真っ白な時間

真っ白な時間。
空白の時間を今、私は生きている。

予定のないスケジュール帳。
真っ白な日々。


「行ってらっしゃい。」

ズッシリと重いリュックを背負って、社会へと出ていく夫を見送り、ガチャリと玄関のドアを閉める。

君と2人だけの部屋になると、
「また今日もこの時間が始まったのか」と
何とも言えない気持ちになる。

この小さな言葉を持たない生き物と、たった二人。この小さな部屋で。


仕事を休んでから、まだ数ヶ月なのに、もう一生戻れないような、そんな気持ちになる。

鬱が酷くなって無職だったあの時間を思い出す。

自分だけが、社会から取り残されているような、そんな気持ち。

自分だけが、歯車から脱落してしまったような、そんな気持ちになる。

育休という形に名前を変えて、あの時の恐怖がまた私を襲ってくる。

ミルク、おむつ、ミルク、おむつ、繰り返しの日々に意味を見出そうと必死になる。


合間の時間に、私は本を読み、そしてペンを持つ。

読まずには、書かずにはいられなくて。

こうやって、言葉を摂取して、消化して、排出していかなければ、言葉を失ってしまう。


ミルク。おむつ。ミルク。おむつ。
読んで、ミルク。書いて、おむつ。


そうやって息つく間もない生活の中に織り込んで。




「大丈夫?また調子悪いんじゃないの?」


お風呂上がりの夫にノートに言葉を書き付けている様子を見られ、そう問われる。


知っている。

あなたの脳裏には、あなたの名前もまともに言えなかったあの時の私が映っている。

あの時、私自身よりも必死に私を救い出そうとしてくれたのは、あなただった。


それでも、私は書きたい。
この焦りを紙に書き付けて、誰かに読んでもらいたい。

「違うんだよ、そうじゃなくて」

言いかけて、言葉を飲み込む。


ねえ、私はまたおかしくなっていくのだろうか?

自分でも自分が不安になる。




いや、違う。

書くから、壊れるんじゃない。

私は壊れまいとするために書いているのだ。

私が私であるために。



「あー、うー」

言葉を持たないんじゃない。
これから言葉を掴もうとしているのだ。

私と、一緒だ。
何もない、空っぽの白じゃない。


真っ白な時間。
それは君と過ごす甘いミルクの匂いのする時間。

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