田口史樹の謎かけが光る。キャップはティアラか?ジュエリーか?
京都新聞 2026年 8月1日掲載
細密な細工が、光の反射をはらんで自ら発光している。繊維か金属粉を集積させたように見えるが、銀の板から手で切り出し構成した作品だ。


田口史樹は、東京藝術大学彫金研究室に学び、日本のアートジュエリーの先駆者・平松保城との出会いからジュエリー作家になった。作品は欧米の博物館に収蔵され、ロエベが主催するクラフトプライズのファイナリストに選出されている。日本以外での高い評価には、そのまま日本と欧米の、宝飾品の文化的ステイタスの違いが現れる。
日本の女性皇族のティアラの歴史は200年ほど。愛子様がティアラを新調されないのは、ご本人にも国民にも、それを贅沢品と見なす心情があるのだろう。対して英国王室の王冠は1000年以上に渡って権力を可視化する、崇拝の対象だ。
田口のキャップ型の作品(写真)は、布に見える部分も銀製で、ニューヨーク・ヤンキースのロゴがきらめく。カジュアルな姿をしていても、「ジュエリー」だ。田口は「このキャップは、ティアラとは言えないだろうか?」と観客に問う。NYのロゴがティファニーによってデザインされたという史実が、その謎かけを面白くする。人はなぜ頭部をジュエリーで飾るのか? 宝石とロゴとの違いは何か?宝飾品の権威が自明でない我々の目に、作品は純粋なウィットに輝いてみえる。(C.A.J.=中京区富小路通御池下ル 8月16日まで 火水休)
