「823年に一度」って嘘?——世界でバズるカレンダーデマを、生徒の「疑う力」に変える授業案
はじめに——何百万回シェアされた「奇跡の2月」、なぜ教室で使うのか
2026年2月、SNS上で「今年の2月は823年に一度の奇跡の月」「Perfect February」といった投稿が世界中で拡散しています。(なぜか日本ではバズってません、いいことです。)日曜始まりで28日間がきれいな長方形に収まるカレンダーの画像とともに、「シェアすると幸運が訪れる」といった文言が添えられ、何百万回も閲覧される投稿も出ています。政治的・思想的な対立がない「無害なデマ」であるため、教室で扱いやすく、かつ「なぜ人はデマを信じ、拡散してしまうのか」という本質的な議論に踏み込みやすい教材になります。
本記事では、NotebookLMで関連情報を入力して作成した授業案をベースに、高校の共通教科「情報I」における情報リテラシー(情報の検証・評価)やデジタル社会の特性を学ぶワークショップの内容を、ほかの教師が参照できる形でまとめます。授業で使用するスライド(Debunking_Viral_Deception.pdf)とワークシート(情報I.pdf)、そして授業の最後に配布するインフォグラフィックについても触れます。筆者のnote(mhamadajp)では、SNSとアルゴリズムを学校でどう教えるか、いじめ拡散と正義感の落とし穴、MAILは国語・社会・理科の疑う作法など、情報リテラシーやメディア教育に関連する記事を公開しています。本授業案とあわせて参照いただければ幸いです。
数学で5分、スマホで1分——嘘が暴ける「最高の教材」の正体
「823年に一度のカレンダー」という話題が情報リテラシー教育に適している理由は、大きく三つあります。
第一に、数学と事実だけで検証できることです。平年の2月は28日、1週間は7日なので、28÷7=4となり、どの曜日もきっかり4回ずつしか出現しません。「金・土・日が5回ある」といったチェーンメールの主張は、カレンダーを見なくても計算だけで「偽」と判定できます。また、日曜始まりの平年2月が「823年ぶり」かどうかは、スマホのカレンダーアプリを2015年まで遡るだけで確認できます。実際には2015年2月が同じ形であり、次は2037年——つまり11年ごとに起きる、ありふれた現象だとすぐに分かります(Newsweekのファクトチェック、News18の解説)。
第二に、デマの「生態系」を学べることです。この「823年」という数字は、2011年頃の風水チェーンメールで使われたものが、2017年、2021年、2026年と年号だけ書き換えられて何度もリサイクルされています。AFP(フランス通信社)は2022年に同様のファクトチェックを発表しており(AFP Fact Check)、2014年頃からFacebook上で繰り返し登場する「定番デマ」であることが報じられています。デジタル情報は劣化せずにコピーできるため、一度広まったデマは完全に消滅せず、忘れた頃に何度も再流行する——その「再燃性」を、生徒に体感させることができます。
第三に、心理と事実の混在を分解できることです。「日本の宣明暦が823年間使われた」という歴史的事実(862年から1685年まで、約823年間使用された暦法)と、「カレンダーの形が綺麗」という視覚的な事実が混ぜ合わされることで、嘘の数字(823年に一度の奇跡)が信憑性を帯びてしまう構造を、生徒と一緒に暴くことができます。筆者の「MAILは新しい能力ではない——9割は国語・社会・理科の疑う作法」で触れたように、情報リテラシーの多くは「出典を確かめる」「事実と意見を区別する」といった、既存の教科で培う力の延長線上にあります。このデマは、その「疑う作法」を実践する格好の題材です。
検証・拡散・心理・実践——4つの視点でデマを分解する
NotebookLMで整理した授業案は、四つの視点で構成されています。参考にテキストファイルで落としたものを添付します。
1. 流れてきた情報を鵜呑みにしない——「検証」の実践
最も基礎的なリテラシーとして、「流れてきた情報を鵜呑みにせず、自分で確かめる」プロセスを体験させます。
カレンダーの数学的検証では、「2月(平年)に特定の曜日が5回ある」という主張が数学的にあり得るかを問います。28÷7=4であることから、すべての曜日は4回ずつしか出現しないため、計算だけで「偽」と判定できることを学びます。
周期の検証では、PythonやExcelを使って「前回の日曜始まりの平年2月」がいつだったか探す活動を入れます。2015年、次は2037年——11年ごとの周期であることが分かり、「823年ぶり」という主張が虚構であることを、自分の手で確認できます。
2. なぜデマは何度も復活する?——「情報の拡散」を分析する
この話題は、インターネット上でデマがどのように生まれ、変形し、何度も復活するかを示す「情報のライフサイクル」の標本です。
コピペスタ(Copypasta)と変異では、「823年」という数字が年号だけ書き換えられて何度もリサイクルされている事例を紹介します。デジタル情報の「再燃性」——一度広まったデマが完全に消滅せず、忘れた頃に流行する——を学べます。
事実と虚構の混合では、「宣明暦の823年使用」という無関係な歴史的事実と、「カレンダーの形が綺麗」という視覚的な事実が混ぜ合わされることで、嘘の数字が「よく調べられた真実」のように見える構造を分解させます。
3. 嘘だと分かっても、なぜ人はシェアするのか——心理のからくり
「技術的には嘘だとすぐ分かるのに、なぜ世界中でバズったのか」を考えることで、メディア心理学の視点を取り入れます。
視覚的快楽では、「4行×7列」の長方形に収まるカレンダーが「Oddly Satisfying(妙に気持ちいい)」と感じられ、見た目の美しさが論理をスキップさせることを議論します。
幸運の約束では、「MiracleIn」「シェアすると幸運」といったチェーンメール特有の煽り文句が、シェアのハードルを下げていることを扱います。
希少性と優越感では、「11年ぶり」より「823年ぶり」と言った方がレア感があり、珍しい情報を他人に教えることで優越感を得たい心理が、真偽確認より先に「シェア」の動機になることを分析します。
4. 導入→検証→探究→表現——50分で完結するワークショップの流れ
授業の流れは、導入→検証→探究→表現の四つのフェーズで設計しています。

導入:SNSで流行している「823年に一度」の画像を見せ、直感で「本当か嘘か」を投票させる → 狙い:自分のフィルターの甘さを自覚させる
検証:スマホのカレンダーアプリを2015年まで遡らせる、または28÷7を計算させる → 狙い:「自分の手で一次情報にあたる」習慣づけ
探究:「823」という数字がどこから来たのか検索させる(「宣明暦」や過去の風水デマに行き着く) → 狙い:検索テクニックとソースの評価
表現:友人がこのデマを信じて送ってきたと仮定し、「相手を傷つけずに事実を伝える返信」を作成する → 狙い:コミュニケーション能力とデジタル・シチズンシップ
スライド・ワークシート・インフォグラフィック——そのまま使える3つの教材
本授業案では、三つの教材を用意しています。
スライド(Debunking_Viral_Deception.pdf)は、デマの構造を視覚的に解説するプレゼンテーション資料です。授業の導入や各フェーズの説明に使用できます。記事に添付していますので、ダウンロードしてそのまま授業でお使いいただけます。
ワークシート(情報I.pdf)は、Geminiで作成したメディアリテラシー用のワークシートです。回収せず、正解・不正解を気にせず、生徒が自分の考えや気づきを自由に書き出せる形式になっています。スマホの使用もOKです。主な設問は次のとおりです。
Q1(導入):SNSの画像を見て、パッと見た瞬間の正直な第一印象を書く
Q2(検証):数学的なチェック(28÷7)と、スマホで過去・未来のカレンダーを確認する
Q3(分析):「823」という数字の由来、カレンダーが「もっともらしく」見える視覚的効果を考察する
Q4(考察):人がシェアしてしまう心理メカニズムを想像する
Q5(実践):友人からデマの画像が届いたと仮定し、相手を傷つけずに事実を伝える「スマートな返信」を考える
インフォグラフィックは、授業の最後に生徒に配布する資料です。「なぜ私たちは『823年に一度のカレンダー』を信じてしまうのか?」を、視覚的快楽による判断の停止、真実と虚構の巧みな混合、希少性と優越感による動機付け、幸運への期待と不安の解消——の四つの視点から図解しています。NotebookLMで生成したインフォグラフィックをそのまま配布することで、授業で学んだ内容を振り返り、家庭で家族と話すきっかけにもなります。
「馬鹿にする」ではなく「当事者意識」——この教材が届ける本当のメッセージ
この授業案の最大のメリットは、生徒に「デマに騙された人を馬鹿にする」のではなく、「人間は数字のインパクトや『幸運』という言葉に弱く、誰でも拡散の片棒を担ぐ可能性がある」という当事者意識を持たせられる点です。
情報技術の仕組み(カレンダーの規則性、28÷7の計算)と、人間の心理(バイアス、希少性への欲求、チェーンメールの心理的フック)の両面からアプローチできるため、情報Iの「情報とメディア」「情報のデジタル化」といった単元に自然に組み込めます。また、Q5の「スマートな返信」を考える活動は、デジタル・シチズンシップの観点から、相手の感情に配慮しつつ事実を伝えるコミュニケーション力を育てる実践にもなります。筆者の「いじめ拡散と正義感の落とし穴——教師が生徒に届けるリテラシー」で扱った「正義感で拡散しても被害者が出る」という理解と同様に、感情が動いたあと、一歩引いて問う姿勢を、無害なデマを通じて安全に体験させることができます。
まとめ——「疑う力」を、次の授業から届けよう
「823年に一度のカレンダー」という世界でバズっているデマを教材に、生徒に疑う力をつける情報リテラシー授業案を紹介しました。NotebookLMで関連情報を入力して整理した授業案は、検証・拡散・心理・実践の四つの柱で構成され、数学と一次情報の確認、デマの生態系の分析、シェアする心理の理解、そして「相手を傷つけずに事実を伝える返信」の作成まで、一連の流れで設計されています。
授業では、スライド(Debunking_Viral_Deception.pdf)でデマの構造を解説し、ワークシート(情報I.pdf)で生徒の気づきを深め、最後にインフォグラフィックを配布して振り返りの材料とします。政治的・思想的な対立がない「無害なデマ」であるため、教室で扱いやすく、かつ「なぜ人はデマを信じ、拡散してしまうのか」という本質的な議論に踏み込める——その点で、情報Iの情報リテラシー単元に最適な教材だと言えます。
ほかの教師の皆さんが、この授業案を参考に、ご自身の学校や生徒の実態に合わせてアレンジしてくださることを願っています。筆者のnote(mhamadajp)では、SNSとアルゴリズム、IPA10大脅威、いじめ拡散と正義感、MAILと疑う作法など、本記事と関連するテーマを扱っています。あわせて参照いただければ幸いです。
あわせて読みたい(note:mhamadajp)
本テーマに関連して、筆者のnoteでは以下の記事も公開しています。情報リテラシー、メディア教育、授業づくりの視点を、現場目線でまとめています。
「なぜこの動画、自分に届いた?」——SNSとアルゴリズムを学校で教える、4つの実践
アルゴリズムの仕組み、感情の外在化、出典の確認、フィルターバブルの体験「助けよう」が誰かを傷つける——いじめ拡散と正義感の落とし穴を、教師が生徒に届けるには
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※上記は筆者のnoteで公開している記事です。各記事のURLはプロフィールからご確認ください。
参照したURL
Newsweek: Fact Check: Is February's Calendar a Once-in-823-Year Event?
News18: 'Happens Once In 823 Years': Is This Viral Trivia About 'Special' February Really True?
AFP Fact Check: Old myth falsely claims that combination of days and weeks in February occurs once a lifetime(2022年、2014年頃からFacebook上で繰り返し登場する定番デマとして報じられている)
Wikipedia: 宣明暦(日本で862年から1685年まで約823年間使用された暦法)
作成日: 2026年2月14日
