黒字廃業53%の衝撃。IT業界の「静かな引退」をAIで救う、スタートアップによる“新しい事業承継”の仕組み
東京商工リサーチの調査によると、2025年に休廃業・解散した企業は6万7,210件と、3年連続で過去最多を更新しました。そして、その52.8%は「黒字経営」でした。経営に行き詰まったのではなく、「後継者がいない」という理由だけで、健全な事業が静かに日本から消え去っています。
そしてこの課題は、製造業や飲食業だけの話ではなくなりつつあります。1980年代から1990年代に創業したIT企業の経営者たちが、いままさに引退期を迎えているのです。
株式会社マイクロニティは、この深刻な社会課題に「AI×事業承継」という独自のビジネスモデルで挑むスタートアップです。2025年4月の設立から約1年ですでに6社の事業承継を完了。ARR(年間経常収益)は25億円を達成していますが、この大部分は、グループに参画した優良なソフトウェア企業がもたらしたものです。シードラウンドでは累計22億円を調達し、三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)などを新たな株主に迎えています。
なぜスタートアップの私たちが、あえて「事業承継」を選んだのか。どのように社会課題を解決していくのか。本記事では、私たちが推進する「AI駆動型ソフトウェア事業承継プラットフォーム」の具体的な仕組みと、日本の優れたIT資産を次世代へ繋ぐ中長期的な成長戦略をお伝えします。
IT業界にも「後継者がいない」時代が来た
後継者問題というと、特に中小企業で製造業や飲食業、介護施設などをイメージされる方が多いと思います。しかし、実はIT業界も例外ではありません。1980年代から1990年代のインターネット黎明期に次々と生まれたソフトウェア企業は、今や創業経営者が70歳前後の平均引退年齢を迎え、廃業の危機に直面しています。これは単なる経営者の高齢化問題にとどまりません。「技術の断絶」という重大なリスクを孕んでいます。
長年、特定の業界(バーティカル領域)で圧倒的なシェアと信頼を築いてきたソフトウェアであっても、オンプレミス環境やレガシーなアーキテクチャのままでは、現在の「生成AIを中心とした技術パラダイムシフト」への対応が困難です。AIという大きなゲームチェンジを前に「次の世代に引き継ぎたい」と考える創業者が増えています。
また、未上場の中小IT企業は規模的にPEファンドの対象から外れやすいことに加え、世襲文化がないためナンバー2などの既存社員が株式ごと引き継ぐケースも稀です。優良な顧客基盤を持った黒字事業であっても、受け皿がないまま、「静かな引退」を選ばざるを得ない状況が生じています。
「バーティカルソフトウェア」はAIに負けない
私たちが承継対象とするのは、特定の業界・業務に特化したバーティカルソフトウェアを提供する企業です。ホリゾンタル(汎用型)ソフトウェアに比べて参入障壁が極めて高く、顧客と長年の信頼関係が構築されている点や、業界特有の商習慣、法規制、帳票、業務フローなどのドメイン知識を保有している点が特徴です。私たちは、国内にはこうした黒字の非上場バーティカルソフトウェア企業が4,000社ほどあると見立てています。

バーティカル領域を選ぶ理由は2つあります。
第1に、課題の切実さ。運送・建設・医療など、「2024年問題」に象徴される労働力不足に直面する業界ほど、業務を支えるソフトウェアへの需要が切実です。
第2に、AI時代における価値向上の余地が大きい点です。業界特化の構造化データが蓄積されているため、AIを組み込んだ際の業務自動化や付加価値創出のインパクトは、汎用ソフトを凌駕します。承継後にAIを実装することで、人手に依存していた業務を自律的に回す次世代の事業体へと進化させることが可能です。加えて、ディストリビューションチャネル(販売網)に食い込むことが非常に難しい領域でもあり、業界内の権威者による推奨や、クローズドなコミュニティ内での長年の信頼関係を起点として導入が決まります。新規参入者やAIによる汎用的な代替から守られるモート(参入障壁)が存在しているのです。
この参入障壁は、裏を返せば、参入後の安定した地盤でもあります。同じ業界の中で地域ごとに点在する企業がグループに加われば、それぞれの地盤を保ったまま、全国をカバーする体制も描けるのです。
また、グループ内に同様のバーティカル企業が増えることで、顧客基盤を共有したクロスセルや、開発リソースの共通化などによるシナジーが働き、成長を加速させることが可能です。
築き上げてきた技術、信頼を次世代へ繋ぐ「受け皿」となる
事業承継を早くから「自分ごと」として考えているオーナーは、実は多くありません。親族承継も従業員承継も具体的に考えたことがないまま、健康寿命を意識したとき、あるいはM&A仲介会社などからの売却提案の連絡をきっかけに、初めて選択肢として向き合うのです。
その決断で重視されるのは、価格だけではありません。残る社員の働く環境が急に変わらないこと。自社に足りなかった採用やマーケティングなどの機能を補い、事業をもう一段成長させてくれること。近すぎる同業への譲渡は「やり方を押し付けられ、会社の良さが消えてしまうのではないか」と敬遠されることも少なくありません。確かな技術と顧客基盤を持つ会社ほど、「誰に、どう託すか」が重い問いになります。
従来のPEファンドといった事業承継プレイヤーの多くは、譲受後にコスト削減で収益性を改善し、第三者へ再売却するモデルを取ってきました。しかし日本では、解雇を伴う大胆なコストカットは規制面でも文化面でもハードルが高く、そもそも中小企業の多くは人手不足の状態にあります。
M&A市場の構造を見ても、EBITDA5億円超の中〜大型案件にはPEファンドや事業会社がひしめく一方、EBITDA数億円以下の案件では、潜在的な売り手の数に対して買い手が圧倒的に不足しています。私たちが向き合うのは、まさにこの「買い手不足」の領域です。

譲渡を考えるオーナーには、いくつかの選択肢があります。EXITを前提とするファンド、自社事業とのシナジーを判断軸とする事業会社、そして、事業そのものが「AI駆動型事業承継プラットフォーム」である私たち。特定事業とのシナジーを問わず、承継企業が築いてきた事業・ブランド・組織・ネットワークそのものを最大の価値と捉える点が、前二者との根本的な違いです。
マイクロニティは、単なる経営権の承継(資本の移動)ではなく、「技術の承継と近代化」を担うAI駆動型プラットフォームとして社会に介在しています。
AI駆動で経営が回る、自律分散型のエコシステム
そのうえで、私たちの特徴は大きく3つあります。
1つ目は、「AIによる成長」で価値を生むこと。バックオフィスや採用、営業といった従来型の支援に加え、AIによる事業運営の自動化に投資します。これを主導するのが、当社のAI専門組織「M-Lab(エムラボ)」です。承継企業のレガシーなソースコードやドキュメントをAIで解析・最適化。現場メンバーの暗黙知をデータとして整理し、特定の個人に依存しない「持続可能な運営体制」へとアップデートします。将来的には「事業責任者1人だけがいて、それ以外の業務は全て自動で回っている会社」を実現していきます。

2つ目は、「永久保有」が前提であること。ファンドを組成せず自己勘定とデットでM&A資金を賄うため、償還期限に迫られて売却することはありません。これにより、承継企業で働く人たちが安心して仕事を続けられる環境を維持します。
3つ目は、「買い手」として振る舞わないこと。私たちは、承継した企業の独自性やブランド、そして現場の自走力を徹底的に尊重する「自律分散型」「連邦型(合衆国型)」の運営スタンスを取っています。すべてをマイクロニティ流に染め上げるのではなく、各社の強みを活かしたまま、共通のテクノロジーインフラや、要望に応じた支援を提供します。主役はあくまで参画いただく各社。私たちはプラットフォームとして裏方に徹します。
「スタートアップ」だからこそ、事業承継に挑む意義がある
事業承継は、資金力のある大手やファンドの仕事に見えるかもしれません。それでも私たちは、この課題を解決できるのは政治や政策ではなく、スタートアップだと考えています。
この20年、政府の後押しも受けて、スタートアップ業界にはヒト・モノ・カネが流入し続けてきました。一方で、同等かそれ以上の事業規模と収益力を持つ地方の中小企業には、スポットライトが当たっていません。VCが求める成長性や、PEファンドが求める事業規模に届かなくても、長年黒字経営を続けてきた優良企業は正当に評価されるべきです。
そもそも、いま承継先を探している中小ソフトウェア企業の多くは、かつてのスタートアップです。ソフトウェア事業でARR100億円を達成し、ユニコーンや大企業へ駆け上がれる企業はほんの僅か。多くはやがて中小企業となり、それでも市場特化型の優れたソフトウェアを提供し続けています。
スタートアップ・エコシステムの恩恵を受けてきた私たちが、資本と人材と技術をこうした企業に還流させ、過小評価されてきた価値に再び光を当てる。それこそが私たちの使命だと考えています。
そして、私たちにはスタートアップの枠を超えた経験があります。代表の山﨑は、過去にAIスタートアップの創業、グローバル展開に成功したアドテクスタートアップの立ち上げから東証マザーズ(現グロース市場)への上場、Googleへのフィンテック事業の売却、株式非公開化(MBO)などを経験し、今回が3度目の起業となります。組織としても、前身のメタップス時代を含めると、テクノロジー業界のM&A・投資を30件以上、資金調達では累計350億円を超えるトラックレコードを持ち、20以上のソフトウェア事業をゼロベースから収益化してきました。成功も挫折も含めた経験のすべてが、承継先に伴走するための財産です。承継後の企業に必要な機能を、実務経験ごと提供できることが私たちの強みです。

「個の結集」で社会に大きなインパクトを
1社1社は小さくても、確かな技術を持つ企業が個性を保ったまま結集すれば、社会に大きく持続的なインパクトを生み出せる。社名の「マイクロニティ」は、Micro(個々の小さな力)とUnity(結束)を掛け合わせた言葉です。私たちは、今後10年以内にグループ100社を目標に掲げています。日本全国には、優れた技術と深い顧客基盤を持ちながら、後継者不足や技術のモダナイゼーションに悩むバーティカルソフトウェア企業が数多く存在します。そうした企業をグループへ迎え入れ、消えるはずだった技術と信頼を次の世代へ引き継ぎ、AIとともにもう一度成長させることが、私たちの大きな挑戦です。
次回以降のnoteでは、「AI×事業承継」の具体的なアプローチや、承継した企業で実際に取り組んでいることなどについて、さらに踏み込んでお届けしていく予定です。ぜひフォローしてお待ちください。
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