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ピンク色の異変 〜主婦の脳内に忍び寄るアイドルの罠〜

「まつかれがピアノ弾けるの知ってる?」

夜10時。夫が突然放った言葉に、私は手に持っていた洗い物をほぼ落としかけた。

(まつかれ...?)

「松本かれんだよ。FRUITS ZIPPERの」

そこから繰り広げられたのは、魚をさばきながらアイドルトリビアを語り出す夫の姿だった。

(え、なんで知ってるの?しかも略すの?)

「IT系だからリサーチが得意なんだよね」

え、リサーチ...?そんなスキル、息子のピアノの練習時間に活かしてほしいわ。

これは一体どういうことなのか。すべては数ヶ月前に遡る...

ある日の出来事

買い物帰りの電車内、隣に座った女子高生たちがスマホで何かを見ながらキャッキャと盛り上がっていた。普段なら気にも留めないのだが、ふと目に入った画面に私は思わず見入ってしまった。

カラフルな衣装に身を包んだ女の子たちが、完璧なダンスを披露している。特に目を引いたのは、ピンク色の衣装を着た笑顔の女の子。

「何これ」

思わず声に出してしまった私に、女子高生の一人が答えてくれた。

「FRUITS ZIPPERっていうアイドルグループです。略してふるっぱー」

家に帰り、何気なく検索してみた。「FRUITS ZIPPER」「ふるっぱー」「わたしの一番かわいいところ」...

気づけば1時間が経過していた。

罪悪感とピンク色の誘惑

私には許されない。40代の主婦が、若いアイドルに夢中になるなんて。しかも私には家族がいる。高校生の娘と小学生の息子。そして夜な夜な魚をさばく趣味を持つ夫。

「自分に言い聞かせよう。これは一時的な気の迷いだ」

しかし、その誓いも長くは続かなかった。

料理中、洗濯物を畳みながら、掃除機をかけながら...気づけば頭の中で「わたしの一番かわいいところ」が流れている。そして脳裏に浮かぶのは、あのベビーピンクの衣装。

「ただの色だし...ピンクが好きになっただけ...別に」

自分に言い訳しながら、ショッピングモールで思わずピンク色のハンカチを買ってしまう。

「これは息子のハンカチが足りないから...」

そう、これは息子のため。決して松本かれんさんのベビーピンクに惹かれたわけでは...

密かな楽しみ

家事の合間に、こっそりスマホでYouTubeを見る。

「FRUITS ZIPPER 武道館」
「松本かれん ピアノ」
「ふるっぱー たまアリ」...

検索履歴が怪しくなってきた。

「お母さん、最近スマホ見過ぎじゃない?」

娘の一言に、罪悪感が押し寄せる。でも、次の瞬間には「わたしの一番かわいいところ」のサビが脳内再生され、罪悪感も吹き飛ぶ。

「武道館公演」
「たまアリライブ」
「レコード大賞受賞」

単なるアイドルグループではない。彼女たちは本気だ。「KAWAII」に命をかけている。そんな彼女たちの姿に、私は日々の家事や子育ての中で失いかけていた「本気」を思い出していた。

夫の異変

「マグロの赤身とベビーピンクって合うと思う?」

ある日、夫が突然私に聞いてきた。最初は何を言っているのか理解できず、頭がパニックになった。魚とピンク...?

「いやいや、刺身の盛り付けで」

そう言いながら、スマホをスクロールする夫。画面には「#まつかれコーデ」なるハッシュタグ検索が...

(あれ...夫までも!?)

「ふるっぱーって知ってる?」

試しに聞いてみると、「ん?ああ、FRUITS ZIPPERのこと?松本かれんが一番人気だよね」と、知ったかぶりの返事。

IT系の仕事をしているせいか、夫はどんどん詳しくなっていく。「まつかれがピアノ弾けるの知ってる?」「衣装のデザインって誰がやってるか知ってる?」...

もう、このピンク色の侵食は止められない。

家族のピンク化

「お弁当、ピンクのおかず入れて」

息子の突然のリクエスト。桜でんぶ?梅干し?それとも...

「ピンクのお弁当箱がいい」

そこまで言われると、もはや抗えない。

娘も「TikTokで踊ってみた」と言いながら、「わたしの一番かわいいところ」を踊るようになった。

「留学のために英語の勉強も頑張ってるから、息抜きになるし」

息抜きのはずが、娘の部屋からは毎晩「かがみ」が流れてくる。

ある日、家族全員の夕食時。

「みんな、どうしちゃったの?」

思わず口にした私の問いに、夫が答える。

「いや、別に普通だよ。ピンクが好きになっただけで」

その言葉を聞いた瞬間、私は気づいた。自分自身がまさにそう思っていたことに。

主婦の反撃

「わかった、もう隠さない!」

家族会議を開いた私は、思い切って告白した。

「私、ふるっぱー好きなの。特に松本かれんさん。ピンクが似合いすぎる可愛い声。一生懸命さと笑顔が素敵で...」

沈黙が流れた後、夫が静かに言った。

「知ってたよ。検索履歴見れるし」

(なんだってーーー!?)

「僕も好きだよ」と息子。「わたしも」と娘。

「だったら言ってよ!こっそりスマホ見なくてもいいじゃん!」

その日から我が家は「ピンクハウス」と化した。リビングには堂々とふるっぱーのライブ映像が流れるようになり、夫は魚をさばきながら「わたしの一番かわいいところ」を口ずさむようになった。

新たな日常

「松本かれんさんはピアノも弾けて、声も可愛くて...」

魚をさばきながらアイドルトリビアを語る夫。「それより息子のピアノの練習聞いてやれよ」と言いつつも、私も思わず「新しい曲の振付も、本当に可愛いよね」と相槌を打っている。

息子はダンスを習っているから、振り付けも割とすぐ覚えられる。ふるっぱーの新曲が出たら、すぐに踊れるのが誇らしくもあり、なんか悔しい。私が見よう見まねでぎこちなく踊るより、断然まつかれっぽいし。なんなら声も似せてくる。

娘は「留学先でも日本のカワイイ文化を広めたい」と言い出した。TikTokのダンスの腕前も上がり、「まつかれの動きに近づいてきた」と自信を見せる。

家族の会話に「まつかれ」「ふるっぱー」が自然に混ざるようになり、何よりも不思議なのは、それが心地よいと感じること。

ピンクの向こう側

「好きなものは堂々と好きでいい」

そんな当たり前のことに、なぜ私たちは気づけなかったのだろう。

年齢や性別、立場を超えて、「KAWAII」は人を幸せにする。松本かれんさんのベビーピンクは、私たち家族に新しい会話のきっかけをくれた。

「今日はピンクのお弁当作ったよ」
「今度のライブ、家族で見に行こうよ」
「新曲のまつかれのセリフ聴いた?」

かつては「魚をさばく夫」「留学準備の娘」「習い事に忙しい息子」「家事に追われる私」という別々の軸で回っていた家族が、「ピンク」という一つの色で繋がった。

物を買うとき、料理を作るとき、服を選ぶとき...少しだけピンクを意識するようになった私たち家族。

そして、この変化は決して悪いことではないと思う。「KAWAII」が持つ力、「ピンク」が持つ力。それは日常に彩りを与え、心を軽くしてくれる。

罪悪感からの解放

40代主婦がアイドルにハマるなんて—そんな罪悪感は、もはやない。

年齢なんて関係ない。好きなものを好きでいい。「KAWAII」に年齢制限はない。

家族で「わたしの一番かわいいところ」を踊る姿は、きっと傍から見れば滑稽かもしれない。でも、それがどうした?

私たちは「ピンク色の異変」を経て、より明るい家族になった。

夫は今も夜な夜な魚をさばいている。でも、その傍らにはピンク色の角皿が加わった。(よく探してきたな‥)

「刺身はやっぱり自分でさばいた方が格別だな!ねえ、新曲のまつかれ見た?」

こうして、私たち家族のピンク色の日常は続いていく。

松本かれんさん、あなたのベビーピンクは、一つの家族の日常を変えてしまいました。ありがとう。そして、これからも素敵なパフォーマンスで私たち家族を魅了してください。

だけど、うちの夫が「まつかれ」と略すのだけは、今でもちょっとムカつきます。それは夫だけの特権じゃないよ!私だって...

(あれ?私も略しちゃってる...?)

もはや誰も止められない、ピンク色の侵食。

みひろ(ピンクに染まった主婦)

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