願わくば、美しいままでいて
※有料マガジンに収録したものですが、無料版なので最後まで読めます。
春になったかと思えば再び訪れた猛烈な寒波。暦の上ではすでに弥生を迎えているものの、東京二十三区は積雪の可能性があるという。関東に位置するこの場所でもついに雪が降りはじめた。少し前まではそろそろ河津桜が咲いてくるだろうし見に行こうか、なんて考えていたのに嘘みたいな風景。明日は凍ってしまうのでは…? と何となく戦々恐々としてしまう。
ふと窓の外を見れば、淡く降り積もった白いものが木々をふわっと包み込んでいる様子が目に移った。まるで粉砂糖でもかぶせているみたいにきれいだ。そんなことを言えるのはここがたまにしか降らない地域だからだろう。こんな風に雪に対して心を動かすといっても、ここと雪国に住んでいる方にとってはきっと大きな違いがある。
私と雪の関係としてまず思い至るのは、降ると白いうちは何となく楽しくても次の日に溶け残って凍り付くと恐ろしい目に遭うということだ。日陰にいつまでも凍り付いた道はその上を歩くたびにひやひやとさせられる。以前転んだことがあるとどうしても慎重になってしまう。
特に駅までの道にある日陰の道は、坂道であるゆえにトラウマ級の場所になってしまっている。平坦な道とはまた違った怖さがそこにはある。一度足を取られたら最後、滑り落ちていくかもしれないという危険性があるからだ。まるでスケートリンクなのに道筋はスキー場上級コースのような。人前でそんな目に遭ったら恥ずかしい、というだけの話ではない。ちなみに私はスケートもスキーもできないので逃げ道がまるでないといっていい。
気が付けば、雪はもう粉どころではない大きさの塊になっていた。少しの間止んでいたかと思うと再び降り始め、大きな塊となり、時が経てばまた小さくもなる。ちらちらと横切るその存在を見ながら何となく思考に沈む。脳裏に浮かんだのはどうしてかあの頃の記憶だった。
小学生の頃、朝起きると雪が積もっていて同じ登校班の子たちとついつい遊んでしまった。公園に立ち寄って新雪を踏みしめた後、上級生の提案で雪だるまをみんなで協力して作った。そんなに量もなかったので土まじりのものではあったが、きゃあきゃあとはしゃぎながらたくさん笑った。そして「次はかまくらも作ってみたいね」なんて話しながら学校へ向かった。
当然のことながら遅刻した。三十分ほど遅れてしまい、みんなでどうしようと焦っていると校門の前では他の登校班の人たちが複数集まっていた。彼らのコートにはもれなく雪が付いていた。これは雪合戦でもして同じように遊んでしまっていたのだろうと思った。そのためか私達もあまり怒られず、「早く教室に行きなさい」程度で済んだ。ほっとした。
雪だるまが作れるくらいに雪が降ったことはその後もあまりないため、これはもしかしたら貴重な思い出かもしれない。
雪はいい。ひらひら、ふわふわと降っている姿が桜の花びらみたいにきれいだ。あまりたくさん降ると弊害もあるが、私は雪が好きだ。最近では豪雨に見舞われることも増え、夜中ずっと雨音が続いて眠りが浅くなってしまうこともある。
風が強く、ごうごうという大きな音が響くことも多くなった。しとしとと降る温かい雰囲気や、癒される音質には出会う機会が減ったような気がしている。ごつごつと落ちてくる雹などはあまりいい気持ちはしない。そんな私が晴天以外で好きだと思える天候、それが雪なのだと思う。
やっぱりどうしても明日にまで影響がない方がいいと思ってしまうけど、それも難しいことだ。都会の人達は特に雪に弱いからスリップ事故だったり、怪我をすることになったりと、いろいろと問題が起こってきてしまうだろう。私自身無関係ではない。そう考えるとちょっと気分が落ちそうになってくる。
だけど今はこの美しさに少しだけほわっとしていよう。パソコンの手を止め、窓の外を仰いだ。今夜はおそらくまたぐっと寒くなる。あったかいお風呂につかってすぐ寝てしまおう。
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あとがき
作中にて小学生の頃のエピソードがありますが、その日は記録に残るくらいの大雪だったそうです。その後みんなと一緒にわいわい雪遊びをすることはありませんでした。それもあってちょっといい思い出になっています。雪が降るというだけで一大イベントみたいになって楽しかったです。大人になった今ではそうも言っていられないのが切ないところですね。
読んで下さってありがとうございました!
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