コンフォートゾーンとフロリアン・ヴィルツ
コンフォートゾーンとは何か?
直近でいえば、バイエル・レヴァークーゼンからリヴァプールFCへと移籍した天才ドイツ人MFフロリアン・ヴィルツが移籍の直前、「いつかコンフォートゾーンから出たい」と発言したことで、世界中でコンフォートゾーンという言葉が話題を呼んだ。では、コンフォートゾーンとは何か?
コーチング用語であり、苫米地英人、ホメオスタシス、エフィカシー、認知科学、RASとスコトーマなど関連用語はいくつもあるが、私が言及したいのは、コンフォートゾーンという用語にはちょっとした「見落とし」、あるいは捉え違いを起こしてしまいやすい要素があるように思うということだ。
例えば、ヴィルツが発した「いつかコンフォートゾーンから出たい」という言葉は正しいのか。もちろん、ふつうに捉えればヴィルツの発言は正しい。コンフォートゾーンを日本語に直訳するのなら、「快適な空間」。言及するまでもなく、ヴィルツの「コンフォートゾーン」は移籍元のレヴァークーゼンであり、そのクラブで活躍して成長した経験、長く同クラブで過ごしたうえ、故郷のケルンとも近いことを考えれば、そこから出ることは「コンフォートゾーンを抜け出す」ということになる。
ただ、ここで重要な見落としが発生してしまう。なぜヴィルツは、わざわざ「コンフォートゾーン」から抜け出してしまうのだろうか。もちろん、給与やクラブ、リーグの環境を高めたいと感じからでは?というのが普通の考えだろう。しかし、それが捉え違いなのである。実は人間はコンフォートゾーンを維持しようとして活動してしまう生物なのだ。居心地の良い環境を守り、維持することにエネルギーを割くのである。
つまりヴィルツが起こした行動は、コンフォートゾーンを抜け出すための行動だったのではない。むしろレヴァークーゼンというクラブ、現在の給与、ブンデスリーガという環境が彼にとって「コンフォートゾーンではなくなってしまった」のである。ヴィルツのコンフォートゾーンは、彼がインタビューで夢だと語ったように、バロンドールを受賞している状態の自分である。それが現環境では達成できないと彼は考えたのだ。
ヴィルツが起こした行動は、コンフォートゾーンを抜け出すのではなく、むしろ現状に不満を抱き、より自分があるべきだと思う環境に身を置いたという状態なのである。つまり現状は「非コンフォートゾーン」であり、むしろ「現状の外側にある環境」がコンフォートゾーンとなったのである。
もちろん、この現状の外側にコンフォートゾーンがある状態というのは、ヴィルツが特別な選手だからこそ得られる状態であるのは間違いない。しかし、これは日常生活のなかでも置き換えて考えることができる。例えば部屋を掃除するのは、汚いと感じる部屋の状態が「非コンフォートゾーン」であるからだし、ダイエットをするのは、太っている自分が「非コンフォートゾーン」であるからだ。
