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「人間ドール」第8話

頭がガンガンする。身体が重い。
頭の上で、「美沙さん、美沙さん」と、聞いた事がある声がする。

この声は伊藤さん? ゆっくりと目を開けると、真っ白な部屋の中、伊藤さんが心配そうな顔で私を見ている。

「ここは?」

「加藤様のお屋敷です」

伊藤さんの答えに、頭を殴られた様な衝撃を受けた。
せっかく逃げたのに、加藤様に捕まってしまった。きっと私は殺される。それに伊藤さんまで巻き込んでしまった。

「伊藤さん、ごめんなさい。私のせいで」

「仕方がありません。加藤様から逃げるなんて出来るはずがないんですから」

「田中さんもいるの?」

この部屋の中にいるのは伊藤さんと私だけ。田中さんもいるのか知りたくて、伊藤さんに聞いた。

「いないです。田中さんも加藤様の事を知ってしまったのですか?」

「私が中田様の家にレンタルされた時、田中さんが付いてきてくれたから」

「中田様?」
私さんに今までの事を話した。

「そうだったんですか。中田様はここでは見かけた事がないので、別の場所で監禁されているのだと思います」

「そうだね。私にはもう中田様を助ける事は出来ない。後は殺されるのを待つだけ」

なるべく弱音を吐かないように頑張ってきたけど、もう限界。

「加藤様が美沙さんを殺すなんてありえませんよ。私は美沙さんがここを出てからも、ずっとお世話になっていますけど、危険を感じた事はないです」

伊藤さんと私の認識の違いに驚いた。

「伊藤さんは大事にしてもらっているのね。だけど、私は加藤様の秘密を知りすぎてしまった。殺されるに決まってる」

涙があふれてきた。今まで必死に逃げてきたのに、全て無駄だった。加藤様の力には敵わない。
殺された後、私は行方不明という事になるのだろうか? 両親や友達は心配するだろうな。

私はいつまで生きらるのだろう?
目が覚めてから10分ほどが過ぎた時、ドアがノックされた。

「美沙様、加藤様がお待ちです。部屋まで案内させて頂きます」

40代くらいの女性がノックした後に、部屋に入ってきた。

「今、美沙さんと話しているの。もう少ししてからにしてもらえませんか?」

私が真っ青になっているのに気づいた伊藤さんが言った。
「加藤様の部屋でも休む事はできますので。さあ、美沙様行きましょう」

女性に有無を言わせない強い口調で言われたので、私はついていくしかなくなった。

「わかりました」

伊藤さんが心配そうに私を見つめる中、私はその女性について、加藤様の元に向かった。

「ご主人様、美沙様を連れてきました」

「ご苦労だった。美沙さんを部屋に入れたら、戻りなさい」

「はい、わかりました」

私が加藤様の部屋に入ると、女性はすぐに出て行ってしまった。
この部屋には私と加藤様の2人きり。

加藤様が何も言わずに、私をじっと見ている。
どうせ殺されるなら、言いたい事を言ってやる!

「お久しぶりです、中田様はどこにいるんですか? みんなを返して下さい」

勇気を出したのは良いけど、言い終わった後、手が震え、口の中がカラカラになる。

「言いたい事はそれだけかな? 私ははアニを大事にしてやったのに、逃げ出すとは。飼い犬に噛まれた気分だよ」

「加藤様の自業自得です。捕まえた人を解放してください。私をここから出してください」

「アニは少々痛い目に合わないと、自分の立場がわからないようだな」

加藤様が私の腕を掴んだ。
しまった! 加藤様ともっと距離を置くべきだった。

「離して下さい」

腕を動かして、加藤様の手を離そうとすると、加藤様の私の腕を掴む力がさらに強くなった。

「痛いです、離して」

「アニ、君ほど良い人間ドールはいなかったのに、残念だよ」

「私をどうするつもりですか!」

思わず声が大きくなる。

「君は私の『永遠の人間ドール』として大切にするから心配しなくて良い。もう衣装も決めてある。ウェディングドレスだ。永遠に今の美を保てるんだよ。嬉しいだろ?」

加藤様は私の身体を舐め回す様に見ながら、微笑んでいる。

「嫌です! お願いです、助けて下さい」

やはり加藤様は私を『永遠の人間ドール』にするつもりだ。
私から身体の自由も意思も奪う。殺されるのと同じこと。

このままじゃ本当に『永遠の人間ドール』にされてしまう。
私は、何度も「助けて下さい」と頭を下げた。

「アニは何か勘違いをしているようだ。『永遠の人間ドール』になれば、永遠の命を手に入れる事が出来る。こんな素晴らしいことはない」

加藤様の言葉を聞いて絶望した。中田様が捕まっている今、私を助けにきてくれる人は誰もいない。

「何でもいう事を聞きます。お願いします『永遠の人間ドール』にしないで』

私がどんなに泣き叫んでも、加藤様は私の話を聞こうともしない。

しばらくして、私が泣きつかれた頃、加藤様はポケットからスマホを出し、誰かに電話をかけ始めた。

「伊藤さん、アニさんにウェディングドレスを着せて欲しいんだが」

私を人間ドールにする為に、伊藤さんの待遇は良くしていたのだろうか。

伊藤さんは了解した様で、加藤様はすぐにスマホを置いた。

「そんなに心配しなくても、世界で1番美しい人間ドールにしてあげよう。何年経っても年を取らず、美しいまま生きられるんだ。最高だろ?」

楽しそうに話しかけてくる加藤様に、これ以上何を言っても無駄だと思った。
少しすると、伊藤さんが加藤様の部屋に入ってきた。

「美沙さんにウェディングドレスを着せるのですね。わかりました。今、使用させて頂いている部屋を使ってもよろしいですか?」

「もちろんだ。着付けが終わったらすぐに、この部屋に連れてきてくれ」

「はい、わかりました。美沙さん行きましょう」
伊藤さんについて、元の部屋に戻る。

「美沙さん、素敵なウェディングドレスですね。さあ、着替えましょう」

「加藤様は、私がウェディングドレスに着替えたら、私に注射を打って、もう2度と動くことも出来ない『永遠の人間ドール』にするつもりなの。お願い、助けて」

伊藤さんに必死に訴えたけど、伊藤さんは何も言わずに、私の化粧を始めた。

「伊藤さん! 止めて!」

「美沙さんを逃せば、私は殺されます。たとえ『永遠の人間ドール』になっても、元に戻す薬があるはずです。美沙さん、加藤様は美沙さんを大事にしています。きっと大丈夫です」

伊藤さんの顔がひきつっている。
伊藤さんは加藤様の怖さに気づいているのだ。だから、加藤様の言いなりになる事によって、自分を守っているのだ。

それなら、いくら私が必死で助けを求めたところで助けてもらえるはずがない。

「伊藤さん、1つだけお願いがあるの。今から友人にラインをさせて。その後、全部内容は消すから、このスマホを持っていて欲しい。このスマホは私のじゃないの。見つかれば友人に迷惑がかかるから」

伊藤さんは一瞬困った顔をしたけど、「わかりました」と言ってくれた。

せめてもの思いやりなのかもしれない。
すぐに、現状と、この後メッセージは全て削除して、このスマホは伊藤さんに預ける事を、ラインで山下さんに報告した。

ラインが既読になったのを確認すると、メッセージを削除する。

私は『永遠の人間ドール』にされてしまうだろう。だけど、いつか、山下さんが私が送ったメッセージを世間に公開したら、加藤様と社長は逮捕されるはず。

そうなれば、これ以上の犠牲者は出ない。
もう時間がない。私自身のことは諦めるしかない。だけど、次の犠牲者になる人を救うことで、満足しよう。

「じゃ、伊藤さん、このスマホをお願い。持ち主は中浜さんという人なの。いつかほとぼりがさめたて、スマホを取りに来たら返してあげて欲しい」

自分の言葉が、まるで遺言みたいだと思えて、ふっと笑う。

「美沙さん、ごめんなさい。私がもっと強かったら、美沙さんを助ける事が出来るのに。スマホは責任を持って預かります、いつか必ず中浜さんに返すから安心して下さい」

「ありがとう、お願いね」

私がお礼を言うと、伊藤さんの目から涙がこぼれ落ちる。
伊藤さんだって辛いに決まっている、それなら、それせめて私は明るくしなければ。
ウェディングドレスを着せてもらっている間、私は明るく伊藤さんに話しかけた。

「準備が出来ました」

伊藤さんが沈んだ声で言う。

「私は大丈夫だから。加藤様に連絡をして」

本当は怖い。永遠の人間ドールになんかなりたくない。心の中の不安や恐怖を必死に抑えて、無理やり笑顔を作った。

「わかりました」

伊藤さんは辛そうに言うと、加藤様に電話をかけ始める。

「美沙さん、もう少ししたら谷山さんが来られるそうです」

谷山さん、あのデスゲームの時に司会をしていた人だ。2度と会いたくないと思ったのに。

「うん。わかった」

私が返事をして、10分が過ぎても谷山さんは来ない。

「谷山さん、どうしたのかな?」

「加藤様は、すぐに谷山を迎えにいかせると言っていましたが……」

「そうだよね。もうすぐ来るかな」

それから5分が過ぎても谷山さんは来なかった。痺れを切らしたのか、加藤様から伊藤さんに電話がかかってきた。

「はい。まだ谷山さんはみえません。わかりました。お待ちしています」

伊藤さんがビクビクしながら返事をしている。

加藤様の忠実な部下の谷山さんが命令に背くとは思えないし、どうしたのだろう。谷山さんが来ないと期待したところで、すぐに加藤様がやってくるんだから一緒だよね。

諦めの境地でいた時、外から何台もの消防車のけたたましいサイレンの音が聞こえてきた。

「近くで火事が起こったのかな?」

伊藤さんと顔を見合わせていると、消防車はすぐ近くで止まった。

「もしかして、加藤邸が火事なんじゃない?」

「えっ、それなら、美沙さん、逃げましょう」

伊藤さんが私の手を握る。

もし火事が加藤様の家じゃなければ、伊藤さんも裏切り者として、加藤様に殺されるかもしれない。
そう言おうと思ったけど、伊藤さんの顔はそんな事も覚悟している様に見えた。

「うん。逃げよう。今ならどさくさに紛れて逃げられる」

私と伊藤さんがドアを開けようとした時、先にドアが開いて、見知らぬ男性が入ってきた。

「私は中田様の部下の沢田です。案内をしますので、私についてきて下さい」

私と伊藤さんは驚きのあまり声が出なかった。

「早く!」

沢田さんに怒られはっと我にかえり、沢田さんの後について、火事でバタバタしている加藤様の家を出た。
通りまで出ると、そこにはワゴン車が止まっている。

沢田さんは、後部座席を開けて、私たちにこの車に乗る様に言い、自分は助手席に乗った。

普通なら初めて会った男性の車に乗るのは危険だと思うけど、沢田さんは信じられると思い、私たちは車に乗り込んだ。

「沢田さん、中田様は無事なんですか?」

1番気になっている事を確認する。

「今、別の社員が助けに行っています」

「という事は、中田様はまだ加藤様の家に監禁されているんですね」

私のせいで、まだ中田様が監禁されている事を申し訳なく思った。

「そうですが、これも社長の作戦なのです。火事に乗じて、加藤家に監禁されている全員を助けますので、心配しなくても大丈夫です」

中田様の作戦?
中田様は自分が監禁される事も作戦のうちだったの?
沢田さんの意外な言葉に、私と伊藤さんは驚いて目を合わせた。

「全員って事は田中さんや、雪さんや花音さんも? 花音さんは永遠の人間ドールにされていないんですか?」

あのデスゲームが行われた日から、かなりの日が過ぎている。さすがに花音さんはもう永遠の人間ドールにされてしまったのだろうと思っていた。

「花音さんに打つ注射の中身をすり替えましたので、しばらくしたら元に戻るはずです」

「それも中田様が?」

「はい。実は中田社長はかなり前から、加藤氏が人間ドールでデスゲームをしたり、永遠の人間ドールを作っているのを知っていました」

「えっ!?」

今まで沢田さんが説明してくれた中で、1番の驚きだった。
中田社長が加藤様の犯罪を知ったのは、私が中田様に伝えたからだと思っていたのに。

頭の中が混乱している。もしかして私は中田様に利用されたの?
中田様を疑った後、すぐにそれを否定した。

あの優しい中田様が私を利用するはずがない。
加藤様の悪事の実態を探る為に、ドールハウスLの顧客になったのだろう。その時に偶然私の事を知り、指名してくれたに決まっている。

それにしても、中田様は自分自身が監禁される事も作戦のうちだったなんて。
加藤様に拷問されたり、殺された可能性もあるのに、命を懸けて加藤様の犯罪を暴くつもりだったのだろうか?
中田様にはどれほど感謝してもしたりない。早く中田様に会いたい。

「美沙さん、中田様ってすごい方ですね。私、中田様を尊敬します。同じお金持ちでも、加藤様とは全く違いますね」

「加藤様も中田様も、ドールが好きで人間ドールに興味があった事までは同じなのに、そこからが全く違うね。これから加藤様と社長は犯罪者として、刑務所の中で自分達がしてきた事を反省すれば良いんだわ」

「そうですよね! 早く2人が捕まるところが見たいです」

この時の私は、すぐに全てが解決するのだと思っていた。

「ご主人様の屋敷には少し問題がありますので、ホテルで休んでもらいます」

沢田さんが言いにくそうにしているのは、中田様の奥様が反対しているからだろう。

大体、中田様の奥様が中田様の言いつけ通り、田中さんを匿ってくれていたら、田中さんは危険な目に合わずに済んだのに。

加藤様との戦いにおいては策士である中田様が、奥様との関係は微妙で、奥様に協力させる事さえ出来ないのは驚いてしまう。

「わかりました」

それでも助けてもらえた。中田様には感謝しかない。

ホテルに着き、私達が部屋に入ったのを確認すると、沢田さんはすぐに出て行ってしまった。

「早く中田様に会いたいね。お礼を言わなくちゃ。それに、田中さんにも会いたい」

伊藤さんは笑顔だ。

「うん。私、みんな助かったのが確認出来たら、人間ドール辞める。綺麗になれるのが嬉しかっただけだったのに、こんな危険に巻き込まれて、もう2度と人間ドールになりたくないって思ったよ」

「美沙さんの気持ち、わかります。私から見たら、ちょっともったいない気もするけど、仕方がないですよね」

伊藤さんが共感してくれて良かった。

「うん。私は以前のようにドールを大事にするだけで満足だよ。ずっと我が家のドールのお世話をしていないから、早くドール達に謝りたい」
「美沙さんは本当にドールが大好きなんですね。私はお洒落なイメージに憧れて入社したんです。まさか、裏でこんな危険な事が行われているなんて想像もしてなかったですから」

「みんなそうだよね。私達の夢や憧れを利用した社長や加藤様、絶対に許せない。それにしても、今、状況はどうなっているのか気になるね。テレビをつけようか」

「そうですね」

すぐに伊藤さんがテレビをつけてくれた。

『加藤家の火事は治まる気配が見えません。このまま全焼してしまいそうです。今、現場から情報が入りました。加藤家の人はみんな助け出されて、中には誰も残っていないようです』

テレビには、燃え続けている加藤家が映っている。

「あの広いお屋敷が……」

加藤様の家にあった『永遠の人間ドール』も全て焼けてしまう。加藤様の犯罪の証拠なのに。
それに、デスゲームが行われた部屋が焼けてしまったら、現場検証を行う事が出来なくなる。何より、コンピューターのデータが全て燃えてしまったら、デスゲームに参加していた人を特定出来なくなる。

映像を見ていると色々な事を考えてしまう。
早く全てが終わって、元の日常を取り戻したい。

1時間程が過ぎた時、私たちの部屋がノックされた。

「沢田です。ドアを開けてもらえますか?」

「はい。今すぐに開けますね」

田中さんがドアを開けると、そこには沢田さんと田中さんが立っている。

「田中さん」

田中さんは、伊藤さんを見た瞬間泣き出して、伊藤さんの胸に飛び込んだ。

「田中さんと美沙さんが無事で良かった」

伊藤さんの目に涙が浮かんでいる。

「感動の再会はわかりますが、今は危険な時です。部屋の中でゆっくり話しましょう」

沢田さんの言葉に、慌てて辺りを見回した、幸い誰もいない。
だけど、誰が私たちの話を聞いているかかわからないのだ。
私はすぐにドアを閉めて鍵をかけた。そして、部屋の中に入り、小声で話し始める。

「田中さんも、加藤様のお屋敷に監禁されていたのね?」

「はい。怖かったです。美沙さんが無事で良かった。ずっと美沙さんの事を心配していました」

「ありがとう。色々あったけど、本当にみんなが無事で良かった」

「はい。伊藤さんもずっと監禁されていたんですか?」

田中さんが伊藤さんに聞いた。

「私は監禁はされてない。美沙さんがドールハウスに戻った後も、加藤様の家でお手伝いをしていました。美沙さんの後にきた人間ドールの奈菜さんも、ある日急にいなくなってしまって……。ドールハウスLに戻ったのか、殺されたのか、私にはわからなくて、すごく不安でした」

伊藤さんは事情を何も知らないから不安を感じるよね。

「きっとみんな中田様が保護してくれてます。数時間後にはみんなと再会出来るよ」

みんなの無事を確認するまで不安はあるけど、伊藤さんと田中さんに安心して欲しくて、明るく言う。

田中さんは、中田家から逃げた時の事を、伊藤さんに詳しく話している。
その間、私は沢田さんに話しかけた。

中田家にいる時、途中から中田様から連絡が無くなった訳や、私たちが中田様の奥様に追い出される事は想像しなかったのかとか、中田様にとって私はどんな存在だったのかとか、知りたかった事を全て質問する。

「中田様は美沙様の事を大切にしています。奥様の事は、まさか奥様がお二人を追い出すなんて想像していなかったはずです。中田様は奥様にもお二人を保護する様にと話していましたし、その時、奥様も『わかりました』と言っていましたから」

やはり、中田様は奥様の本性を知らなかったのだ。
奥様に田中さんを匿ってくれなかった事への怒りはあるけど、今、私達は加藤様から逃れてホテルにいる。これも中田様のおかげなのだから、奥様の事は許そうと思う。

しばらくすると、沢田さんの携帯に電話がかかってきて、沢田さんはすぐにホテルを出て行ってしまった。

それから3時間、ニュースでは、加藤様の家が全焼したことしかわからない。
加藤様や、加藤様の家で働いていた人達は無事だったのだろうか?
加藤様は憎い。だけど、罪は死ぬ事ではなく、生きて償って欲しいと思う。

『緊急速報です。中田グループの社長が加藤氏の家から助け出されていました』

ニュースから流れる緊急速報の文字に、私たちはニュースに釘付けになる。ニュースは中継に切り替えられ、○○テレビ局の前にいる中田様が映し出された。
中田様が無事で本当に良かった。私たちは手を取り合って喜んだ。

「中田社長、無事で良かったです。ところで
中田社長はどうして加藤氏の家にいたのですか?」

ニュースのキャスターが中田様に質問をすると、中田様はゆっくり話し始めた。

「私は加藤氏に監禁されていました。火事に乗じて、部下が助け出してくれたのですが、あのままだったら、衰弱して死んでいたと思います」

中田様の言葉に、キャスターは絶句した後、質問を続けた。

「監禁って、どうして加藤氏が中田社長を監禁するのですか?」

「それは、私が加藤氏の犯罪の証拠を握っているからです」

「犯罪の証拠?」

「はい。加藤氏はドール好きが高じて、長い間、人間をドールにする研究をしていました。人間をドールにする薬を完成し、またその薬を大量に注射すれば、人間を永遠にドールにする事が出来る様になりました。また加藤氏は、ドールを無理やりデスゲームに参加させていました」

「そんな……、加藤氏は無事なのですか?」

「火が広がる前に家から逃げたので無事です。加藤さん、私は全てを話します。今からでも遅くない、出頭しなさい!」

中田様が厳しい口調で、テレビを通じて加藤様に出頭を促した。
驚きのあまり声が出ない。ここまでが中田様の計画なのだろうか?

加藤様にとって、最悪な感じで罪が暴露されていく。
これで加藤様は終わりだ。加藤様と社長は間違いなく法の裁きを受けるだろう。

良かった。
後はみんなが無事なのを確認するだけ。どうか1人も犠牲者が出ていませんように。

「これで全て終わったんだよね。私たち、もう危険に巻き込まれる事もないんだよね」

田中さんが目に涙を浮かべている。

「うん。そう。私たち、助かったんだよ」

田中さんと伊藤さんと、手を取り合った。

それから、数時間後。沢田さんが40代くらいの刑事さん2人と一緒に、私たちの部屋にやって来た。

刑事さんは私たちに警察手帳を見せた後、
「私達は刑事で、私は山野、こちらは竹林です。君たちが無事で良かった。今から少し聞きたい事があるんだが、この部屋で聞かせてもらってもいいかね?」と聞いた。

私たち3人は「はい。大丈夫です」と同時に答える。
加藤様や社長の罪を暴く為に、私たちの証言が必要なのだろう。

本当は疲れきっているので家に帰してもらいたいけど、もう少し頑張ろうと思った。
私たちは山野刑事の質問に、記憶を思い出しながら答えていく、その言葉を竹林刑事がノートに書いている。

「色々聞かせてもらってありがとう。加藤氏やドールハウスLの石川社長を何としても有罪するからね。ところで、美沙さんはこれからも人間ドールになるつもりなのかい?」

山野刑事に聞かれ、私はずっと考えていた事を話す。

「私はドールが大好きです。それはこれからも変わりません。だけど、自分がドールになるのはもうこりごりです。しばらくゆっくり休んだ後、普通の仕事を探します」

「そうだね。その方が良いよ。他の人間ドールの子達にもそうして欲しいと思う。そうでないと、また別の悪い人達が人間ドールを利用して犯罪を起こすかもしれないからね」

山野刑事の言葉に、私たち3人は頷いた。

「じゃ、私は警察署に戻って、加藤氏や石川社長の捜査がどこまで進んでいるのか確認してくるよ。君たちは、中田社長の事情聴取が終わるまで、ここにいる様に言われているんだよね? また、私の方から話を聞かせて欲しい事も出てくるかもしれない。その時は、また連絡させてもらうよ」

「わかりました」

私たちが答えると、山野刑事と竹林刑事は部屋から出て行った。

「お疲れ様。私はこれから会社に戻るから、君たちはゆっくりしていなさい。中田社長から連絡があれば、すぐに伝えるから」

「わかりました」

沢田さんが部屋を出て行き、私たち3人だけになると、やっと開放感を味わう事が出来た。

「山野刑事、話長いよね? 質問も細かい事ばかり。そんな事、もう忘れてるよ」

「ですね。まあ、加藤氏を逮捕するために必要だから頑張っていたけど、もう2度と嫌かも」

田中さんと伊藤さんの意見に同意して頷く。
中田様から連絡があったのは、夜の10時を過ぎた頃だった。私たちは順番にお風呂に入り、パジャマに着替えて寛《くつろ》いでいた。

伊藤さんのスマホに電話がかかってきたので、伊藤さんがオンフックにして、スマホを真ん中に置いてくれた。

「美沙さん、田中さん、伊藤さん、なかなか連絡出来なくてすまなかったね。その間、大変な目に合わせてしまって申し訳なかった」
 
中田様の声は本当に申し訳なさそうだった。

「大丈夫です。中田様も加藤様に監禁されて大変だったと思います。それに、中田様のおかげで、加藤様や石川社長の犯罪を世間に伝える事が出来たんですから」

中田様も、警察の事情聴取で疲れ切っているだろう。今はお礼を言うだけで良いと思ったが、田中さんは中田社長に泣き言を言う。

「中田社長、私と美沙さんは奥様に追い出されそうになってすごく怖かったんです」

「沢田に聞いたよ。私がもっとはっきりと言っておくべきだった。本当にすまなかった」

「奥様の気持ちも分かります。だから、そんなに謝らないでください」

「美沙さん、こういう事ははっきり言わないと」

私が中田様を庇《かば》うと、田中さんはムッとした顔になる。

「そうだね。田中さんのようにはっきり言ってくれる人も、私にとっては大事な存在だから」

中田様が、田中さんをフォローする。

「中田様、私たちは今後どうしたらいいのですか? あと、私たち以外の人は助かったんですか?」

加藤様の家に連れて行かれた人間ドールがみんな助かったのか、気になって仕方がない。

「雪さんと奈菜さんは助ける事が出来たけど、2人以外の女性たちは『永遠の人間ドール』にされた後だった。『永遠の人間ドール』は部下に持ち出させたけど、もう人間に戻す事は出来ないだろう』

中田様が辛そうな表情を浮かべる。

「そうなんですね。残念です」

花音さんは永遠の人間ドールにされた後だった。花音さんや他の『永遠の人間ドール』にされた女性達の気持ちを考えると、心が痛む。

「彼女たちを家族の元に戻す。そして、もう2度とこんな悲劇が起きない様に全力を尽くすよ」

中田様がはっきりと言ってくれた。

「はい。よろしくお願いします」

私たち3人は同時に答えた。

「君たちは、あと一日このホテルでゆっくりしたらどうだろうか? マンションや実家に帰ると、マスコミが押し寄せる可能性もあるからね」

テレビのニュースは、ずっと加藤様の話題だ。確かに今、実家に帰れば、両親まで巻き込んで大変な事になるかもしれない。

「君たちの家には、私の方から電話を入れて事情を話してある。もし、両親にこのホテルに来て欲しい様なら、私の部下を向かわせる手配をするよ」

さすが中田様。私たちの両親がニュースを見て、不安になるのがわかり、先に連絡してくれたのだ。

「そこまでは大丈夫です。ありがとうございました」

翌日も、私たちはホテルで過ごすことになった。

「美沙さん、気になったんですけど、『人間ドール』って、身体は動かなくても意識はあるんですよね? じゃ、『永遠の人間ドール』になっても意識はあるんでしょうか?」

朝食後、雑談をしている時に、伊藤さんに聞かれて驚いた。

「私は『永遠の人間ドール』は人間としての死だと思ってた。だから、当然、意識は無くなるって。でも、もし『永遠の人間ドール』になっても意識があるとしたら辛すぎる」

2度と人間に戻る事が出来ないのに、人間としての意識だけがあるなら、私なら絶望する。

『永遠の人間ドール』は、死ぬことも助けを求める事も出来ないのだ。
それくらいなら、意識が無くなり、ただのドールになってしまった方がずっとマシだ。

「意識があるなら可哀想すぎる。中田様は『永遠の人間ドール』を加藤様の家から持ち出したと言っていたけど、これからも永遠につらい思いをするくらいなら焼けてしまった方が幸せだったんじゃないかな。私ならその方が良い」

田中さんの気持ちはわかるけど、『永遠の人間ドール』にされてしまった子の家族の気持ちを考えると、たとえ動く事が出来なくても、目の前に娘が存在するだけで救われるかもしれない。

もし意識があるとしても、永遠に身体を動かす事が出来なくなる程の強い薬だから、普通の意識が保てるとは思えない。

だけど、たとえ少しでも意識があるなら、あまりにも辛い。何とか人間に戻す事は出来ないのだろうか?

中田様は無理だとはっきりと言ったけど、これから技術が進歩すればいつか人間に戻せる日がくると期待したいと思う。

「そういえば、美沙さん、加藤様の家で行われたデスゲームって、どんなものだったんですか?」

伊藤さんと田中さんに、デスゲームが行われた事は話したけど、内容までは話していなかったので、伊藤さんが聞いてきた。

「私たち人間ドールとドールの絆を試す様なゲームだったよ。ドールの身体には、私たちの髪の毛が入っていたみたい。私が怖い目に合わされれば、ドールが動いたり、反対もあったりして、すごいなと思ったよ」

デスゲームの事を思い出しながら話す。

「えっ、ドールと人間ドールって繋がっているって事ですか?」

田中さんが驚いている。私も最初は驚いたから当然かな。

「加藤様はその実験も兼ねてデスゲームをしていた気がする。私も最初は信じられなかったけど、強い感情を向けると、本当にドールが反応するのにビックリしたよ」

「すごいですね! まるでノーベル賞ものの研究みたいです。それなら『永遠の人間ドール』に意識があるかどうか、ドールを使えばわかるかもしれませんね」

伊藤さんの話はすぐに理解できなかった。だけど、考えているうちに、なるほどと思った。

「確かにそうね! 伊藤さんのいう通りだと思います。次に中田様から連絡がきた時に話した方が良いね」
もし『永遠の人間ドール』に意識があると証明されたなら、彼女達を人間に戻す為の努力をしてくれるかもしれない。

だけど、きっとその研究は何年もかかるだろう。それに結果が出るとは限らない。
彼女達の事を考えると、意識が無い方が幸せかもしれないと思い、ため息をついた。

「美沙さんがため息をつく気持ち、わかります。『永遠の人間ドール』を作った加藤様、本当に許せない!」

大きな声で言う田中さんに、私も伊藤さんも同意した。
私たちに出来る事なんてほとんどないけど、世間に向かって、加藤様や石川社長への怒りを伝えていく事が大事だと思う。

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