセキュリティ担当チームの一員となり、情報漏えいが起きたという設定のなかで、調査や報告、ステークホルダーへの説明を体験します。ゲーム後には振り返り教材で報告力や説明力を学べる仕組みで、企業や教育機関向けの教材として注目されています。

一方で、高校の「情報Ⅰ」の授業でそのまま使うとなると、少しハードルがあるかもしれません。生徒にとって「企業のセキュリティ担当」は遠い存在で、「情報漏えい」も他人事に感じられがちです。そこで考えたいのは、同じ学びの要素(ログ確認、事実と推測の区別、報告、優先順位づけ)を、生徒自身が当事者として「やばい!」と冷や汗をかくシナリオに置き換えること。本記事では、CoRepoのニュースをきっかけに、情報Ⅰの授業で使うときのアレンジ案を、一つのシナリオとしてまとめます。まず、舞台をどこに置くか——そこが、生徒が「やばい」と思うかどうかの分かれ目になります。


なぜ「文化祭」なのか——身近だから、情報の扱いが切実になる

生徒がリアリティを感じやすく、かつ情報インシデントが起きやすい場面として、文化祭(または修学旅行)の準備期間を舞台にしてみるのはどうでしょうか。クラス全員で作り上げてきたものが、ある朝「消えた」「流出した」となったとき、担任に言うか言わないか、誰が原因か、どう報告するか——その判断の重さが、そのまま情報Ⅰで扱う「セキュリティ」「情報の信頼性」「伝達」の学びにつながります。

そこで、次のようなシナリオを提案します。

「文化祭のクラス動画が消えた!? 〜犯人はクラスメイト?〜」

文化祭の3日前。クラス全員で編集してきた「クラス動画」(劇やダンスの編集版)のデータが、共有フォルダから突然消えている。あるいは流出したかもしれない。担任にバレると出し物中止もあり得る状況のなか、生徒たちだけで原因を特定し、どう動くかを決めていく——という設定です。ここでは「大人(先生)に言う・言わない」の葛藤や、「誰が最後に触った?」という疑心暗鬼が自然に生まれ、情報の精査や報告の仕方が、テストのためではなく自分ごととして問われることになります。

授業で使うときの目安として、1チーム4〜7人、ゲーム部分と振り返りをあわせて2時限(各50分)を想定すると組み立てやすいです。1時限目でシナリオ説明・役割配布・情報カードの開示と議論・アクション選択まで行い、2時限目で結果の開示・振り返り・担任への報告文づくり、という流れにすると、情報Ⅰの単元のなかに収めやすくなります。クラス人数が多ければ、複数チームに分けて同時進行し、最後に全体で「どのチームがどう動いたか」を共有する形も可能です。舞台が決まったら、次は「誰が、どんな気持ちで動くか」を決めていきましょう。


役割を「クラスによくいるキャラ」にする——利害がぶつかると、判断が学びになる

CoRepoでは企業の役職に近い役割分担がありますが、授業用にはクラス内の立ち位置(スタンス)で役割を分けると、生徒が入り込みやすくなります。

リーダー(実行委員)は、文化祭を成功させたい一方で、担任に報告して中止になるのが怖い。「なんとか自分たちで復旧できないか?」と考えがちです。クリエイター(動画編集担当)は、自分の作品を守りたい気持ちが強く、技術に詳しい。バックアップの有無やログ(履歴)の見方を知っている、クラスで唯一の存在かもしれません。インフルエンサー(広報・SNS担当)は、クラスの評判を守りたい、あるいはバズらせたいという動機を持ち、うっかり公式インスタに「動画消えたw」と投稿しそうになる——情報漏えいのリスクを体感する役割です。うっかり屋(ログイン情報を漏らしたかも?)は、自分のミスだとバレたくないあまり、情報を隠そうとしたり、「昨日はログインしてない」と嘘をつくかもしれない。ここで「証言の信頼性をどう検証するか」が問われます。一般生徒(冷静なツッコミ役)は、早く帰りたい、トラブルに巻き込まれたくないというスタンスで、「それ、証拠あるの?」「先生に言った方が早くない?」と客観的な事実確認を促す存在です。

職務上の役割ではなく「クラスによくいるキャラ」にすることで、利害対立が自然に生まれ、どの情報を信じ、どう報告するかという判断が、ゲームの中心に据えられます。

進め方のポイントは、次のとおりです。まず、役割はカードにしておくと、生徒が「自分はいまこの立場」と意識しやすくなります。カードには、役割名のほかに「あなたの目的」「あなたが大切にしたいこと」「ゲーム中に心がけること」を1〜2行ずつ書いておきます。例えばリーダーなら「文化祭を成功させたい」「担任に言うと中止になるかもしれないので、自分たちでなんとかしたい」といった文言です。配布は、チーム内でくじ引きにするか、先生がランダムに配るか、どちらでも構いません。重要なのは、役割によって「言いたいこと」が違うことを最初に伝えておくことです。「このゲームでは、全員が同じ答えを目指すのではなく、自分の役割の立場で発言してよい。そのうえで、チームとしてどうするかを決めていく」と説明すると、議論が活性化しやすくなります。また、役割が5つで人数が足りない場合は、一般生徒を2人にする、逆に人数が多い場合はリーダーと副リーダーに分けるなど、クラスサイズに合わせて調整してください。では、その判断を迫る「事件」は、どんなものにすればよいでしょうか。


扱うインシデントを「あるある」に寄せる——ヒューマンエラーと悪意の境界

企業向けでは「サイバー攻撃」や「大規模な情報漏えい」が題材になりがちです。授業では、ヒューマンエラーと悪意の境界線を扱うほうが、生徒の「あるある」に刺さります。

例えば、共有Googleドライブから動画ファイルが消えている。クラスの公式インスタに、編集中の「変顔NGシーン」が勝手にアップされた。知らないアカウントがグループLINEに入ってきている——といった事件カードにすると、「自分たちのクラスでも起こりそう」と感じやすくなります。ここから、パスワード管理、共有設定、ログの見方、誰にどこまで伝えるかといった、情報Ⅰで扱うセキュリティ・モラル・伝達の要素が、自然に議論の対象になります。

事件カードの作り方と使い方を、もう少し具体的に書きます。事件そのもの(「動画が消えた」「NGシーンがアップされた」など)は1枚の「メイン事件カード」としゲーム開始時に全員に共通で提示します。そのうえで、原因や経緯に関わる「情報カード」を複数枚用意し、ゲーム中に少しずつ開示していく形にすると、生徒が「次は何がわかる?」と期待しながら調査する流れになります。情報カードには、事実・証言・噂のいずれかを裏面または隅にラベルで書いておくと、振り返りのときに「何が事実で何が推測だったか」を議論しやすくなります。事実カードは「ログに〇時〇分のアクセス記録がある」「共有設定は編集可能だった」のように、確認できる内容にします。証言カードは「〇〇さんが昨日カフェで作業してた」のように、誰かが言った情報にします。噂カードは「隣のクラスがパクろうとしてるらしい」のように、出所がはっきりしない情報にします。各タイプを2〜3枚ずつ、合計6〜9枚程度用意し、最初に2枚、議論のあとで2枚、アクションを決める前に残りを開示する、といった段階的な開示にすると、授業のリズムが取りやすくなります。事件が決まったら、もう一つだけ決めておきたいことがあります。ゲームの「勝ち」を、どう定義するかです。


勝利条件を「二重」にする——実務と人間関係の両方を守れるか

ゲームのゴールを、「トラブルを解決する」だけにしないのがポイントです。

勝利条件A(実務)は、動画を復旧させる、あるいは流出を止めること。勝利条件B(人間関係)は、「犯人探し」でクラスを崩壊させないこと。ここに、情報Ⅰで大切にしたい「事実と推測を分ける」というスキルを組み込みます。「あいつが犯人だ!」という推測だけで動くと人間関係スコアが下がり、「ログにアクセス記録がある」という事実に基づいて動くとスコアが上がる、といったルールにすると、情報の信憑性や証拠の扱いが、ゲームの勝敗と直結します。結果として、事実確認の大切さや、推測で人を責めない姿勢が、体験を通じて学べるようになります。

スコアの付け方を運用レベルで書いておきます。実務スコアと人間関係スコアを、それぞれ0〜10点など、簡単な段階でよいので事前に基準を決めておきます。実務スコアは、選んだアクションの結果(復旧したか、流出を止められたか、あるいは隠蔽やSNS拡散で事態が悪化したか)に応じて、先生または進行役が付与します。人間関係スコアは、「特定の生徒を犯人だと決めつける発言をしたか」「事実(ログや記録)に基づいて議論したか」「推測と事実を分けて説明したか」を、振り返り時に生徒同士で話し合い、自己評価や相互評価で付ける方法がおすすめです。最初に生徒へ「このゲームでは、実務を解決することと、クラスの空気を壊さないことの両方が評価されます」と伝え、二つの軸があることを意識させておくと、議論の質が変わります。シナリオも役割も勝利条件もそろったら、あとは授業のなかでどう流すか。一つのイメージをお伝えします。


授業展開のイメージ——生徒が主役で、先生は「ユーザー」役に

ここからは、1時限(50分)を想定した流れを、段階ごとに書きます。事前に、シナリオ説明用のスライドまたはプリント、役割カード、情報カード(事実・証言・噂のラベル付き)、アクション選択肢カード、各アクションの結果カード(良い結末・バッドエンド)を用意しておくとスムーズです。

導入(5分程度)では、先生が状況を一言で提示します。台本の例は次のとおりです。「みなさんは、文化祭の実行委員や編集担当をしているクラスの一員です。今日は文化祭の3日前。朝、編集担当の人が共有フォルダを開いたら、クラス動画のデータが空っぽになっていました。バックアップを探しましたが、見つかりません。担任の先生はまだ知りません。このままでは出し物ができません。さあ、あなたたちのチームで、どうするか話し合って決めてください」。ここで、役割カードを配り、「いまから配るカードの立場で発言してよい。チームとして一つの結論を出してほしい」と伝えます。没入感を高めたい場合は、教室の照明を少し落とす、タイマーで「〇分以内に決めて」と制限時間を設けるといった工夫も有効です。

調査(15〜20分程度)では、情報カードを段階的に渡していきます。まずメイン事件カード(動画が消えた)を全員で確認したうえで、最初の2枚の情報カードを配布します。カードの内容は、生徒の日常に近い形にするとよいです。例えば、LINEのトーク風に「昨夜23:00に『Guest』でログインした履歴があるよ(編集担当より)」と書いた事実カード、あるいは「〇〇さん、昨日カフェでフリーWi-Fi使って作業してたって言ってた」という証言カードです。生徒には「この2枚を踏まえて、何が言えるか、何がまだわからないかをチームで話し合ってください」と指示し、5分ほど議論させます。その後、2枚目を追加で配り、同様に議論。最後に残りのカードをまとめて開示し、「ここまでの情報で、チームとしてどう動くか決めてください」と告げます。このあいだ、先生は各チームを巡回し、役割によって意見が分かれているか、事実と噂を混同していないかを軽く見守ります。口出ししすぎず、「これは事実? 誰が言った情報?」と問い返す程度に留めると、生徒主体の議論が続きます。

アクション選択(10〜15分程度)では、用意しておいた選択肢カードを並べ、チームで一つを選ばせます。例としては、次の四つです。(1)先生には黙って、今夜みんなで徹夜して作り直す。(2)パスワードを変えて、アクセスした人を特定してから動く。(3)担任に「データが消えました。原因を調べています」と正直に報告し、指示を仰ぐ。(4)SNSで「文化祭の動画データ消えた。復元方法知ってる人いたら教えて」と投稿して助けを求める。選んだら、その選択肢に応じた結果カードを先生が読み上げます。(1)は「なんとか作り直したが、本番で不具合が出た」など中間的な結果、(3)は「担任が業者に相談し、一部復旧できた」など良い結末、(4)は「投稿から学校名が特定され、炎上した」というバッドエンド、(2)を「犯人決め」に走らせた場合は「のちにシステム不具合と判明し、疑われた生徒が傷ついた」というバッドエンド、といった具合です。結果を聞いたあと、「なぜその結果になったと思うか」「事実と推測を分けて動いていたか」を短く問いかけると、振り返りへの布石になります。1時限目はここで終了し、「次回、今日の選択を踏まえて、担任に報告する文章を書いてもらいます」と予告しておくと、2時限目への接続がスムーズです。

2時限目では、振り返り(10分程度)で「何が事実で、何が証言や噂だったか」「どの選択がなぜ良かった・危なかったか」を全体またはチーム内で共有し、そのあと報告文づくり(25〜30分程度)に進みます。ワークシートの三つの欄(Fact / Unknown / Action)を埋めさせ、余裕があれば担任役の先生とのやりとりや、隣のチームとの報告文の比較まで行うと、伝達の違いが実感しやすくなります。ゲームのなかで「担任に言う・言わない」が話題になっていれば、そこで自然と浮かぶ問いがあります。言うなら、どう言うか。ここが、情報Ⅰの「伝達」の学びに直結する部分です。


「報告」を「担任への説明」に変える——怒られないために、ロジックを組む

CoRepoでは報告書の書き方を学びますが、授業では固い報告書ではなく、「担任の先生に、この状況をどう説明して、どう助けてもらうか」という文章づくりにすると、生徒が必死で考えます。怒られないために、あるいは最小限の被害で収拾するために、自然と「事実の整理」「優先順位づけ」「相手に応じた伝達」という高度な情報処理をすることになるからです。

課題の形と進め方を、もう少し丁寧に書きます。ワークシートには、三つの欄を設けます。今起きていること(Fact)——動画が消えた。いつ気づいたか。共有フォルダのアクセス履歴でわかっていること(例:昨夜23時に「Guest」のアクセスがあった)など、確認できる事実だけを書く欄。まだ分からないこと(Unknown)——誰がアクセスしたか、意図的なのか不具合なのか、復旧できるかなど、現時点では断定できないことを書く欄。先生へのお願い(Action)——締め切りを1日延ばしてほしい、業者に復旧を依頼していいか、など、担任にどう動いてほしいかを書く欄です。生徒には「ゲームで起きた状況を、担任の先生に伝えるつもりで、この三つを埋めてください。先生が動きやすいように、事実と未確定なことを分けて書くこと。お願いは、具体的に一つか二つに絞ること」と指示します。個人で書かせても、同じチームで相談して一つの報告文にまとめさせてもよいです。個人の場合は「自分の役割の立場で書いてよい」とすると、リーダーなら中止を避けたい、一般生徒なら早く解決してほしい、といった違いが出て、比較がおもしろくなります。

担任役の受け答えを先生が用意しておくと、リアリティが増します。例えば、生徒が「Fact / Unknown / Action」を読み上げたら、担任役の先生が「誰がやったか、まだわからないんだね。こっちで業者に相談してみる。締め切りは1日延ばすから、そのあいだにできる範囲でバックアップの確認もしておいて」と返す、といった短いやりとりです。振り返りでは「事実だけを先に伝えたほうが、先生も動きやすかったか」「推測を混ぜて言うと、何が問題だったか」を話し合うと、情報の伝達のポイントが整理されます。この「Fact / Unknown / Action」の枠組みは、企業のインシデント報告でも使われる考え方に近く、情報Ⅰの「情報の伝達」や「問題解決の手順」ともつながります。先生役はユーザー(担任)の一人だけにして、生徒には「先生にどう報告すれば、怒られずに、あるいは最小限の被害で事態を収拾できるか?」というミッションを与える——そんな設計にすると、報告の必要性がリアルに伝わります。評価の観点としては、事実と未確定なことを区別して書けているか、お願いが具体的か、相手(担任)が動きやすい順序で書けているかを見ると、情報Ⅰの観点と整合します。ここまで、舞台の選び方、役割、事件、勝利条件、授業の流れ、報告の形と、アレンジのポイントを一通り見てきました。最後に、全体をひとまとめにしておきましょう。


まとめ:やることは同じ。舞台を「文化祭」に変えるだけで、生徒の目の色が変わる

企業のインシデント対応で求められることは、ログの確認、事実と推測の区別、適切な報告、優先順位づけです。それを「文化祭のクラス動画が消えた」という舞台に読み替えると、やることはほぼ同じなのに、生徒は当事者として「やばい、どうしよう」と冷や汗をかきながら考えます。情報Ⅰで扱うセキュリティ・情報の信頼性・伝達が、テストのための知識ではなく、自分たちの文化祭を守るためのスキルとして位置づくのです。

JNSAのCoRepoは、ゲーム後に公式サイトの教材で振り返りができる点も強みです(CoRepo情報漏えいが発生、どう対応して報告する!? JNSAがセキュリティ教育ゲーム「CoRepo」を発売)。授業では、本製品のカードやルールをベースにしつつ、シナリオと役割を「文化祭版」にアレンジする、あるいは文化祭シナリオ用のカードを自作する——いずれの形でも、生徒が「自分ごと」として情報の扱いと報告の重要性を学べる授業づくりの参考にしていただければ幸いです。筆者のnotemhamadajpでは、AIと一緒に作る時代の学び「違和感を言葉にする」が、AI時代の学びの核になるなど、情報や判断力・伝達を扱う記事も公開しています。あわせて読んでいただくと、情報Ⅰや探究の文脈がよりつかみやすくなると思います。


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作成日: 2026年2月25日

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