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掌編|22時、麻辣担々麺 #シロクマ文芸部

 眠れないのは夜食べた麻辣担々麺が辛すぎて胃がシクシク痛んでいるから。「シクシク」痛む、って泣いてるの私の胃?この日本語のオノマトペとかいうやつ、本当に嫌いだな。私がどれだけ苦労したか、小3の時に日本に来て、インターに入らないで普通の小学校に行ったからさ、鼻垂らした男子と私のこと意味もなく可愛い可愛いって褒めて群がる女子が、マリちゃんの髪ツヤツヤだねとか、唇プルプルだねとか、タクジはマリちゃんにメロメロだよとか、もうわけわかんなくてやになった。
 あの頃のことは黒歴史だから思い出したくないんだ、いくら眠れないからって考えるのはやめよう。
 麻辣担々麺食べに行こうって誘ったら、珍しくいいよってカケルは言って、一緒に食べたんだけど、食べ終わったらすぐ帰ろうとしたからお茶でもしようよって言ったら、もう10時半とか言うから、マジメかよ、って突っ込んだら、カケルが怒り出したの、あれなんだったの。
「今からお茶して、11時半になったら、マリは家に帰れなくなるだろ。そういう確定演出、俺が喜ぶと思ってるの?」
 終電は11時22分だってちゃんと頭に入ってたし、帰りたくなったら帰るつもりだったし、私が時間を忘れるくらい楽しい話をしてくれるんなら別にカケルのうちに泊まったっていいし、みたいなことを言ったら、カケルは唇を噛んで、鼻でため息をついた。
「本当にやめてくれよ。軽々しく男のうちに泊まろうとするの」
 駅前の広場みたいなとこだったから、カケルは周りを気にして声を絞って、またため息をついた。カケルは彼氏じゃないし、元カレでもないから、怒られる筋合いないし、私に恋人はいないんだから別に泊まっても誰も怒らないと思うんだけど。
「マリのそういうのがいろんなヤツをその気にさせてんの、わかってるでしょ?」
 カケルの顔は赤くなってて小鼻が膨らんでる。下を見ると、だらりと垂らした両手のひらをギュッと握りしめてた。ははっ、オノマトペ使ってんじゃん、私。
「紳士的に、今日は帰りなよ、とか言ったって、マリはまた同じことをするでしょ。だから言うけど、思わせぶりなのは本当にやめてほしいんだ。みんながマリにドキドキして、自分に気があるんじゃないかって期待して、男同士、関係性が悪くなってる奴らもいるよ。俺はそうなりたくない。麻辣担々麺に騙された」
 カケルの声は大きくなかったけど、街のざわめきの中を真っ直ぐに進んできて私の胸に刺さったみたいで、知らないよ、そんなの、って反論しようとした私の瞼の中に涙が溜まっていった。
 カケルは嫌そうな顔をした。蓋を開けたら中身が腐っていた、みたいなそんな顔。
 私には彼氏がいないし、彼女持ちには目もくれてないし、もちろん不倫でもないし、これっぽっちも悪くないと思うんだけど? 勝手に妄想して期待しているのはそっちなんだから。
 カケルはゆっくり目を閉じ、再び開くと、その目はもう怒ってはいなかった。ただ、冷たかった。
 私のダメなところを教えてくれてありがとう、とでも言ったらいいの?
 言葉を絞り出したら、カケルはメガネのツルをちょっと触って、何ごとか呟いて、駅の改札にスマホを当てて去っていった。

 麻辣担々麺のせいでシクシク痛む胃を気にしながら、私はメッセージを送る。胃の痛みは波のようにやってきて大波が来ると吐きそうになって、眠れないから、最後にカケルが何て言ったのか気になって仕方ないから、あれなんだったのって、聞いたら、すぐ返事が来た。
「バイバイ、サークルクラッシャー」

(了)


お久しぶりにシロクマ文芸部さんの企画に参加させていただきます。
よろしくお願いします。

美柑🍊


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