ニチアサの話がしたい vol,273
■今週のゴジュウジャー
・厄災を喰う、覚悟を描く
いよいよ残り数話となってしまった『ゴジュウジャー』。今週の第46話「果てなき青春!これが真のパリピ道!」ではゴジュウジャー内での指輪争奪戦がついに幕を開けた。初戦に手を挙げた角乃と禽次郎の一戦が今週の放送のメインとなるわけだが、その前に、幹部の中でただ1人ノーワーンワールドに留まることを決めたファイヤキャンドルの話をしておきたい。
女王であるテガジューンが人間界で生きると決めたとしても、誰よりも部下思いの隊長であるが故に人間と戦い続ける道を選んだファイヤキャンドル。彼は更なる強さを求め、ゴジュウジャーたちの戦いに敗れたビダルの亡骸を見つけ出すと、何とその死肉を貪り食うことで厄災の力を取り込む。大人のファンも多いとは言え、幼年層がメインターゲットのスーパー戦隊だ。ノウハウとしても「敵のエネルギーを吸収する」という演出だったらいくらでも選択肢があったと思うが、直接的な表現は控えていたにしろ(代わりに肉屋の看板が怪しげに点滅するの演出もまた東映特撮のノウハウの一端だろう)「直に食う」という描写を選んだところに、「ファイヤキャンドルの捨て身の『覚悟』を描きたい」という脚本家 井上亜樹子さん含むゴジュウジャー制作チームの『覚悟』を感じて思わず背筋が伸びてしまった。
・三本木さんの「魅せる」芝居
その後、テガジューンの思いを確かめるため、ロボ墓場を訪れたファイヤキャンドル。自らが生み出したアーイーやノーワンたちが暮らすノーワンワールドも、いずれ人間やテカソードたちと共に歩んでほしいと言いつつ、その方法はまだ分からないと話す女王に対し、ファイヤキャンドルは怒るでもなく失望するでもなく、ただ少しの諦念を含ませた穏やかな微笑みすら称えて「そうか」と呟き、ノーワンワールドは自分が背負うと静かに決意を口にする。ファイヤキャンドルは正確には人間ではないが、ここに彼の人間力のようなものが如実に現れているように思う。「人間に絆されやがって」「この裏切り者が」と、女王やブーケ、ケイク夫妻をここで罵り嘲ることもできるはずなのに、陸王を愛したブーケ、禽次郎と友情を交わしたケーク夫妻、家族と生きたいと願ったテガジューンそれぞれの決断を尊重し、決してその思いを否定せず、その上で自分がやるべきだと感じたことは突き通す。どこまでも「義」に生きる彼らしく、だからこそ本当に見ていて胸が苦しくなる。仲間のためならこの身は滅びても構わないと豪語するファイヤキャンドルを見ながら、いつかものの本で読んだ「争いはお互いを疎む気持ちだけでなく、“仲間のため、家族のため”という純粋な愛や正義が引き起こすこともある」というような一説を思い出した。それは自分が迷いなく暴力を振るうために正当化しているに過ぎないのではないかとその時は思ったが、今のファイヤキャンドルに同じ言葉が投げかけられるかと言えば大いに躊躇ってしまう。それこそ『クウガ』がいい例だが、「守る」ためなら誰かを傷つけることは許されるのか、それはファイヤキャンドルだけではなく、全てのヒーロー番組が抱えるジレンマではないだろうか。
白眉なのはその後、「私たちはもう、仲間じゃありませんか?」とファイヤキャンドルの腕を掴んだブーケの手をやさしく解き、本当は絶対に、何日も何日も考えて考えて考え抜いたはずなのに「考えるのは苦手だ」と、はにかむと、妙に芝居がかった態度で「俺は戦うことしか脳がねえからなあ~!次会った時は敵同士かもしれねえ!」とパンチを繰り出しておどけ、そして真剣な表情にすっと戻ると、今生と別れとでも言うように感極まった様子で「だが……今までありがとう……!」と深々と頭を下げるファイヤキャンドル役 三本木大輔さんの芝居だ。思わずこの番組の主人公は彼らブライダンなんじゃないかと思ってしまうくらい引力のある演技で、「三本木さん、相変わらず『魅せる』芝居をするなあ~」と心の底から唸ってしまった。もう、今のファイヤキャンドルは誰にも止められない。だからこそ、彼の行く先にどうか破滅以外の道が残っていてほしいと願わずにはいられなかった。
・茶飲み友達の縁
組み分けジャンケンの結果、角乃と対決することになった禽次郎。しかし、それが何かも分からないのに「真のパーリーピーポー」になりたいなどと願う自分は「妹を目覚めさせたい」という切実な願いを持つ角乃と戦う資格がないのではと葛藤。そこに現れたのがMr.シャイニングナイフ&Mrs.スイートケーク。厄災に侵されたシャイニングナイフを助けようとしてくれた禽次郎に恩を持つ彼らは、かつて敵対していたゴジュウーグルではなく、悩める茶飲み友達「禽ちゃん殿」を応援するため、時に試練を与え、時には実家にお邪魔に座して話を聞くなど、様々な方法でサポートを買って出る。この種族を超えた友情が何ともスーパー戦隊らしくて温かい。(余談だが、禽次郎に2人分お茶を出された際、両手に湯呑みを持って同時に飲むケーク夫妻役 細川晃弘さんのちょっとした芝居が面白くて笑ってしまった。顔が二つあるからそれはそうなんだけどさ!)
そんな折、鮮やかなチューリップ畑の前で撮った思い出のスナップの裏に「バカ真面目。そんなところも 好き」という、房子からの時を超えたラブレターを発見した禽次郎の胸は途端に高鳴る。突然のハートビートに、それがときめきだと気付かず、咄嗟に「動悸!?息切れ!?」と、禽次郎がまず健康不安を疑ってしまうくだりは、筆者を含むそこそこいい年齢の視聴者の皆さんにとっては「あるある」だったのではないだろうか。それに「まァ~!」「これはお熱いことだ」と頬を緩ませるケーク夫妻。仲睦まじさの方向性は違うかもしれないが、禽次郎と同じくケーク夫妻も愛妻家だからこそ、今でも亡き妻 房子のことを大切に思っている禽次郎の気持ちに寄り添えるというのも「結婚」をモチーフの一つにしてきた『ゴジュウジャー』ならではの展開でとても素敵だ。
・真のパーリーピーポーとは
房子との思い出から「真のパーリーピーポーとは何か」を悟った禽次郎は意を決して角乃との戦いの地へ赴く。「禽じいと過ごした時間、楽しかったよ」「僕もだ。角ぽよと一緒で楽しかった」。戦いの前にそんな言葉を掛け合う2人。角乃役 志田こはくさんと、禽次郎役 松本仁さんの腹の決まった人間にしか出せない和やかさはどこか厳かな雰囲気さえあり、その空気感だけでジーンと胸打たれてしまう。昭和の頑固ジジイと令和のあざと女子。普通に生きていたらどう考えても接点の無さそうな2人が、互いの生きてきた時間に想いを馳せ、共に「今」を過ごすことで「禽じい」「角ぽよ」と呼び合うほど仲を深め、視聴者からは「禽すみ」と呼ばれコンビで愛されるようになった。指輪争奪戦で願いを叶えられるのはただ1人であるし、ゴジュウジャーもそれを織り込み済みで共に歩んできた集団ではあるが、指輪争奪戦がもたらしたものは奪い合いだけではなく、そこには思いがけない幸福だって確かにあったのだと思えて目頭が熱くなる。
互いの思いを懸けた熱い戦いは、ファイヤキャンドルが出してきた横槍をゴジュウジャーの他の面々が抑える形で続き、最終的には角乃の勝利によって幕を閉じる。「僕を負かしたからには、必ず願いを叶えるんだぞ」と禽次郎に言われた角乃は、彼から受け取った指輪を握り締め「うん!これからは禽じいの思い、背負って戦うから!」と晴れやかな笑顔を見せ、そんな角乃を見て禽次郎も満足そうに微笑む。後の吠とのやりとりの中で「房子のように思うがままに生き、自分だけでなく周りのみんなも笑わせること」が「真のパーリーピーポー」だと結論付けた禽次郎の思いを知った上で観ると、尚のこと沁みるシーンである。
思えば、禽次郎の「願い」はこの一年間でゆるやかに、しかし着実に変化していったと思う。4話で描かれたテガソードとの契約時には、規律正しく生きることを重んじるあまり、頑固ジジイとして馬齢を重ねてしまったことを悔やんで「永遠の青春」の象徴であるパーリーピーポーになると宣言し、28話では、実は譲二は心の奥底では自分だけでなく房子と一緒にもう一度青春時代をやり直したいと願っていたことが明らかになり、そして36話で源治と再会する中で青春は実年齢とは無関係なものなのだと知り、最後には「永遠の若さ」への執着さえ手放した禽次郎。そんな彼を見ていると、それこそ誰かを蹴落としてまで手に入れたい願いなんかもはや無いんじゃないかとさえ思っていたが、彼の願いの本質は、房子の遺言である「あるがままに生きる」、つまり「なりたい自分になる」ことにあり、だからこそ今の禽次郎は「親友の笑顔のために全力で負けられる自分」になることを選んだのだと思うと、禽次郎の果てしのない優しさに本当に胸がいっぱいになる。「人は何歳からでもやり直せる」だなんて、手垢が付きすぎた言葉かもしれないが、禽次郎はその尊さと難しさとかけがえなさを一年かけて体現してくれたキャラクターではないだろうか。
全ての指輪争奪戦が終結し、残った1人が願いを叶えた時、禽次郎は87歳の譲二に戻り、もう二度と17歳に戻ることはないのかもしれない。けれど、「僕なんてまだまだ修行が必要」と言っていた通り、何歳の姿であっても彼は「自分だけでなく周りのみんなも笑わせることのできる人間」を目指して翔び続け、その生き様はきっと彼が居なくなった後も彼に笑顔をもらった者たちの胸に希望を与えていくだろう。そんな死や時代を超えて連綿と続く明るい営みこそ、「永遠の青春」と呼べるものなのではないだろうか。
◾️今週のスーアクさん
・乱舞!イーグルVSユニコーン!
今週はやはり、ゴジュウイーグル役の寺本翔悟さんと、ゴジュウユニコーン役 下園愛弓さんの一騎打ちに注目したい。『ゴジュウジャー』のアクションシーンはこれまでも毎話それぞれのキャラクターの魅力がギュッと詰まっていて見応えがあったが、ゴジュウジャー同士の勝負となった今週のアクションシーンはやはり今までにない緊張感や「ついに」という感慨が終始漂っていたように思う。
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