透明な朝の音 #3つのお題に空想のひらめきを 【第25回】
学校は駅からたったの5分。カップルになった二人は朝の駅で待ち合わせして、誇らしげにその5分を歩く。
クラスメイトのシオンと私は、たびたび、たまたま一緒になって、学校まで歩くだけの仲だった。
シオンはなんていうの?芸術家肌?気難しいところがあるけど、共感力が高く、話すことがソリッドでシニカルで、面白い。ついでにとんでもなく絵がうまい。写真みたいに精密な模写が描けるけど、ヘタウマ漫画もうまい。
ガサツな他の男子とは全く違った質感の変なやつだった。
私は勉強ができる。
クラス委員とかやりがちだし、先生ウケも、女子ウケもいいけど、心の中には毒が詰まってる。
どうやったら優しいと思われるのか、どうやったら好かれるか、全部わかる。
私は顔も可愛い。これで男子にモテると女子からの人気を一気に失うので、男子にはモテないように、わざとガサツなところをアピールするようにしている。
「あいつはそういうタイプじゃねえな」「女として見れないな」
そう言われるとホッとする。
童貞臭い同い年の男子なんかに好かれても面倒なだけだからね。
シオンは話し上手だが聞き上手でもある。シオンは私の口の中から万国旗を引っ張り出すように、延々と言葉を引き出す。最後には毒の塊がごろっと出る。朝の5分、昼休みの20分。シオンと話すのはデトックスだ。
シオンも私のことは女として見ていない。だから自然と、図書館で一緒に勉強して帰ったり、ファミレスにパフェを食べに行ったり、映画を見に行ったりするようになった。期末テストが終わると少し遠くの公園まで足を延ばして、池のほとりで半日ダラダラと話し込んだ。
どこへ行こうと結局、私たちはどこかに腰を下ろして喋り倒し、お互いに毒を吐いてスッキリした。
クラスメイトも先生も、この映画の監督も俳優も声優も、政治家も、親も、みんなバカだよなあ、と言外に風刺して笑った。
秋が来て、シオンはおもむろに私の肖像画をくれた。
油絵の具で描かれた私は、私が知らない顔で笑っていた。背景がぼんやりと花の色に染まっていて、二人で行った公園を想起させた。
私の中の毒は、空気中に霧散して、内心あんなにムカついていた先生にも友達にも、イライラすることがなくなっていた。
そして私にちょっかいを出してくる男子が現れた。
トキオはアメリカからの帰国生で年齢的には1つ年上。言われてみれば確かに、他の男子より大人びていて、高身長なのもあって、なんていうの?シュッとしていた。
朝の駅で、そいつが私を待つようになって、5分の間、並んで歩いた。
シオンと鉢合わせたとき、シオンはちょっと眉を上げただけで何も言わず、足早にひとりで前を歩いて行った。
私はカノジョというものになった。
だけど、さほど面白いものではなかった。
トキオは私にやけに甘い言葉をかけたり、さりげなくエスコートしたり、からりとしたボディタッチをする。
優等生カレシ。同じく優等生気取りの自分を見ているようで、私の中にまた毒が溜まっていく。
朝の5分。私は、シオンが聞いているのを知っていて、トキオの横で大袈裟にキャハハと笑う。昼休みには「トキオってなんか可愛いんだよね」と女子の群れの中でのろけたりもする。シオンは何食わぬ顔でヘッドフォンで音楽を聴いている。
私は怒っている。わけがわからなくて怒っている。
シオンと二人で歩いた、透明な朝の音を思い出しながら、今日も騒がしいトキオの隣を歩く。
(了)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
こちらの企画に初参加させていただきます😘
1つしか使わせていただいていませんが、どれも素敵なお題で、気になりました。片桐みかん様、ありがとうございます。
🍊みかん繋がりです。よろしくお願いします。
