Keep On Walkin'! 覚悟を持って歌い続ける。メイヴィス・ステイプルズ
ゴスペルを肌で感じて
2025年3月11日~13日Billboard Live TOKYOでの、メイヴィス・ステイプルズ公演。初日に足を運んだ。

全16曲。照明が落ちるとメンバーがステージに現れた。メイヴィスを18年サポートし続けるギターのリック・ホルムストロームをリーダーとするトリオ、2人の女性コーラスが登壇。バンドで1曲やるのかと思ったら、ほどなく手を引かれてメイヴィスが現れた。85歳相応の足どりで、よっこらしょと小柄な身体をステージに上げる。
だがよっこらしょは、そこまでだ。
自身を鼓舞するかのようにパンパンパンと高速で手拍子を打つと、歌手メイヴィス・ステイプルズに。
かっこいい・・・思わずつぶやいた。
曲はステイプル・シンガーズの“City In the Sky”だ。
メイヴィスの低い声が、大地を這うように伝わってくる。
続いて“I'm Just Another Soldier”。会場が小さくどよめく。
私が闘うための唯一の武器は愛と歌うステイプルズ・シンガーズのナンバー。
そして軽快な“Handwriting on the Wall“でリックもコーラスに加わり完全にビルボードは教会のようなムードに。
私たちはPositive Vibrationを届にきたの。
一緒にLove Trainに乗りましょう!
と“Who Told You That”へ。
定番曲でなくても神を歌わなくても、これがゴスペルなんだ、と肌で感じる。
歌い続ける理由。メッセージは変わらない
歌の一つひとつは、今、この世界のさまざまな理不尽な状況にもリンクする。
前日に見たアラバマ州で起こった血の日曜日事件から60年を記念し、数百人が行進したとのニュースも頭をよぎる。1965年3月のあの日、セルマからモンゴメリーへと行進する黒人を警察と武装した人々が排除し、犠牲者も出た。ただ、このときの映像がテレビで全米に流れたことにより、公民権運動は大きく次へと動いたのだった。
盛り込まれたメッセージは、悲しいかな、今の時代にもリアルだ。そしてそれを歴史の生き証人であるメイヴィスが歌う。
ファミリー・グループで活動してきた彼女は、特にルーツと自分の中に流れる血を強く意識しながらここまできたのかもしれない。
キング牧師も好きだったという“Why? (Am I Treated So Bad)”では、ポップ・ステイプルズの姿が重なり、ミシシッピのルーツも自然に感じられたし、おばあちゃんの思い出を通じ“Moan”の意味を問う歌も。
彼女の歌からは自ずと歴史が見えてくる。出会い、別れ。いろんな出来事を経験しながら、ここに立っているんだなあと改めて考えると、胸が熱くなった。
https://www.youtube.com/watch?v=IgcIqGKnNXw
目が離せなかったメイヴィスの両手
『Live In London』のジャケ写のボクサーのように拳を握るメイヴィスは印象的だが、この日もその両手から目が離せなかった。
握る拳。突き上げる拳。空に向けて拡げる手のひら。送るかのように客席に向けた手と指のエレガントさ。そして力強い手拍子。こんなに物言い、歌う歌手の手を見たことは無い。

シンプルなメッセージでぐっときたのはノラ・ジョーンズとのデュエットで生まれた“Friendship”。
折りに触れ、メイヴィスがゲストに来たノラ・ジョーンズのポッドキャストを聴いてきた私にとってもうれしい1曲だった。
ラストから2曲目の“Human Mind”は新曲のようだ。昨年プリンスにインスパイアされた“Worthy”を発表したときにも意欲的だなあとちょっと驚いたものだが、まさかここでも新曲とは。ニューアルバムが届けられる日が待ち遠しい。
やっぱりオウンバンドは最高
事前にリックのバンドで来てくれると聞いた時から何も心配していなかったが、やはりオウン・バンドのサウンドは安心感がある。
テレキャスターとレスポールを操るリックのギターには、ぞくぞくさせられた。メイヴィスも全面的に信頼を寄せているようで、時折2人で内緒話?をしながら進行していく。
ウィリアム・クラークやジョニー・ダイア、そしてロッド・ピアッツァとウエストコーストのハーモニカ・プレイヤーをバックアップし、ソロ作もリリースしている彼は改めて注目を集めていくだろう。
西海岸で活躍してきたリズム隊の2人も、過不足ない見事なサポートぶりだった。
<メンバー>
Rick Holmstrom.g.vo
Gregory Boaz.b
Steve Mugalian.ds
Saundra Williams.vo
Kelly Hogan.vo
歌うってなんだろう
あの曲を歌ってくれたらいいなと思いながら、私たちはライヴに足を運ぶ。
結果として今回私が足を運んだ初日は“The Weight”もなかったし“I'll Take There”も歌われていない。でも終わってみたらやらなかったね、と気づいた感じで、ライヴ中はひたすらひきこまれていた。
観客側には少なからず、自分の思い出も込みで私の大切にしてきたあの曲を聴きたいという思いがある。レジェンドならなおさら。
もちろんヒット曲や観客が期待するナンバーを歌うのもエンタテインメントとしては大事なサービスだと思う。だから大好きな曲が歌われなかったり、アレンジが変わっていたりすると、思い出を踏みにじられたようでがっかりしたりもする。
でもこうしてみると、未来を見ているのがシンガー(ミュージシャン)で、過去を見がちなのがお客さんなのかもしれない。おおげさに言えばですが。
そして未来を見ているシンガーの方がパワーもあり魅力も大きい。
何よりメイヴィスは、覚悟を持って人前に立ってきた人なのだろう。
以前のような歌声ではないし、時折疲れた表情で椅子に腰をおろす場面もあった(ただし、曲の途中で座ってるところから斬り込んでくるシャウトがまたすごいんだが)。
でもそれはたいした問題じゃなかった。
Keep On Walkin!
拳を掲げたメイヴィスが忘れられない。
彼女についていけば何もかもオーライになる。あのステージには、そんな力があった。それをゴスペルと呼ぶのか何なのか、今は答が出ない。
ただ、彼女自身から確かに深い慈しみがあふれ出るようなライヴだったのは確かだ。
言葉で書くとなんだか安っぽいからあんまり書きたくないけど、時に愛はフォーマットも楽曲をも超え一つの音楽となって響く。
それが実感できただけでも、得がたい一夜だった。
ありがとうメイヴィス。
とても追いつける気はしませんが、一人の女性として、また人間として私もいくつになっても強い気持ちで、そして愛らしさを忘れず生きていきたい。
◆1日目
1. City in the Sky
2. I’m Just Another Soldier
3. Handwriting on the Wall
4. Who Told You That
5. Can You Get To That
6. Got To Be Some Changes For Made
7. I Belong To The Band
8. Why? (Am I Treated So Bad)
9. Respect Yourself
10. Solan Bushi
11. Chicago(Tom Waitsのカバー)
12. Heavy Makes You Happy (Sha-Na-Boom Boom)
13. Friendship
14. Far Celestial Shore
15. Human Mind
16. Everybody Needs Love (Eddie Hinton のカバー)
