インボイスに反対する漫画家の発言を見て思い出したこと、思ったこと。


インボイスに反対する漫画家のつぶやきが炎上していた


簡単に言うと、漫画家やヘルプに入るアシスタントさんにはお金と時間がないのでインボイスが導入されたら余計な事務作業やただでも少ない報酬が削られて大打撃になり廃業に追い込まれるので反対する、と言う内容だった。
炎上していたのは、それにさらに(つぶやいた当人曰く)「他国に惨敗した」製造業などの他業種を貶める文言と、それに比して漫画は日本のこれからを支える誇るべきコンテンツだと言う趣旨の文言が入っていたからだ。

他にも類似の発言をする漫画家さんがいた。

これらに賛同する意見には、「これから夢を叶え才能を花開かせるはずの漫画家さんや将来の漫画家になるはずのアシスタントさんに、余計な事務作業と言うクリエイティブではない雑務をやらせるのは、漫画と言う日本を代表する素晴らしい文化とその担い手を潰す損失にしかならない」、といったものや、「この素晴らしい日本の漫画と言う文化を政府は潰す気か」、と言う非難、「この業界の人は少なからず発達障害の人なんかも多いのだから事務なんかやらせるな、漫画に専念させろ」とか、作家本人が「自分はコミュ障だから報酬上げろとか交渉するのは無理」などというものもあった(これらの意見は意訳)

これらの炎上騒動を見て思い出したこと

がある。

私は学生時代絵が好きで絵の道を志したこともあったけれども親の反対やイラストを描くにあたってペン入れがへたくそすぎると言う致命的な欠点があったこともあり、地元に就職した。
つまりは、絵の道に関しては完全なる負け組である。

ただ、夢を実現できなかったと言うことではあるが、逆に生活はまあ安定していたといってもいい。
薄給とは言え定期的に給料が入ったからだ。
そして、仕事に慣れるまでいっぱいいっぱいだったが、慣れてきたら気持ちに余裕が出てきて、また気軽な落書きを始めていた。
ただ、普通はそこでイラストなり漫画なりを描き始めたら同人誌を作りそうなものだが、自分からは作る事はなかった。
前述の通り、ペン入れが致命的にへたくそだったからだ。
しかしアナログ時代にペン入れができないというのは、やはり同人作家としては致命傷だと思うのだ。

へたくそならペン入れを練習すればいいじゃないか、と思われそうだがずっとしていたのである。
それでも上達しなかったのだった。
なので、商業作家には向いていない自覚はあった。
ただそれでも、日々溜まる感情の捨てどころとして絵を描く必要があったのだと思う。
外部に発表する予定もなくただひたすら描いていただけだった。

とは言っても結局何度か同人誌を作ることにはなったのだが、それに関してはいろいろあったのでそれは割愛する。

ここで言いたいのは、冒頭の漫画家のつぶやきで思い出したことである。

成り行きでというか、環境や状況が許さなくて絵の道に進めなかった私だが、それはそれなりに良かったのではないか、と思った最初のきっかけである。

大昔、栗本薫と言う故人の女流作家が、BL雑誌の先祖のような雑誌で「小説道場」と言う連載をしていた。
簡単に言うと、BL雑誌の読者から小説を募集して批評するコーナーで、栗本薫氏のお眼鏡に叶えば、その雑誌に作品が載ったりもした。
とは言うものの私はリアルタイムではこの連載を見ていない。
かなり後年になってから相方が単行本を買ったので読んだのである。
その中に、表現は覚えてはいないがこんな趣旨の記述があったと記憶している。
「プロになろうと焦るのではなく、好きなものを思いっきり書けるアマチュアと言うぜいたくな期間を思いっきり満喫してほしい」
つまり、裏を返すとプロは好きなものを思いっきり書けない、と言うことになる。
だが反面なるほどな、と当時の私の腑に落ちた。

プロになれなかった負け惜しみと思われるかもしれないが

、実際のところペン入れの件でもわかるように自分は極めて不器用である。
最初に絵の道を志した当初も、漫画家かイラストレーターか一瞬悩んだが即座にイラストの方を選んだ。
なぜなら先程のペン入れの問題もさることながら、一番描きたいところは描きたいが、そこに至るまでの過程(最重要ではない部分)を描くのが大変に苦痛だったからである。
それから、自分がストーリーテラーでは決してなかったからと言うこともある。

では何が得意かと言うと、結局鉛筆またはフルカラーのイラストであった。

そして、プロになれなかったにもかかわらず、なんだかんだ言ってずっと描き続けているのである。
つまりこれは、自分は「絵を描きたいから描いている」という状態であって、「絵や漫画を描いて人から注目されることが主目的ではない」ということに気がついたからである。
となれば、プロである必然性は無いのでは。そしてプロになって流行に合わせて自分の好みと違うものを描くということに耐えられるか、と聞かれればおそらく無理。と言わざるを得ない。
漫画で必要な、重要なシーンに至るまでの過程すら書くのが苦痛だった私である。
そういう意味ではプロ根性と言うものは欠片もない、ということになる。

そういう意味では、両親の強力な反対が1番の動機ではあったが、プロを目指して上京などをしなくて結果的にはよかった、と言うことになる。

そして

「自分が絵を描きたいのか、絵や漫画を描くことによって自己顕示欲を満たしたいのか」といった優先順位

の決定は非常に重要だったことに気がついた。
そこで優先順位を間違っていたら、例えプロになったとしても不満が絶えず、上手くいかなかった可能性が大だからだ。

そして

思い出したと同時に思ったこと

がある。
冒頭の炎上発言の擁護にあった「事務『なんか』やらせるな」(発達障害発言も考えものだがここでは割愛)「コミュ障だから無理」についてである。

事務は現在の私の仕事である。
他にも小売などもやった事もあるが、職種としては事務が多い。
現職事務員としては

「事務『なんか』」と見下されがちな『つまらない仕事』と思われていることは理解は出来るが、理不尽

であるとも思う。
というのは真性オタクの私は事務仕事にもオタク属性を発揮してそれなりに面白くやっているからである。

例えば最初に手応えを感じたのは、他社への支払い業務を担当した時である。
前任者が手書きの取引先名簿と電卓で大量の支払い業務をしていたため、引き継ぎ当初大変に苦労したのだった。
それはアナログでやるべき量ではなかろうと思い、あまりよくわからないなりにExcelと首っ引きになって取引先名簿を全てExcelに移し(いわゆるデジタル化)、支払い用金額算出Excelシートも作成し、全てのExcelメニューバーをひっくり返して使える機能がないかを目を皿のようにして探し、誰にも教わらずにピボットテーブル機能を見つけマニュアルもないのに試行錯誤でクロス集計したのだった(当時使ってたPCはインターネットに繋がっていなかったので検索も出来なかった)

私は決して理系ではなく(絵を描くぐらいだから推して知るべし)、学生時代の成績も数学と英語と体育が一番悪いという人間だったのだが、とりあえず四則計算とPC及びExcelの基本的な動かし方(セルの概念など)が分かれば文系でもなんとかなるものなのだと知った。

以降は順調にExcelだけでなくMS Accessなどのデータベースも扱うようになり、マクロは組む、自分用アプリケーションやシステムを作るなど遺憾なくオタク精神を発揮した。
たとえそれが絵や漫画でなくとも、「事務『なんか』」と見下される仕事であっても、マクロを組んだりプログラムを作ったりするなどのクリエイティブな仕事はあるのだ、ということはやってみないとわからないことだった。
わからないのに「クリエイティビティのないつまらない仕事」と断じるのは当を得てないと思う。
そりゃ1,000個くらいあるデータを端から端までチェックするとかいう奴隷みたいな仕事もあるが、これも漫画で言うなら点描を点々と打つのに等しい作業である。
端までチェックして抜かりなければ「全データを制覇したぞー」という気分になる。
1,000個くらいあってもやれば出来るものである。
食わず嫌いでやらずにハラハラドキドキしながら上司や取引先や時には公的機関からお叱りを受けるか受けないかの賭けに出るより、当たり前に端から端までチェック完了させる方が精神衛生上ずっと良いし、やってみれば始める前の不安を裏切って案外早く終わるのである。

小売は相方の本業である。
相方も私に負けず劣らずコミュ障で、私と同じく比較的人間嫌いで、人間関係では浮いてしまいがちなタイプである。
しかしその相方が先日言ったのだ。
「私、作家デビューとか出来なくて負け組だと思ってたけど、定収があるからとりあえずお金の心配しないで趣味で小説に没頭出来るのは結局良かったと思う。

お金の心配があって追い詰められたら執筆に没頭出来ないタイプだったわ、自分


「あと、自分

コミュ障だけどお店でお客さん対応は結構好きかも


と言ったので目を剥いた。
「多対一は嫌だけど一対一なら割と好きかも。勿論嫌な客も時々はいるけど。やってみるまでわからないもんだね」
と言うのである。

前振りが長くなってしまったが、冒頭の炎上発言の擁護にあった「事務『なんか』やらせるな」「自分はコミュ障だから無理」について思ったこととは、

『事務も人間関係も、経済(お金)が絡む以上この2つに無縁な業種はないし、やってみれば案外出来る』

ということだ。

勿論、向き不向きは人それぞれだから万人が出来るとは言わない。
しかし「事務『なんか』自分の本当の仕事じゃない、機会を見つけて絵の道に進みたい」と思っていた私でもやってみれば出来たし自分の裁量で生産性を向上させられるというのは実はクリエイティブな仕事なのだった。
自分で組んだシステムはかわいい子供である。

場面緘黙症持ちでコミュ障の相方も、やってみたら「(TPOは限られるが)接客は嫌いじゃないかも」と言うのだ。

事実として「事務『なんか』」「コミュ障だから無理」は私たちの場合食わず嫌いの無知故の思い込みだったのである。
とすると繰り返すが向き不向きは人それぞれだから万人が私たちのように事務や接客が出来るとは言わないが、では私たち以外の「事務『なんか』」「コミュ障だから無理」勢の全てが100%本当に出来ない、向いてないのか? というのは確率的にあり得ないだろう。
かつての私たちのようにやってみもしないのに思い込みでそう言ってるだけの人は案外多いのではないか。

繰り返すが、『事務も人間関係も、経済(お金)が絡む以上この2つと無縁な業種はないし、やってみれば案外出来る』のだ。
経済活動(漫画家イラストレーターも含む)をする以上、事務がない仕事はない。人付き合いがない仕事もない。

経済活動は数字の世界だから、必ず事務がある。
経済活動は何かを流通させる活動だから、必ず人付き合いがある。


思い込みで「出来ない」と決めつけて自分を不利に追い込むより、やってみた方が良いと思う。

Excelは最初の概念さえ理解できればそんなに難しくはない。基本操作と「さんすう」(数学ではない)が分かればOKである。
Excelがたとえ初歩でも出来れば個人事業主の事務の効率はグッと上がる。

コミュ障でも、本当に全ての人付き合いが出来ないわけではないことが、(場面緘黙症持ちの!)相方の言葉で実感した。

最後に、最近相方に教えてもらって色々考えさせられたnoteをご紹介する。

すごくわかりみが深く、そして過去の自分を冷静に振り返りつつ読者への優しい心遣いからのアドバイスが何というか響くnoteだった。

いいなと思ったら応援しよう!