魅惑の着ぐるみワールドへようこそ
時は、四半世紀前に遡る。
私が、ピッチピチのプッチプチだった頃。
「mika、着ぐるみのバイトせーへん?」
と一通のメールが届いた。
このメールを送ってきた相手は、そう・・・
ユーカリ・ラディアータ
彼女だった。
ラディはnote仲間でもあり、リアルな私のネバ友でもある。
(※ネバ友=一緒にいると喋りまくって口の中がネバネバになる心友)
(記事→『神戸のネバ友から届いた「note」』
「え、おもしろそうやん。やるやる!」
こうして私たちは魅惑の着ぐるみワールドへと踏み出すのである。
当日。
私たちは駅で待ち合わせをし、ドキドキしながら会場へと向かった。四半世紀が経った今でもよく覚えている。
早朝だったので人もまばら(だった気がする)。
会場に到着し一歩中に入ると、そこは異次元空間が広がっており、私たちはそこがアニメイベントであることを瞬時に理解した。
広い場内は様々なブースに分かれており、私たちは事前に知らされていた自分たちのブースまで地図を見ながら向かった。その時点で私たちはどんな着ぐるみの中に入るのかはまだ知らされていなかった。
私たちのブースに到着。
ラディが扉をノックし中を覗く。
ガチャ
・・・
ラディは再び扉を閉めた。
「ちょっと待って!!!!!!!ちょっと待って!!!」
ラディが爆笑している。
明らかに様子がおかしい。
「mika!あかんて!あれは!!!!!!」
ラディが笑いのゾーンに入ってしまった。
私も恐る恐る扉を開けて中を覗いてみる。
ガチャ
・・・
なんかいる。
なんかいるな。
鎮座してるな。
ピンク色のぽっちゃりとした胴体に緑のモヒカン?みたいな頭
黄色の大きなアヒル口にまんまるとした可愛い瞳
あれはなんだ?
カッパか?カッパなのか?
アニメに疎い私はそこに鎮座しているピンク色の何者かを前に、動揺する。
あれはメジャーなキャラクターなのだろうか。
「mika!あれに入るんちゃう私たち。ウフフフフ」
ラディの笑いが止まらない。
笑い方が「ウフフ」になっている。テンションがぶち上がっている証拠だ。
そこへ係りの人が入ってきた。
「おはようございます。本日はよろしくお願い致します。お二人に入って頂くのはこちらの・・・」
ついにあの鎮座しているピンク色した何者かの名前が明らかになるぞ。
ゴク
息をのむ私たち。
こちらの・・・
「ムッチー(仮名)です」
ムッチー!!!!!!
ムッチーいうんかあの子!!!!!!
何だろ一気に親近感。
係りの人が仕事の流れを説明していく。
着ぐるみは中が相当暑くなるので30分交代。
他にも色々言っていたはずだが、さすがに四半世紀前のことだから覚えていない。
ただ、これだけは覚えている。
途中〇〇という番組の中継が入り、お笑い芸人の※※※との絡みがある
えっ!テレビ中継があるの!!しかも※※※だと?!
私は興奮した。
駄菓子菓子、私はムッチーの中だ。私はムッチーなんだ。
テレビに映るからって、※※※と絡みがあるからって、
私は、ムッチーなんだ!
決して子どもたちの夢を壊してはならない。
私は心に誓った。
いよいよムッチーに入るときがきた。
まずはラディからだ。
ああ!!!ラディが、ラディがムッチーの中に消えていく。
「ウフフフフ」
背中のチャックをジジジと上げる。
ムッチーにインしたラディ。中から籠った声が聞こえる。
「めっちゃ暑い!何これ!!!ウフフフフ」
ラディが笑っている。
「ウフフフフ。mika!この中めっちゃ臭い!ウフフフフ。ムッチーめっちゃ臭い!そして暑い!ウフフフフ」
ラディの笑いが止まらない。
ラディ!お口チャックだ!
着ぐるみから声が聞こえるなんて御法度だぞ!!!
子どもたちの夢を壊してはならないぞ!
これは使命だ!
私たちに課せられた使命なんだ!!!
ラディがインしたムッチーが係りの人にアテンドされながらヨチヨチ歩いていく。
ガンガン机にぶつかるぽっちゃりムッチー。
中から微かに聞こえるラディのウフフ。
健闘を祈る!!
私はラディが帰ってくるまで30分待機だ。
今みたいにスマホなんてない時代。なんてったって四半世紀前。
何をやっていたかは記憶に残っていない。
記憶に残っているのは、配られたお弁当がめちゃくちゃ豪華だったということと、日給10,000円だったということだ。
30分後、ラディがインしたムッチーがヨチヨチ歩いて帰ってきた。
ジジジとチャックを下げる。
中から汗でびちょびちょになったラディが出てきた。
「あっつ!!!!!!!」
開口一番ラディが叫ぶ。
前髪も汗でびちょびちょだ。
首に巻いたタオルで汗を拭くラディ。
「どうやった?!」
ラディがムッチーの中から出るのを助けながら聞くと、
「とにかく、暑くて臭いわ!ウフフフフ」
ラディは楽しそに笑った。
次は私の番だ。
私の脳内はもはや「暑くて臭い」しかない。
覚悟を決めてムッチーの中にインする。
・・・
あっつ!!!!!
くっさ!!!!!
もうそれしか出てこない。
このムッチーに入った時のモワッとした感じは、今でもなんとなく覚えているくらい強烈だった。
それでね、、、
それで、、、ね、、、
ムッチーの中のあらゆるところがね、、、
白いのよ。
2回言うけど、白いのよ。
これね、多分、、、、汗で塩ふいた跡。
いろんな人の汗。
ムッチーにインした人たちの歴史。
「ほな、mika閉めるでぇ」
ラディがチャックをジジジと上げていく。
ああああああああああああ!!!
私はムッチーの中に飲み込まれていった。
キョロキョロ・・・ここはどこ?
暗いわ。
そして
臭いわ。
ああ!ここはムッチーの中なのね。
私はムッチーになってしまったのね。
ムッチーの黄色い大きなアヒル口の奥に私の顔がある。
そこは黒い網がかかっており、中からは外が見えるが外からは暗くてこちらの顔が見えないようになっていた。
その口の周りも・・・絶賛白い。
「では、行きましょう」
ムッチーとなった私は、係りの人に短い手を引かれながらゆっくり歩き出した。
さぁ、表舞台へ!
ヨチヨチ
ヨチヨチ
「あー!ムッチーだぁ!」
「可愛い!」
「ムッチーだ!見て!ムッチーだ!!!!!」
子どもたちの声が聞こえる。
え、ムッチーこんな人気あるの。
ヨチヨチ
ヨチヨチ
バイバイ
私は調子に乗って手を振るアドリブを入れたりなんかしちゃったりした。
喜ぶ子どもたち。
嬉しい。
駄菓子菓子、暑い。
そして
臭い。
これは確かに30分が限界かも。
こうしてラディと私は30分交代で場内をヨチヨチ練り歩いた。
「そろそろテレビ中継入ります!※※※さんの後ろで立っているだけでいいので!」
次は私の番だった。
ムッチーの中とはいえ、ちょっと緊張する私。
「こちらに立っていて下さい。そろそろいらっしゃいますので」
ドキドキ。
ムッチードキドキ。
お笑い芸人の※※※が場内の様子をレポートしながら近づいてきた。
「さぁ!こちらにはあの、ムッチーもいますね!」
振られた!
振られたぞ!
カメラがこちらを向く。
手を振る私。
「さぁ!次行ってみましょう!」
※※※が去っていく。
ものっすごい一瞬だった。
一瞬だったけど、私はムッチーとして使命を果たせたことに1人感動していた。
よくやったぞ!mika!
とその時、誰かの視線を感じた。
チラッと横を見ると、1人の男の子がこちらをジーッと見つめているではないか。
とりあえず手を振る私。
ジーっと見つめてくる男の子。
手を振る私。
ジーーーーーーーー・・・
え、な、な、な、何?
嫌な予感しかしない。
男の子がゆっくりこちらに近づいてきた。
ムッチーの黄色い大きなアヒル口の中をジーッと見つめてくる。
え、何?
これ目あってる?
こっちは見えるけど向こうは見えないはず。
でもそんなに近づいたら見えるかもしれない。
2人の間に緊張感が走る。
次の瞬間・・・
!!!!!!!!!!!!!
ゴミ置いた!ゴミ置いた!ゴミ置いた!
なんとムッチーの口の中にティッシュのゴミを置いたのである。
イヒヒといたずらに笑っている男の子。
「ちょっと!!こんなところにゴミ置かんといて!!!!!」
フッ!フッ!
私は目の前に置かれたティッシュのゴミを過去一の肺活量でフッフッと落とそうとした。
「アレーーー?!今、このムッチー喋らなかったぁ??」
・・・ヤバイ。
私は着ぐるみのタブーに触れてしまった。
ヤバイ、逃げろ。
「あー!逃げた!ムッチー待てー!」
逃げようとするが、なんせ、ムッチーだ。
全っ然進まない。
ムッチーVS男の子
「ムッチー!もっ回何か喋ってー!ねぇ!ムッチーってばぁ!」
ペンッ
可愛いボディを叩かれるムッチー。
子どもは容赦ない。
くっそぉぉぉ
「ほらほら、ムッチーが痛がってるよ」
救世主現る。
男の子からムッチーを守ってくれたのは、係りの人だった。
係りの人に連れられ、ヨチヨチ歩くムッチー。
惚れてまうやろ・・・
なんてうっとりしていたが、ブースに戻るとすぐに
「着ぐるみが喋るなんて御法度ですよ!」
と注意されてしまった。
しょぼーん。mikaしょぼぼーん。
ラディに話すと、大笑いされた。
ムッチーの仕事が終わり、最後に少しだけ物販のお手伝いをして業務が終了した。
首に巻いたタオルも着ていたTシャツも汗でビッチョビチョになってしまった。
ムッチーの白い塩の跡は、私とラディの汗が加わりより一層芸術的な模様になったに違いない。
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この記事を投稿するにあたり、ムッチーの写真掲載についてラディに連絡をした。





と水面下でやりとりをしていた私たち。
ぼかし名人ラディに加工を頼もうとしたが、自分で頑張ることにした(苦手分野)。
では、はりきってどうぞ!!



ほぼぼかし。
なんてったって四半世紀前のことなので、多少は想像して書いた部分もあるけど、かなり強烈な記憶として残っているので、ほぼほぼこのまんまだと思われる。
恐らく最初で最後の着ぐるみ体験。
あのムッチーの中の尋常ではない臭い、忘れない。
ところで・・
ラディが気になることを言うのだ。
「mikaすごいなぁ。私、全く覚えてない。エリカさんだけ何故か覚えてるけど笑」
・・・
え。
エリカって誰。
こんなにもあの一日のことを鮮明に覚えているのに、エリカだけ記憶が抜け落ちているのだ。
「着ぐるみのバイトの後も、mikaに何回か連絡くるー言うてた記憶あるで。でもそれしかわからへん」
とラディは言うのだが、全く覚えていない。
なぜだ。なぜエリカの記憶だけがないのだ!
何か、あったのだろうか。
エリカは一体何者なのか?という謎だけを残し、魅惑の着ぐるみワールドを終わりにしたいと思う。
