私のアオハル〜タカラジェンヌの夢叶う〜前編
少し前にこんな記事を書いた。
私の幼い頃の夢は、宝塚の男役になることだった。
夢みたジェンヌ名はせせらぎみかげ。
宝塚の舞台には立てなかったが、当時通っていたミュージカル学院の卒業公演でフランクというマフィアを演じることになり、「男役で舞台に立つ」という夢は叶えられた。
そして、このフランクである劇団のオーディションに挑んだのだった。
その時のことを書いた記事で、皆さんがせせらぎみかげをめちゃくちゃ盛り上げてくださり、お調子に乗った私はこの男役フランクについて思い出してみたくなった。
卒業公演は昼と夜のたった2回公演だった。
そのたった2回のために仲間と全力で駆け抜けた。
私のアオハル
皆さんに楽しんでもらえたなら、私の中のせせらぎみかげが、羽を背負って大階段から降りて来ることでしょう。
それでは、開幕!
「ラグタグ・ラプソディ」
※ラグタグ=下層民・ならず者
舞台は1930年代後半のニューヨーク。
ここは、マンハッタンの下町、小さな裏通り・・・ラグタグ通り。
この界隈は、イタリア(ナポリやシシリー)からの移民達が店を出している。
夜になると、娼婦館のネオンが瞬き、落書きだらけのレンガの壁の向こうには、摩天楼が見下ろすようにそびえ建つ。
この裏通りで、貧しいながらも明るく懸命に生きている人たちを描く物語。
【登場人物】
靴磨き、労働者
フランク(マフィア)
ジョニー(フランクの子分)
娼婦達
ロザンナ(ジョニーの妹)
オープニングは都会の裏通りに暮らす人々として役者全員が、歌い、踊る。
ラグタグ通りの歌を歌うのだが、音程がどうしてもとれない私は、歌が上手な同期の横に誤魔化しながら踊って近づき、コッソリ音程を確かめていたことを今、打ち明けよう。
私は、ハマるとそこそこ歌えるのだが、ハマらないと、びっくりするくらい音程が外れる。
裏通りの人々の貧しさを表現するために、ボロボロの衣装をみんなで作った。
同期の家に集まり、みんなで手分けをして白シャツをハサミで切り絵の具で染めた。先生が唯一褒めてくれたのでよく覚えている。めちゃくちゃ嬉しかった。

アオハルだアオハル
本番は、今までにない一体感が劇場を包み込んだことを今でも覚えている。
本番って、魔物も棲んでいるけど、不思議な力が湧く時がある。
たまらない瞬間。
そこから愉快な靴磨きの歌があり、そして、2人が登場する。
黒いソフト帽を被りシルバーのスーツ姿のフランクと、その後をハンチング帽にスタジャン姿のジョニーが追っかけてくる。
フランクは始め3枚目路線だった。「果物柄とかのだっさいネクタイして」と、先生はイメージしていたが、同期も私も「フランクは絶対カッコいい方がいい!」と意見が一致し、勝手に「黒いシャツに真っ赤なバラの刺繍ネクタイ」に変えて、衣装合わせに挑んだ。
みんなが自分でイメージした衣装を着て先生の前に1列に並ぶ。
「この部分は別の色の方がいい」「これはやりすぎ」「ここ、切ってみようか」
1人ずつ順番に先生のチェックが入る。
そして、私の番が来た。
吉と出るか、凶と出るか・・・ゴクッ。
上から下へ先生の鋭い目線が動く。
無言。
「じゃあ、フランクこれで」
よかったーーーーーーー緊張したーーーーーー
というわけで、めでたく2枚目カッコつけフランク路線に決まった瞬間だった。
「待ってくれよ、アニキ。オレだって一生懸命やってんだよ」
「ジョニー、お前の言い訳はいい加減聞き飽きたぜ」
ジョニーがなんやかんややらかして、フランクの大事な車を壊してしまった。
フランク大激怒。
という場面だ。ジョニーが言い訳するのだが、結構な長台詞を噛まずに言わなければならない。先生に「ジェットコースターのように!」と何度も何度も言わされていた。
何度やってもなかなかOKが出なくて、ジョニー役の同期は陰で1人悔し泣きをしていた。
娼婦達が通りかかる。
そこで、車を壊したことの他に、フランクが大事にしていたドンペリをジョニーが勝手に飲んでしまったことをバラした。
フランク絶望のち大爆発。
ここで、フランクは近くにあった箱馬を怒鳴り散らしながら蹴飛ばしてはけるのだが、本番は力が入りすぎて「痛ってぇな!」とアドリブをかましました、私。
痛かった。
ジョニーを励ます娼婦たち。そこでジョニーは故郷の妹ロザンナのためにコツコツ貯めておいたお金でシャンペンを買ってフランクにお詫びすると言うのだ。
そこからロザンナから届いた手紙の場面に移る。
ジョニーは字が読めない。
代わりに、娼婦の1人であるロージーがその手紙を読む。
ロージー役の同期は、この娼婦を演じるために髪の毛をオレンジ色にした。他にも娼婦シェリー役の同期は金髪にし、フランクの恋人役のリンダは赤髪に。
ある稽古の日に更衣室の扉を開けると、黒髪だった3人がいきなり奇抜な色になっていたので、大爆笑しながら3人の本気を讃えた。あの瞬間は今でもはっきり思い出すことができる。
アオハルだアオハル
ジョニーはカッコつけてショービジネスの世界で働いているとロザンナに嘘をついていた。ロザンナはその姿を見るのを楽しみにしていると、手紙には書かれていた。
ジョニーは、いつか必ず自分の店を持ってこの街で成功することを決意する。
とても美しく感動的な場面だった。
次に、娼婦の館の場面になり、煌びやかに娼婦たちが歌って踊る。
そこに、一通の電報が届く。ロザンナからだった。
『大西洋上を航行中。18日、ニューヨーク港に到着す。迎えに来られたし。ロザンナ』
なんと、妹のロザンナがナポリからアメリカにやって来るというのだ。兄のジョニーに会うために。ジョニーはヒャッホー!と喜ぶのだが、ハッと気がつくのである。
「俺、ショービジネスの世界で働いているなんて嘘ついちゃったヤッベーーー」
せっかく妹のロザンナが遠くからやって来るのだから、ジョニーのためにみんなでひと芝居打ってやろうじゃないか!ということになるのだが・・・問題は・・・
あの男である。
今もなお怒り狂っているあの男を説得しなくてはならない。
この時、私は上手の袖でスタンバイしていた。
私の前には、娼婦のジーナとシェリーが袖から飛び出す準備をしている。
シェリーは、集中するために両手を腰に当て、じっと床を見つめていた。
役に入っていく瞬間を私はじっと見つめていた。
「た、助けてーーーーーー!」
ジーナとシェリーが館に飛び込んで来る。
敵対しているマフィアにフランクが撃たれたというのだ。
咄嗟に館を飛び出すジョニー。
外は雨、雷が鳴り響き、緊迫した場面だ。
袖でスタンバイしている私。
そろそろ出番だ。
ジョニーの肩に腕を回す。
よし、行こう。
ジョニーに支えられながら負傷したフランクが館に戻ってくる。
ソファに横になり、リンダに寄りかかる。
ジョニーが水の入ったグラスを渡す。

「・・・ありがとう、ジョニー・・・」
助けに来てくれたジョニーに照れくさそうに礼を言うフランク。
その一言で許してくれたことがわかったジョニーは大喜びでフランクの頬に何度もキスをする。
本当にブチュッとされた。
ジョニーが店のボスになるという計画をフランクに話すのだが、なかなか首を縦に振らないフランク。そんなフランクを恋人のリンダは優しく説得する。
この場面の稽古中、先生は言った。
「哀川翔と藤原紀香で」
えーーーーーーー
わかる気がするけど、できない。
考えれば考えるほどわけがわかんなくなる。
「、、、うーーん。50点」
50点、、、、。
良くも悪くもない、微妙な数字。
私は、めちゃくちゃ落ち込んで膝を抱えながら顔を埋めていた。その時、横にそっと近づいてくる人がいた。顔を見なくても気配だけで相手役の彼女が隣に来てくれたことがわかった。
これか。
私たちがその場面を掴んだ瞬間だった。
その時から先生は何も言わなくなった。
リンダのおかげでフランクはジョニーのためにひと芝居うつことを引き受けた。
場面は波止場。ボォーッと汽笛が鳴る。
ロザンナを迎えにジョニーが走ってくる。
「ジョニー兄さん!」「ロザンナ!」
兄妹の久しぶりの再会。
とそこへ、フランク、ロージー、リンダがやって来る。
「おい!ジョニー、迎えにきたぜ〜」
自分はジョニーの運転手だという設定を忘れていつものように軽く呼びかけるフランク。
ロージーとリンダが肘突く。
ジョニーがロザンナに3人を紹介する。
「ロザンナ、紹介するよ。こちらは俺の・・・アニ・・・・いや、あの、えっと、アニ、アニ、アニ・・・そうっ!アニタ!アニタっていうんだ!!」
「え゛っ?!」

「アニタさん?女の子みたいな名前ですね!」
「え゛っ?!・・え、ええ・・マ、ママが女の子が欲しかったもんですから」
私は勢いでフランクをおねぇ設定に変えてみた。先生は何も言わなかったので、アイデア採用ということで、そのままフランクは晴れておねぇキャラになった。
「さぁ!あんたたち!行くわよ!」
このおねぇフランクが観客にウケた。
観客の笑い声って、役者にとってめちゃくちゃ快感なのだ。
舞台はショーステージへと変わる。
ジョニーの店という設定だ。
ロザンナのためにショーの幕が上がる。
フランクも娼婦達もダンサーとして歌い踊る。
ここで私は、ダンスのソロをもらった。
「mikaここソロで」
「あ、ハイ」
振り付けの先生にそう指示されてあっさり返事はしたけれど、それを聞いた時の胸の内は本当はもう、嬉しくて嬉しくて、目も鼻も耳も口も、ありとあらゆるパーツが四方八方に飛び出しそうだった。
宝塚のショーが大好きだった。
小さい頃、ソフト帽をかぶり踊る男役にどれほど憧れたことだろう。
ピンと伸びた背すじで舞う姿は美しく、深くかぶったソフト帽で顔は口元しか見えない。
もうかっこ良すぎていつも目がハートだった。
そんな目をハートにしていた少女の夢が、今、叶えられようとしている。
後編につづく。
