「倒産寸前の会社で働いています」第十三話
【あらすじ】
ある日、私こと斎藤は会社のヤバさを知ってしまう…。
限界寸前の私、限界寸前のこの会社、そんな会社でのエピソード。
この物語は…フィクション…です。
【気になれば最初からどうぞ!】
話は少し前に遡るのだが、経営プランナーの庄司さんが最初に面談に来た際、必要な資料を求められ、私が全て揃えた経緯がある。
その時の資料の中に、直近までの試算表などもあったため、私は税理士の先生の城さんと何度か連絡を取ることになった。
さて、この城さんの税理士事務所は、経理の全てを丸投げでお願いしている、神様みたいな存在だ。請求書や領収書など必要なものを預ければ、お金の管理は全てやってくれている。この事務所があるから、私は経理に携わらずにやってこれたのだ。
実はまだ、お世話になり始めて日が浅い。昨年末頃からなので、7、8ヶ月といったところだろうか。うちの会社の決算は6月なので、期の真っ只中で変更したことになる。それもこれも、経営がうまく行かないのを前任の会計士のせいにして、社長が急に切ってしまったからだ。その時、経理を担当していた人も、切られてしまった。
社長は、「(会計士が)何言ってるか全然分からん」とか「(経営)どうやったらいいんや」とか、全く自分の頭で解ろうとしない、考える気がないことばかりを言っていた。そして、自分のお金の使い方が悪いだけなのに「あの会計士は使えん」と言って、変えることを決めた。その辺りから、おかしいなと思ってはいたが、今年に入ってこの顛末である。
本来なら、会計士を変えるのも、決算が終わってからの方がスムーズだろうと思う。けれども、社長の気まぐれで前任の人を切ってしまったものだから、半ば強引に期の途中からの変更をお願いした。社長のつるんでいる人の紹介とはいえ、断ることもできただろうに、城さんは快く受けてくださった。本当に、有難い存在なのだ。
ちなみに、城さんは、気のいいおっちゃんである。喋るのが大好きで、毎月領収書などの資料を取りに来てくれる(近いからと言うが普通は客のこちらが持っていくべき)度に、社長がいなければ私と喋っていく。私とは玄関の前で立ち話、といった感じで、偉そうにする素振りは全くない。優しいが、かなりズケズケとものを言うタイプの人で、話しているとめちゃくちゃ楽しい。なので、私はこの先生のことが大好きだ。
経営プランナーの庄司さんに提出するための書類として、試算表と6月が決算だったので決算表をできるだけ早くほしいと言われていた。少しでも早く、返済をストップして赤字を減らすためだ。
城さんへの電話で、試算表はすぐにでも、決算表はできるだけ早く欲しいと告げると、
「なんでそんなに急ぐ必要があるん?」
と聞かれた。
——え…? 社長、城さんに何も説明してない…ん?
私は、城さんと話し合った結果で商工会にお願いしたものだと思っていたのだ。確かに、商工会の話を持ってきたのは違う人だったが、普通に考えて、直接お金の絡むことは、いつもお世話になっている税理士さんと相談するのが筋だろう。けれども、城さんが知っているような気配がない。
ただ、会社の状況を私が勝手に説明する訳にはいかないと思い、
「なんかね、社長が欲しいって言うんですよ〜」
私はよく分からないんですよね、といった体で話すしかなかった。
「ふーん、分かったわ」
そう言って城さんは気安く請け負ってくれた。
——会社でお金のこと分かってる人が誰もおらんのに、税理士さんと密に連絡取らへんかったら、どうやって経営していくねん…。
本当に、社長のやっていることがよく分からなかった。
後日、城さんが先に試算表を持ってきてくれた。
事前に電話があったので、車が到着するなり私は玄関を開けて出ていく。忙しいだろうから、外で受け取ってすぐに帰ってもらったら…と思い、いつもそうするのだが、そのまま私との立ち話タイムに入ってしまう。
「おはようございます。すいません、いつも持ってきてもらって…」
「えーよ、通り道やし。そんなん気にせんといて」
「ありがとうございます」
「そんでよ、この前社長に聞いたんやけどよ。商工会にお金払って、なんかコンサルみたいなん頼んでんの?」
どうやら直接、社長に電話をして聞いたらしい。
「あ、お聞きになりました? そうなんですよ。私も詳しくは知らないんですけど、再生委員会みたいなところに頼んで、銀行の返済を1年ぐらい止めてもらうっていうことをするそうです」
「はーっ、もう、コンサルなんて、ほんまに当てにならんで。だってあいつら責任無いもん。僕らはハンコついて税務署に書類提出するから、ちゃんと責任持ってやらなあかんけど、あいつらは会社が最終どうなっても、知ったことちゃうしな」
「そうですよねー」
コンサルタントの庄司さん達も、会社を再生させるために書類を作ったりしてくれているのだが、やはり城さんは色々と見てきているのだろう。今日もガンガンと物を言う。
「こっちにも相談せえーよなぁ。自分でなんも分からんくせに…。社長、数字弱いやろ。ほんま考えが甘すぎるわ」
「はは! まだ、半年ほどしかお付き合いしてないのに、よく分かりますね」
「そりゃ、長年この仕事やってきたらな。ある程度のことは分かるで」
「前の会計士さんも、経理にいてた人も、何を言っても分かってもらわれへん…って。私も収入と支出の表みたいなのは出すんですけど、分からへんって言われました。小遣い帳みたいなもんやのに…」
「ほんまかいな。いやもう、喋っててお金の話になったら『あー』とか『うー』とかしか言わんしやな。ほんで、それもそやし、この前社長から、〇〇会社との仕事止めたって聞いてたんやけど。こんな仕事してるとな、他からもその話が聞こえてくるけど、聞いてた内容と全然違うで」
——あーそれは…いつもの社長の、記憶を都合の良いように変換するやつ!!
「まぁ、こっちも、そんな話題出ても黙って聞いてるけどな。付き合いしてるって言わんし」
「ほんまにそれ、あるあるですよ…。社長と相手さんの言ってることが噛み合わないこと、多いですもん…」
事務所にいると、電話口で揉めているのをよく耳にする。
「ほんで社長、えーカッコばっかりするやろ」
私は、首がもげるぐらい縦に振った。
「えーカッコに言うて、いけるいける言うてくれる人の言うことしか聞かんやろ」
またも、私は激しく同意する。
「そんなんで、やっていける訳ないやん」
「…誰も言ってくれないんで…。決算終わったら言ってあげてください」
「僕が言うても聞かんかもしれんけどな」
はははっと笑って、城さんは、ほな!と帰っていった。
8月
決算が終わり、社長は最終の決算表がこれで良いかという打ち合わせに、税理士の城さんのところへ赴いていた。そして、事務所へ帰ってくるなり
「あー、もう、ほんま俺と合わへんわ!!!」
とキレながら、私達の前で言う。こうやって、誰に話しかけるでもなく、大きな声で独り言を言う時は、誰かが聞いてあげないといけない。
「どうしたんですか?」
社長のことをよく分かっている浦安さんが、聞いてくれた。
「スーツ代が経費に入らへんて言いよんねん。今まで入ってたのに」
——え、しょうもな…。
しょうもないことで怒っていた。そしてそれは、今までの経理の人が上手くやってくれていただけの話ではないか。そりゃ、税理士の事務所に経理ごと丸投げしたら、ダメなものはダメと突っ込まれるのは当然である。
「作業着やったら経費に入るって言われた。ほんま合わへんわー!」
「あぁ、それよく言われる話ですよね」
浦安さんが、すかさずフォローに入る。
「俺も、会社やってる時に言われました。なんでか知らんけど基本的にスーツは経費で落ちへんて。なんでやねんて言うたことありますわ」
「へぇ、そうなんですか」
私も合いの手を打っておく。
「スーツは仕事以外でも着れるから、みたいなこと言われたけど、スーツなんか仕事以外でどこで着んねん、作業着と一緒やろって言うたけどあかんかった」
浦安さんが、私の合いの手に答えてくれる。確かに運転手の仕事をしていて、スーツを着る機会はないと思われる。が、一般的な話なのだろう。経理とはホワイトカラー寄りのものの考え方なのだろうか。
社長は、自分がムカついた話を浦安さんが同意したことで、爆発的な怒りの溜飲は下がったようだったがイラつきは継続しているらしい。
「ほんま、なめてるよな。俺と合わへんし、税理士変えよかな」
と言い出した。紹介してもらっておいて、しかも期の途中から無理やりお願いしておいて、こんなしょうもないことで切ろうとする。ここまでしてもらっていて気に入らないなら、もうどこにお願いしても無理だと思う。
そして私は、この税理士を変えるという言葉を聞いて、一気に心情は穏やかではいられなくなった。
——今、税理士変えられたら、確実に全部私に振りかかるやん…。絶対に嫌やっっ!!
経理の仕事をしたことはないが、ソフトに入力するぐらいであればできるのではないかなとは思う。何より金勘定は得意な方だ。が、この会社で経理などしようもんなら、経営が上手くいかないのが全部私のせいになるのだ。今までの人がそうだったのだから、間違いない。そんな面倒なことに巻き込まれたくないし、そんなことを請け負う義務も義理もない。今でもギリギリのところで仕事をしているのに、そうなったら本当に精神が崩壊してしまう。
けれども、そんな思いを社長が知る由もない。自分の気分のまま本当に変えてしまいそうな勢いであった。そして、その行為を誰も止められないのも事実だ。
——そうなる前に、辞めなければ…。
私の決心は大きくなった。
さて、事務所内では社長サイドの話を一方的に聞いて、税理士を変えたいという結論に至ったのだが。後日、税理士の城さんが決算書を持ってきてくれた際に、なぜ税理士を変えたいと言ったのか、本当の理由が明らかになる。
第十四話に続きます。
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