初めての抱っこ/嬉しさと切なさが重なった日
生後2日目。
妻は、初めて息子を抱っこすることができました。
生まれてから2回目の面会の日です。
前日に会った時、息子は保育器の中で眠っていましたが、
この日は保育器からNICUのベッドへ移っていました。
呼吸を助ける方法も変わり、
鼻から高い濃度の酸素を送りながら過ごせるようになったことで、
保育器の外で眠ることができるようになっていたのです。
もちろん、まだ安心できる状態ではありません。
それでも、
小さな体が少しずつ前へ進んでいることを感じられる変化でした。
ベッドの中には、シーツで作られた小さなクッションが置かれ、
その中で息子は優しく包まれるように眠っていました。
看護師さんは、
「赤ちゃんは体が包まれていると、お母さんのお腹の中にいるような安心感を感じるんですよ。」
と教えてくれました。
その姿は、
本当にお腹の中で丸くなって眠っているようで、
とても愛おしかったそうです。
そして看護師さんが、息子をそっと抱き上げ、
妻の腕に抱かせてくれました。
初めて抱く我が子。
ずっとお腹の中で一緒に過ごしてきた命が、今、腕の中にいる。
でも、
その瞬間に感じたのは、嬉しさだけではなかったようでした。
「こんなに小さくて大丈夫かな。」
「手や足を痛くしてしまわないかな。」
「ちゃんと抱っこできるかな。」
初めての子育て。
まだ首も座っていない、小さな命。
体には酸素や点滴など、たくさんの管がつながっています。
怖いと思うのは、当たり前だったと思います。
妻は日記に、こんな言葉を残していました。
「もう少しお腹の中にいさせてあげられたら。」
「ごめんね。」
「でも、自分で呼吸をしたり、心臓を動かせるようになって、一日でも早く会いに来てくれたんだよね。」
「本当に、本当に嬉しいよ。」
初めての抱っこは、
嬉しさと切なさが入り混じった時間だったそうです。
その日のことは、僕もよく覚えています。
電話で妻が、
「抱っこするの、本当に怖かった。」
と話してくれた時、僕もすぐに、
「それは怖いよね。」
と答えました。
初めての子ども。
ただでさえ抱っこするのは緊張します。
それなのに、息子はとても小さく、首も座っていない状態で
呼吸器や胃管の管理もしながら抱っこしなければなりません。
僕も同じ立場だったら、きっと手が震えていたと思います。
それでも、電話での妻は終始笑顔。
おっかなびっくりですが
我が子を抱ける喜びにかなうものはありません。
あの頃は、新型コロナウイルスの影響で、
NICUの面会も厳しく制限されていました。
ぼくも早くあいたい気持ちはありますが、
妻でさえ、一日に一度、
ほんの短い時間しか息子に会うことができませんでした。
病室を出れば検温や感染対策があり、
すぐ近くにいるのに自由に会えない毎日。
僕はさらに面会できる時間が限られていました。
だから、
妻が面会から戻って話してくれる夜の電話が、
息子の様子を知る唯一の楽しみな時間。
「今日はこんな顔をしていたよ。」
「今日は少し手を動かしていたよ。」
そんな一つひとつの話が、僕にとって何より大切でした。
そして、その日。
妻が笑顔で、「抱っこできたよ!」
この一言が、本当に嬉しかったのを覚えています。
さらに嬉しかったのは、
看護師さんがその瞬間の写真を撮ってくれたことでした。
小さな息子を、大切そうに抱く妻。
その写真を見た瞬間、
「本当によかった。」
心からそう思いました。
もちろん、
「僕も抱っこしたかったな。」
そんな気持ちも少しだけありました。
でも、それ以上に、妻が初めて我が子を抱けたこと。
そして、息子が安心したように妻の腕の中にいる姿を見られたことが、本当に嬉しかったのです。
あの日の一枚の写真は、
今でも、家族にとってかけがえのない宝物になっています。
