「晒すしかない」と思い詰める前に——被害者が自分でいじめ動画を投稿する心理と、周りが支えるためにできること
はじめに:被害者本人が投稿するケースに注目して
部活動や寮でのいじめ・暴行動画がSNSに流れ、炎上するニュースが続いています。2025年秋には山形県の高校野球部で、寮内の暴力を映した動画がSNSに投稿され、学校が調査と動画削除を進めた事案が報じられました。2026年2月には同動画が再び拡散し、学校が公式声明の発表を予定するなど、事態が再燃しています(酒田南高校野球部で暴力行為発覚|TBS NEWS DIG、強豪野球部で暴力行為か、山形|東京新聞)。学校は監督・部長を解任し、警察にも相談しています。
こうしたニュースの多くは、加害者や第三者が動画を撮影・拡散するケースです。ところが、ときには被害者本人が自分でネットに投稿するという事例もあり、SNS上では「被害者が投稿した」との情報が流れる事案も出ています。外から見ると「なぜ自分を傷つけるようなことを?」と不思議に思えるかもしれません。でも、その背景には、追い詰められた高校生の心理と、学校や周囲の「相談ルート」が十分に機能していない可能性が指摘されることがあります。
本記事では、個別の事案を掘り下げるのではなく、被害者が自分で動画を投稿してしまう心理と、周りが支えるために何ができるかに焦点を当てます。筆者は当事者ではなく、以下は相談事例や専門家の指摘をもとにした推測です。書いている内容の多くは当たり前のことかもしれませんが、自分自身へのリマインドとしてまとめています。教師や保護者、友人として「その子を支えたい」と思っている方の参考にもなれば幸いです。
まず、なぜ被害者が自分で投稿してしまうのか、考えられる心理から見ていきます。
被害者が自分で投稿してしまう心理

被害者が自分でいじめや暴行の動画をネットに投稿する。一見すると、合理的な判断とは思えません。二次拡散で何度も傷が掘り返されたり、誹謗中傷が被害者本人にも向かったりするリスクがあることは、本人も薄々わかっていることが多いようです。それでも投稿してしまう背景には、いくつかの心理が重なっている可能性があると、相談事例や専門家の分析では指摘されています。
「助けて」の代わりに、証拠を出すしかない
学校や保護者に相談しても、信じてもらえない。大ごとにしたくないと言われる。相談できる窓口がどこにあるかわからない、あるいは怖くて使えない——そんな経験をしていると、口で言っても動いてもらえない。動画なら、やっと止まるかもしれないという思いに至るケースがあるようです。証拠を世に出すことが、「止めてもらえる唯一の手段」に見えてしまう、という指摘があります。
弁護士ドットコムが読者から募った体験談では、警察や弁護士に相談していることをSNSに投稿したところ、それまで動かなかった学校が急に動き出したという事例が紹介されています(「学校が動かないから晒すしかない」いじめ動画の「拡散」は正義か暴力か|弁護士ドットコム)。「正規の手続きでは解決されない」という絶望感が、ネットへの投稿という選択につながる可能性がある、という見方もあります。
支配から逃げるために、外に出す
加害側が「言ったら潰す」「逆にお前が悪いことにする」などで縛ってくると、被害者は内部で解決する道が塞がれたと感じるかもしれません。その場合、外部——SNS、世間、警察、報道——に強制的に繋ぐことで、支配構造を壊そうとする。それは「復讐」というより、耐え続けるよりも、関係ごと終わらせたいという気持ちに近い可能性がある、という分析もあります。
我慢の限界——「壊してしまいたい」という気持ち
強い屈辱や恐怖が続くと、判断が損得の計算ではなく、「もう限界。壊してしまいたい」に寄ることがあるかもしれません。部活を辞められない、寮から逃げられない、推薦がかかっている、家庭の事情で転校も難しい——そんな状況では、本人の中で「我慢する」か「外に出す」かの二択になりやすい、という指摘があります。
事実が歪められる恐怖——先に出して主導権を取る
閉じた空間では、事実が「被害者が悪い」にすり替えられたり、噂で上書きされたりする恐怖を感じることがあるかもしれません。その場合、被害者は先に出して主導権を取ることを選ぶケースがあるようです。「自分は悪くない」と示したい。その思いが、冷静な判断よりも強く働くことがある、と考えられています。
では、そうした心理に寄り添いつつ、周りは何ができるのでしょうか。
周りが支えるためにできること——相談ルートを機能させる
先ほど見た心理の背景には、校内の相談ルートが十分に機能していない、あるいは信用されていない可能性がある、という指摘があります。だからこそ、投稿を責めるより、「証拠をSNSに出さなくても止められる」ルートを整えることが、再発防止につながるのではないか、と考えられています。
担任以外にも相談できる窓口を用意する

子どもは「担任に言いづらい」と感じることがあるようです。養護教諭、学年主任、管理職、スクールカウンセラー、教育委員会の窓口、24時間いじめ相談ダイヤル——複数の選択肢を用意し、「言ったら守られる」「言っていい」を繰り返し伝えておくと、少しは助けになるかもしれません。匿名で相談できる窓口があることも、ハードルを下げる一助になるようです。
窓口を用意するだけでは不十分で、実際に動くかどうかが信頼を左右します。
相談したら動く——日頃の対応で示す
相談を受けたら、どこに報告し、誰がどう動くかを、可能な範囲で伝える。複数校にまたがる事案では、教育委員会が責任を持つ体制であることを、保護者会や学校だよりで伝えておく。そうした積み重ねが、「学校に言えば動いてくれる」という信頼につながる、という見方があります。いじめや暴行が起きやすいのは授業中ではなく朝練・放課後・遠征・宿泊行事など大人の目が届きにくい時間帯だと言われており、現場は人手不足で「安全設計」まで手が回らない、という声もよく聞きます。だからこそ、部活中や寮生活のなかでも「言いたいときに、どこに言えばいいか」がわかる状態にしておくことが、人手を増やさずにできる現実的な対策になるのではないでしょうか。筆者のnote(mhamadajp)では、いじめ拡散と正義感の落とし穴で、正規の相談ルートを機能させることの重要性を扱っています。動画を保存して信頼できる大人に渡す——その行動に結びつくには、日頃から「言えば動く」と感じてもらうことが大事だと思います。
学校や組織の取り組みとは別に、個人としてできることもあります。
保護者や友人として——責めずに、まず聴く
もし身近な子が、自分で動画を投稿してしまった、あるいは投稿しようとしていると知ったら。「なぜそんなことを?」と責めるより、「どんなに追い詰められていたか」に目を向けてみるのも一つの手かもしれません。本人は、その副作用よりも「止めたい」「信じてほしい」「外に繋ぐしかない」が勝っていた、というケースが多いようです。まずは話を聴く。そして、信頼できる大人や専門機関につなぐ。それが、その子を支える第一歩になるのではないでしょうか。
まとめ:相談ルートを整えて、被害者を支える

ここまで、被害者が自分で動画を投稿してしまう心理と、周りが支えるためにできることを見てきました。部活動や寮でのいじめ・暴行動画のニュースが続く中、被害者本人が動画を投稿するケースは、他の事例とは違う視点で考えてみる価値があるかもしれません。外から見ると不思議に見える行動でも、本人にとっては「その場で生き残るための最適解」になっていることがある、という指摘があります。その心理を理解することは、責めるためではなく、支えるために役立つかもしれません。
投稿を責めるより、証拠をSNSに出さなくても止められる相談ルートと、言ったら守られる文化を整えていく。複数の窓口、匿名相談、日頃の「言えば動く」という実績——人手を増やさずにできるところから積み重ねることで、追い詰められた子が「晒すしかない」と思い詰める前に、手を差し伸べられる環境に近づいていけるのではないでしょうか。
筆者のnote(mhamadajp)では、いじめ拡散と正義感の落とし穴——教師が生徒に届けるリテラシーで、動画を保存して信頼できる大人に渡すことの重要性や、正義感で拡散することの危険性を扱っています。あわせて読んでいただくと、学校現場での取り組みのヒントになるかもしれません。
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作成日:2026年2月20日
