生成AIの授業実践は、もう「特別な学校だけの話」ではない:飯山満中の事例から見える、学校で無理なく始めるヒント
はじめに:「やってみたい」と思える実践が、公立中にもある
生成AIを授業で使う——そう聞くと、まだ多くの先生が少し身構えるかもしれません。
「本当に学力につながるのか」「答えをAIに聞くだけにならないか」「ICTが得意な先生しかできないのではないか」。こうした不安はもっともです。
けれども、千葉県船橋市立飯山満中学校の実践を見ると、生成AI活用の出発点は決して派手なものではありません。大切なのは、AIを「答えを出す機械」として使うのではなく、「考えるきっかけをつくる道具」として位置づけていることです。同校は2023年10月、文部科学省のリーディングDXスクール事業パイロット校に指定されたことを機に生成AIを授業に導入し、数学・体育・英語・理科などで実際に使われている様子が、チイコミ!の記事で紹介されています。
参照:公立中学校で生成AIを授業で使用 船橋市立飯山満中学校の活用事例|チイコミ!by ちいき新聞
この記事では、飯山満中の事例のよさと、他の学校の先生が取り入れやすいポイント、そして「もっとよくなる」改善のヒントまでを整理しました。「うちではまだ無理そう」と感じる先生にも、「これならやってみたい」と思ってもらえるような内容を心がけています。
ではまず、この実践のどこに価値があるのかから見ていきましょう。
この実践のよさはどこにあるのか——AIを「疑う」ことを学びの中心に

取材された数学の授業では、教員が生成AIで「間違った図形の証明」を作り、生徒がその誤りを見つけて直す、という課題が設定されていました。
ここがとても重要です。この課題は、最初からAIを疑うことを学びの中心に置いています。
ふだん、生成AIを授業に入れると「便利に答えを出してくれるもの」として扱われがちです。しかしこの授業では逆に、「AIは間違う。だからこそ、自分で考える必要がある」という姿勢を、生徒に自然に体験させています。加えて、授業の進め方にも特徴があります。ただ先生が一斉に説明するのではなく、難易度の異なる問題を用意し、生徒が自分で問題を選び、ペアで相談し、AIにはヒントだけを出させ、最後に「AIを疑う」ことを言葉でも確認する——という流れになっており、よく設計されています。単なる「ChatGPTを使った授業」ではなく、生徒の自己選択・対話・試行錯誤・吟味を促す授業設計になっている点に価値があります。
記事によれば、この課題では生成AIに答えを尋ねても絶対に教えないように、あらかじめ設定されていたそうです。つまり、「AIに聞けば正解がもらえる」という使い方ではなく、「AIはヒント役。考えて判断するのは自分」という前提が、仕組みとして組み込まれているのです。
こうした実践のよさを踏まえると、「自分たちの学校でも取り入れるなら、どこから手を付ければよいか」が気になってきます。次に、すぐに真似しやすいポイントを三つに絞ってお伝えします。
他の先生が取り入れるなら、まず何を真似するとよいか

この実践から、すぐに真似しやすいポイントは三つあります。
1. AIに「正解を言わせない」設計にする
授業で生成AIを使うとき、最も大きな不安は「生徒が答えだけを聞いて終わること」です。飯山満中の事例では、AIに答えを教えない設定が入っていました。これはとても参考になります。
同じような設定が難しくても、授業の課題そのものを工夫すれば、近いことはできます。たとえば、数学なら「AIが作った間違った証明の、誤っている箇所を一つ指摘し、正しく直した文を書く」。国語なら「AIに要約させたあと、元の文章で大事なのに抜けている論点を挙げさせる」。理科なら「AIに実験結果の解釈をいくつか出させ、どれが妥当か理由をつけて選ばせる」。英語なら「AIが英訳した文と自分で書いた文を比べ、違いと理由を一言で説明させる」——といったように、教科と単元に合わせて「間違い探し」「理由の説明」「複数案の比較」「AI説明の不十分さの指摘」のどれかを組み込めば、答えの丸写しでは済みません。大事なのは「AIを使うこと」ではなく、AIを使ってもなお、生徒が考えなければ進めない問いを作ることです。
二つ目は、授業の「盛り上がり」の先まで見ておくことです。
2. 「主体的に見える」だけで終わらせず、何が深まったかを見る
記事のなかでは、生徒が主体的に学習に取り組んでいるように感じる、という先生方の実感が語られていました。これは確かに大事です。
ただ、一歩進めるなら、「活発だった」ことと「学びが深まった」ことは同じではない、という視点も持っておくと、実践はさらに強くなります。そのために、授業の最後に一言メモやふりかえり用紙を渡して、「今日気づいた誤りはどこだったか」「AIのヒントで役に立ったのはどこまでか、役に立たなかったのはなぜか」「自分だけで解いたときと比べて、考え方にどんな違いがあったか」を書かせてみるだけでも、授業の質は上がります。記述は1〜2行でよく、「誤りは『仮定と結論が逆だった』」「ヒントは『合同条件を思い出して』までで、その先は自分で考えた」といった具体が書けていれば、理解・判断・説明のどこが深まったかを後から確認できます。生成AIの授業は「盛り上がった」「使えていた」で評価されがちですが、本当に見たいのは、生徒の理解・判断・説明の質がどう変わったかです。
三つ目は、AIの「使い方」とあわせて、「付き合い方」も伝えておくことです。
3. AI活用と同時に「距離感」も教える
記事では、授業の最後に先生が「生成AIも間違う」「正しく使うとは、ちゃんと疑えること」と話していました。ここは非常に大切な場面です。
今の生徒たちは、AIを勉強だけでなく、悩み相談や日常的な調べものにも使い始めています。だからこそ学校で必要なのは、単に「便利な使い方」を教えることではありません。授業のなかで、具体的な声かけをしてあげると伝わりやすくなります。たとえば「AIの説明を写す前に、教科書の該当ページで本当にそう書いてあるか、一行でいいから確認しよう」「今日の課題では、AIはヒントまで。『この条件を使うとどうなる?』と聞くのはOK、『答えを教えて』と聞くのはNGにしている理由を、隣の人と一言話してみよう」「AIが言っていることが正しそうか、自分で図や式を一つ書いて確かめてから次に進もう」——といったように、どこまで信用するか、何を自分で確かめるか、どんな聞き方はしないか、最後に判断するのは誰かを、場面に合わせて言葉にします。これは情報モラルの話でもあり、学習観の話でもあります。AIを使う授業は、AIとの付き合い方を学ぶ授業でもある、という意識が役に立ちます。
ここまで「真似するポイント」を見てきました。同じ実践を、さらに一歩先へ進めるなら、どんな工夫が考えられるでしょうか。次は、すでに優れているこの実践を、あえて「もっとよくする」視点で見直してみます。
さらに改善すると、もっとよくなる点
この実践はすでに優れていますが、さらによくする余地もあります。
改善1. 「AIに聞く前に自分で考える時間」を明確に分ける
多くの生徒がAIにヒントをもらいながら解いていた、という点は便利さの表れでもあります。一方で、考え始める前にすぐAIに頼る習慣がついてしまう可能性も、少し気になるところです。
そこでおすすめなのは、授業のなかで時間と手順をはっきり区切ることです。たとえば「この課題は、最初の5分は端末を閉じてノートだけ。自分でどこがおかしいか、方針を一行でいいから書いてから開いてね」「その次の5分は隣同士で相談。ここまでで気づいたことを共有してから、まだ詰まっていたらAIに『ヒントだけ』と注文して聞く」「最後の5分は、AIが言ったヒントが本当に正しいか、図や式で一つ確かめてから提出」——のように、「自力→ペア→AI→検証」の順を先生が口頭で示したり、スライドやワークシートに書いておいたりするだけでも、AIは「最初に聞く相手」ではなく思考を支える補助役になります。この考え方は、別記事「「すぐAIに聞く子」を止める前に、学校が考えたいこと」で扱った、使ったときに何が学びとして残るかの設計ともつながります。
同じ「ヒント」でも、質によって学びの深さが変わります。そこを生徒と一緒に考えてみるのが、次の改善のポイントです。
改善2. AIの「よいヒント」と「よくないヒント」を比較する
生徒はAIからヒントをもらうことには慣れていきます。しかし、「どんなヒントが学びを助け、どんなヒントが考える力を奪うのか」を自覚するところまで行けると、活用の質が一段上がります。
たとえば数学の図形の証明なら、先生が事前に四種類の「ヒント」を用意します。「この図で、まだ使っていない条件はどれかな?」(自分で続きを考えたくなるヒント)、「△ABCと△DEFで、AB=DE、∠B=∠E だから、あとは辺BCとEFが…」(ほぼ答えを言っているヒント)、「もう一度、問題をよく読んでみよう」(曖昧で役に立ちにくいヒント)、「対応する角が等しいから合同だ」(一見もっともらしいが、順序や根拠が誤っているヒント)——を並べて「どれが『考える力がつくヒント』で、どれが『考えなくなるヒント』か、理由も一言書いてみよう」と問う。英語なら、和文英訳のヒントとして「主語を決めよう」「時制は?」と促すヒントと、もう一文そのまま訳してしまうヒントを比べさせる。理科なら、実験の解釈で「グラフの傾きに注目して」と促すヒントと、「傾きが大きいから反応速度が速い」と結論まで言うヒントを並べる。こうした「よいヒント・よくないヒント」の比較を一度やっておくと、生徒がAIからもらったヒントを自分で吟味する土台になります。
最後に、教科をまたいで実践が広がるときに役立つ視点です。
改善3. 教科ごとの「AIに向く場面・向かない場面」を整理する
記事には、体育、英語、理科でも生成AIが使われている例がありました。とても面白い一方で、ここは今後ぜひ整理したいところです。
向く場面の具体例としては、体育なら飯山満中のように「チームの人数や課題を入力して、練習メニューや作戦の案を出してもらう」、英語なら「自分で書いた台本を、自然な言い回しに言い換えてもらう」「発音のモデル音声を生成してもらう」、理科なら「元素記号の神経衰弱など、補助的なアプリのたたき台を先生がAIで作る」、数学・国語なら「誤答例や要約の抜けを作らせて、生徒に正す・補う課題に使う」「振り返りで『今日の学びを一文で』と書かせたあと、AIに別の言い方の例を出させ、自分ならどう言うか比較させる」——といったように、発想を広げる・表現を言い換える・案を出す・誤答例を作る・振り返りを支える用途だと整理しやすいです。向かない場面としては、そのまま正答を覚えさせる(「AIの答えを写して覚えよう」は避ける)、根拠確認なしで事実を使う(調べ学習でAIの説明をそのままレポートに書かせない)、評価の代行を任せる(評定や所見をAIに書かせてそのまま使わない)、思考の出発点を全部AIに委ねる(「まずAIに聞いてから考えよう」にしない)——というように、校内で「ここは使う・ここは使わない」を一言で言えるようにしておくと、実践が広がりやすくなります。先生によって使い方が大きくぶれると、「便利だけど危ないもの」という印象が強くなってしまいます。逆に、どんな目的で、どこまで使うのかが共有されれば、安心して挑戦しやすくなります。
「改善の余地がある」ということは、言い換えれば、完成品ではないということです。だからこそ、この事例は他の先生にとって、希望になる側面があります。
この実践が、他の先生にとって希望になる理由
この事例の魅力は、最新技術そのものではありません。むしろ、授業の本質を崩さずにAIを入れていることにあります。
生徒に考えさせる。生徒同士で説明し合う。教師が学びの方向を示す。道具は使うが、判断は人がする——この骨格は、昔から大切にされてきた授業の原則です。生成AIは、その原則を壊すものではなく、うまく使えば支える道具にもなり得ます。
しかも今回の事例は、「完璧な授業」を見せているわけではありません。だからこそ、他の先生にも参考になります。最初から大規模にやる必要はありません。まずは小さく、たとえば1時間だけ試すなら、「今日の数学の発問で使う誤答を、前日にAIに3つ作らせておき、生徒にどれがおかしいか議論させる」「AIに短い説明を出させ、その説明の『足りないところ』を生徒に一文で書かせてから共有する」「AIには『ヒントだけ。答えは言わないで』とプロンプトで指定して1問だけ使う」「授業の終わりに『AIも共通テストで満点は取れなかった。正しく使うとは、疑えること』と先生が一言話す」——このくらいからでも十分始められます。

ここまで、飯山満中の実践のよさ・真似のポイント・改善のヒント・希望になる理由を見てきました。最後に、全体をひとことでまとめておきましょう。
まとめ——目的は「AIを入れること」ではなく、学びをよりよくすること
生成AI活用というと、「最新」「効率化」「個別最適化」といった言葉が前に出がちです。もちろんそれらも大切です。けれど、学校で本当に大事なのは、生徒が自分の頭で考え、他者と確かめ合い、道具を使いこなしながら判断できるようになることではないでしょうか。
その意味で、飯山満中の実践は単なるICT活用事例ではなく、「AI時代に、学校は何を教える場であるべきか」を考えさせてくれる事例だと思います。生成AIを授業に入れること自体が目的ではありません。目的は、生徒の学びをよりよくすることです。そしてそのために、AIを「すぐ答えを出す存在」ではなく、「問いを深める相手」として使えるなら、学校の授業はまだまだ面白くできるはずです。
「うちではまだ無理そう」と感じる先生ほど、まずは一つ、小さな実践から始めてみてよいのかもしれません。大切なのは、AIを入れることよりも、AIをどう授業のなかで位置づけるかなのです。
note.com/mhamadajp の関連記事
「すぐAIに聞く子」を止める前に、学校が考えたいこと(使ったときに何が学びとして残るかの設計)
「教師の仕事、AIに奪われる?」——スタンフォードの教育サミットが答えた、本当に大事な問い(AIは補助者、教師はプロセスを読む専門家)
AIで時短した先に— 教育現場で大切にしたいこと(任せる部分と担う部分の区別)
塾のAIにない、学校の強み——アダプティブラーニングの先に、現場が考えておきたいこと(学校ならではの対話・意味づけ・協働)
作成日:2026年3月4日
