人肌【二次創作BL小説連作まとめ】
見知らぬ天井。いや、ここ数年で見慣れた天井は懐かしささえある。
AFOとの最終決戦。辛くもヒーローの勝利となった。
これから賑やかさを取り戻すだろう平和な世界は現実のものとなった。
「出久」
未だ聞き慣れない響き。
「かっちゃん?ごめん、僕、起き上がれないんだ」
腕は失くしたまま、元には戻らなかった。支える腕がなければ誰かの補助無しに起き上がれない。
「いい、そっち行く」
かっちゃんが近付く気配。
「かっちゃん」
影が落ちて、かっちゃんの顔が見えた。
「かっちゃん?」
見えた、と思ったら残った二の腕に、かっちゃんが抱き着いた。
「んで、ンなんになっとんだ」
すぐ耳元で声。二の腕に湿った感触が広がる。
「かっちゃん」
次から次へと僕にかっちゃんの涙が染み渡る。
かっちゃんは泣く、という行為を隠さない人だ。
「ごめんね、かっちゃん」
僕はそこで初めて、両腕を失くしたことを惜しいと思った。
抱き締め返してあげられない体温は、ぴったり36.5℃のまま。溶け合うこともなく、流されて行く。
◇◆◇
人肌が、恋しくなったのかも知れない。
かっちゃんの頭をポンポンと叩いた。
驚くでもないかっちゃんがそこに居て、居てしまってくれて。僕はというと、調子に乗ってしまうにはそのリアクションがどうにも心地よくて。
かっちゃんの頭を僕の人工皮膚で覆われた機械の手のひらが撫でる。
嘘だろう。
何で。
頭をこちらに傾けて、撫でやすくするかっちゃんがそこには居て。居てしまって。
かっちゃんの頭が実は丸いなんてこと、僕が知って良いの。
両の目から流れる雫が嫌になるくらいに熱くて、春の風が、桜のように、遠くまでこれを飛ばしてくれることを、切に祈った。
◇◆◇
かっちゃんの頭を撫でさせてもらってから、気付いたらあっという間にかっちゃんが同居人になっていた。
「かっちゃん、良かったの」
「しつけえわ、俺の決めたことになんか文句あんかよ」
「な、ないよ」
ブンブン首を横に振って否定の意を体する。
「なら良いだろが」
「うん」
自然と機械の指先で頬を掻く。ハッとして手を下ろす。
かっちゃんが眇めた目でこちらに視線を寄越す。
「まだ違和感あんの」
「そういう、訳でもないんだけど。小さな子たちとかは驚かせちゃうかなって。はは」
苦い笑いが溢れる自分を自覚する。
「最近の人工皮膚は質が良いし、大丈夫じゃねえ?」
かっちゃんの励ましとも取れる言葉に虚を突かれて、目をパチパチと瞬かせる。思わず笑みが溢れる。
「かっちゃん、ありがとう」
本当に、感謝だ。
「けど、かっちゃんになんの見返りも返せそうにないや」
「俺はヒーローしとるんだが?」
「はは、困った時はお互い様ってことかな。……でもなあ」
うんうん唸る僕にかっちゃんが動いた。
「返してえなら貰っといてやるよ」
「え?」
僕にかっちゃんの影が落ちる。
「ん、は」
かっちゃんの唇が僕の唇に吸い付いて離れた。気付いた瞬間、隙間なんか、許したくなくなった。
君の溢す全てを飲み込んでしまいたい。
唇を追い掛けて、塞いだ。
ああ、息を奪うってこういうことなんだ。実感を伴って、奪い尽くした。
許したくなかった、隙間を。
偽物の両腕が本物のやわい肌を掴む。
やわい肌が僕の背中に回される。
許されてしまった、熱を移すことを。機械の両腕が、人肌を、撫でることを。
君のやわい肌から熱を奪って、両腕に血を巡らせた。
◇◆◇
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