ニチアサの話がしたい vol,268
■今週のゼッツ
・The Brain- is wider than the Sky
今週の『ゼッツ』Case13「滅ぼす」。巨大隕石の衝突と人類滅亡を阻止するという番組史上最大規模のミッションでありつつ、物語の中核となるのは「いつか宇宙に行きたい」と願う星也少年の純粋な願いから始まる「夢を叶えるのに本当に必要なものは何か」という何ともポエティックな問いであり、まるで「The Brain- is wider than the Sky(脳は空より広い)」というアメリカの詩人、エミリ•ディキンスンの詩の一説かのような、無限の夢を見ることができる人間の脳と、無限に広がる宇宙とが双方のスケール感を超えてリンクする、不思議な質感の「解決編」であった。
解決編、と言いつつ序盤の莫には受難が続いた。ノクスナイトに「擬装」する力を得たノクスはこれまで以上にセブンのミッションを激しく妨害。セブンは持っていた全てのカプセムを彼の「イレイス」の能力により無効化されてしまい、その結果、隕石落下を阻止できず越雲宇宙センターは壊滅的な被害に。「無敵のエージェントだと思ってた……夢の中ならなんでもできるって……」と、自分より遥かに勝る、夢を思い通りに操る「明晰夢」の力を持つノクスの手強さと、自分はあくまで「夢を見ている一般人」なのだという現実が無力感となって莫を襲う。1話のオープニングアクトから、夢を見る莫がなきりるセブンの「最強のエージェント」っぷりが強調されてきた『ゼッツ』。これまでもそれなりに危機はあったものの、私たち視聴者も、そして何より莫自身も「とは言え、夢の中のセブンは無敵だから何とかなるっしょ」とタカを括っていた部分が無かったわけでは無いと思う。だからこそ、初めての挫折らしい挫折にゼッツルームの隅で膝を抱え、涙目で「完璧なエージェントなんてなれるわけがない!」と自暴自棄になって富士見やゼロに当たってしまう、今まで見たことのない弱りに弱った莫の姿に胸が痛んだ。
それにしても、隕石落下を阻止できなかったのはノクスのせいだとし、「小鷹さえいなければ」と恨み言を言ってしまった莫と衝突し、協力関係の解消まで突きつけてくる富士見にしても、エージェントとしての初めての挫折に「君に期待した私が間違っていたようだな」と突き放すゼブンにしても、みんな揃いも揃ってまあなんと莫に対して冷たいことよ!なすかは「一般人である彼を責めるのは酷」と庇ってくれたが、なすかも夢で莫がどんな苦労をしているかは知らないので、どちらかと言うと公安という立場を弁えず感情的になる富士見を嗜めるような口調であったし、誰か莫を励ましてくれる人はいないのかよ!!と、思わずこちらも莫と一緒に泣きたくなってしまう。ねむは自分を頼ってくれている立場だし、美浪にはエージェント業のことは言えないし、こう見ると莫もしっかり孤独な仮面ライダーと言えるのかもしれない。
演劇的な面で言えば、富士見との言い争いのシーンはなすかのパソコンを閉じてから怪事課の2人がゼッツルームを出ていくまでのシーンまでなんとワンカットで撮影されており、富士見役の三嶋健太さんもキャストブログに綴っていたが、撮影現場に漂う緊張感まで伝わってくるようで思わず見入ってしまった。演劇人としてキャリアの長い三嶋さんはお手のものという感じだったが、一度ミスったら頭から撮り直しという状況の中、役としての演技を途切れさせず、かつ互いの芝居ともきちんと呼応し合いながら食らい付いていたなすか役小貫莉奈さん、莫役今井竜太郎さんの健闘ぶりも印象深い。
・「コードナンバー:フォー」ノクス先輩!
その一方で気になるのはノクスの言動だ。カプセムの中にはナイトメアが入っていることを莫に暴き、「これ以上悪夢を見たくなかったら、そのドライバーを捨ててこんな悪夢から覚めてしまうことだ」と忠告したり、彼のカプセムを無効化し変身解除させ「力なき者に変身の資格はない」と言い放つなど、一見莫を追い詰めるようなことばかりしているように見えるノクスだが、前回「お前はCODEのことが何も分かっていない!」と、CODEに利用されていることさえ気付いていない莫に怒りを露わにしたように、一度CODEに裏切られた彼が自分と同じ轍を莫に踏ませないよう、夢から覚めるように進言したりカプセムを使えなくしたりして、わざと彼を戦いから遠ざけさせているのでは……という風にも見えてしまう。グラビティカプセムの重力操作で巨大隕石を地球から引き離そうと宇宙へ飛び出したゼッツを、どことなく心配そうに見上げていた表情も然り、だ。何とな~く「仮面ライダーは俺1人で充分だ」などと虚勢を張りつつ、「危ない目に遭うのは自分だけでいい」と、たった独りで戦おうとしていた『エグゼイド』の花屋大我がよぎる「先輩」キャラだな……などと思っていたら、番組のラストで司令官ゼロとノクスが接触。彼がかつてCODEにミッション遂行の「犠牲」として切り捨てられた「コードナンバー:フォー」だったことが明らかになり、キャラとかではなくそのまんまの意味でエージェントの「先輩」だったことが分かり大興奮してしまった。
また、莫に付けられたコードナンバーが「セブン」だったのは、世界的に有名なスパイ小説・映画『007』シリーズの主人公ジェームズ・ボンドのコードナンバーから引用されたものだろうくらいにしか思っていなかったのだが、そのネーミングが、「れまでCODEに所属したエージェントは「フォー(4)」のノクスを含め「ワン(1)~シックス(6)」までいることの伏線だったとは気付けなかった。司令官の名前が「ゼロ(0)」なのも、「コードゼロイダー」というマシン名の略称に思わせて、実は数字で管理されたエージェントを取りまとめる「ナンバリング外の存在」だったという仄めかしだったのがアツい。
ところで、ゼロとノクスが邂逅するシーンでノクスは躊躇なくゼロに引き金を引いていたが、今後ゼロvsノクスナイトという対戦カードがもし敷かれたりしたら、その時はスーツアクターの永徳さんが2人要ることになるなと思い、ちょっと楽しくなってしまった。まあ永徳さんともなれば存在を2つに増やすことなぞ造作もないと思うので、その際は是非永徳さん2倍マシでお願いしたく……などとくだらない冗談はさておき、手指や佇まいの繊細な芝居が際立つノーブルでセクシーなゼロと、圧倒的な肉体美とダイナミックでアクションでメロ散らかしまくりのノクスナイト、その両方で永徳さんを楽しめる現状はかえすがえす永徳さんファンとして幸せである。
・夢を叶えるために一番必要なもの
何もかもうまく行かず、塞ぎ込んでいた莫を救ったのは意外にも星也だった。星也は「宇宙が好きなんだろ。それが一番の才能だよ」と莫に言われたことに感謝し、莫が小さな頃からスパイ映画が大好きでエージェントに憧れていたと明かすと「じゃあ、莫さんにとってエージェントが一番の才能だね」と屈託なく笑ってみせる。ノクスには「力なき者に変身の資格はない」とアイテムを奪われ、怪事課にはとことん「一般人」扱いされ、ゼロにも「エージェント失格」とまで言われてしまった莫だが、星也の言う通り、人が夢を叶えるために一番必要なものは、力でもアイテムでも、特殊な訓練でも資格でもない。それについてだったらどれほど触れていても苦にならない、時間も名前も忘れるほどに夢中になれる「大好き」という気持ちだ。むしろそれががなければ、そもそも人は叶えるべき「夢」を持つというスタートラインにすら立てないのではないだろうか。
私ごとで恐縮だが、かく言う筆者も『ビルド』のブラッドスタークが好きすぎて気付いたら特撮関係のライターになっていたというわりと謎の経歴を持っており、いわゆる「『好き』を仕事に」した人間だと思うが、そんな私個人の経験から言っても「何かを大好きであるということが一番の才能」は結構マジでそうだと思う。「好きこそものの上手なれ」などとも言ったりもするが、ここで言いたいのはそういう「好きならば早く上達できてタイパがいい」みたいなテクニック的な話ではなく、もっと泥臭い意味で「大好き」は理屈ではない、ある種狂気的なエネルギーなのだ、ということである。
先日も仮面ライダーの仕事の合間に仮面ライダーを観ていて家族に「さすがに飽きない?」と引かれたりしていたのだが、(星也もクライスメイトから「宇宙くん」とバカにされていたが)側から見ればちょっと頭がおかしいように見えるくらいの情熱は、捉え方によっては「才能」と言い換えることもでき、それに少しの社会性を与えてやることで、「なりたい職業」に就けたり、「やりたいこと」が実現できたりする、つまり「夢が叶う」可能性が上がるということなのだと思う。現実問題、「『好き』が仕事に」なった後はなった後で、その「好き」が曲がったり枯渇したり錆びたりしないように、今度は自分自身の異常性をハンドリングしていく努力や技術が重要になってきたりするし、その中で「自分の『大好き』を失くさないために趣味に留める」のもひとつの「夢の叶え方」だったりもするのだが、それはまあ一旦置いておく。ともかく、「大好きで居続ければどんな夢も現実になる!人にはその力があるんだ!」という莫の台詞は決して子供騙しの綺麗事でも夢みがちな楽観主義でもない。説明のできない、時には理不尽に思えるほど大きな「好き」は、確かに人生という扉を開ける秘鍵になりうるのだ。
少し前に星也の父親が倒れ、家族で経営していた食堂を畳まざるを得なくなったと知った莫は、夢の中で食堂に潜入。そこで心の扉を見つけ、星也の「うちにはお金が無いんだから、宇宙飛行士の夢なんか諦めなきゃ」と、家族のためを思って断とうとした想いがナイトメアによって「いっそ巨大隕石が落ちて人類なんか滅亡しちゃって、夢なんてそもそも叶えられない状況になればいい」と捻じ曲げられていたこと、そして、ナイトメアの正体はそんな悪夢を具現化した巨大隕石そのものであったことが明らかになる。(毎度のことだが、ナイトメアの極端な拡大解釈ぶりにはお手上げである……)星也の夢を守るため、莫は自らの胸に宿る「エージェントが大好き」という気持ちを新たにカプセムドロッパーを回し、入手したグラビディカプセムを使い仮面ライダーゼッツ パラダイムグラビティに変身。重力操作で見事巨大隕石を破壊する。「やっと会えたな!男隕石!」というちょっと変わった煽り文句にジワりつつ、(男隕石……?)「星也くん、いい夢見ろよ……」と言い残すと、ゼッツは反重力パワーの影響で出現したブラックホールに吸い込まれていってしまうのだった……ギャーーー!!誰かゼッツを助けて!神様仏様仮面ライダーエボルブラックホールフォーム様!!
現実世界では昏々と眠り続けながら悪夢を彷徨い続ける莫は、ノクスの言うように新たなCODEの犠牲者となってしまうのか。それとも……。仮面ライダー初のパワーアップフォーム、イナズマプラズマの曇天を切り裂く閃光にような活躍に期待したい。
■今週のゴジュウジャー
・それでも踏めない、推しのぬい。
「壮絶」という言葉があまりにも似合ってしまう一話だった今週の第41話「最後の鍵!破壊のブーケと創生ノーワン」。最愛の妹リボンを討ったのが、最推しのアイドル陸王と知ったブーケは怒りと悲しみに囚われ、クオンの「彼女はきっと無念を晴らしたいと思ってる。君はその思いに応えるべきなんじゃない?」という悪魔の囁きにも後押しされる形で復讐鬼へと変わってしまう。
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