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Midnight At The Oasis:或いは、5分間の事業アイデア発想法

昼と夜の境目が好きだ。午後六時を過ぎ、街の輪郭が少しずつ曖昧になっていく時間帯。空が深く幻想的な青に染まり、時間そのものが柔らかくなる。アンネ・エルボーの絵本『すきまのじかん』に描かれた、5分か10分くらいの最も美しいあの時間。

腕時計という道具は、本来「正確さ」の象徴だ。秒を刻み、遅れを許さず、予定を管理するための装置。

人類が初めて正確な「時間」を必要としたのは、贅沢のためではない。それは、生き延びるためだった。18世紀、航海者たちは海の上で自分がどこにいるのかわからなかった。緯度は星で測れたが、経度は測れなかったのである。イギリス国王の身代金に相当する賞金が賭けられ、多くの科学者が挑んだこの問題は、時計職人であるジョン・ハリソンによって解決されることとなった。彼の時計は、揺れる船の上でも時間だけは揺らがなかったのである。この物語は、デーヴァ・ソベル『経度への挑戦』に、美しく描かれている。

船といえば、古くからラクダは「砂漠の船」と呼ばれてきた。月の光に照らされながら、サボテンの自生する砂漠をベドウィンの隊商が進んでいく。そんな様子が思い浮かぶ。砂漠の夜に私が聴きたい曲がある。

5分間の閃き

とある課題で、以下のような新規商品企画に取り組むことになった。

・カニと歯ブラシ
・梅干しと傘
・腕時計とサボテン
この中から1つを選び、2つのワードの組み合わせによって考えた商品名とその商品の説明を書いてください(制限時間5分)

私の回答がこれだ。

商品名: Muldaur (マルダー)
説明: サボテンの自生する砂漠、月の下をラクダで旅する夜に似合う腕時計。アラブの石油王御用達ブランドで、最近になり日本でも話題に。CMソングはマリア・マルダー(Maria Muldaur)の「Midnight At The Oasis」。

“Midnight At The Oasis”のあの気怠いグルーヴは、砂漠の夜の温度をそのまま音にしたようだ。

課題の「サボテン」という言葉を見た瞬間、“Midnight At The Oasis”の曲の世界観を製品に落とし込めば答えになりそうだと考えた。

制約は発想の源泉だ。短歌という表現形式は、僅か31文字だからこそ、言葉を研ぎ澄ますことができる。だが、別の意味においても同じことは言える。制限時間が短いからこそ、ある程度の飛躍を許容する勇気が持てるのだ。カーネマンの『ファスト&スロー』でいう「システム2」には引っ込んでもらい、代わりに「システム1」に登場してもらうのだ。

短時間で事業アイデアを閃くための練習

実のところ、私はこのような課題を得意としている。というか、これが自分の最大の武器だとさえ思っている。

ある日、私は出社前にスタバに行こうかと思った。結局その日は布団の中でウダウダしてしまい、出社前にスタバを楽しむには少し家を出るのが遅すぎるという感じになってしまった。だが、どうしてもスタバのことが引っかかっていたのだろう。半蔵門線の大手町駅を通り過ぎたあたりだろうか、ふと私はSmartNewsの記事を読むのをやめ、ChatGPTにこんな質問をした。

もしも箱に星が描かれたロゴのカフェ「Starbox Coffee」があったら売れますか?商品や内装はほとんどスタバに寄せます。

さらに勢いは増していく。

もしも本に星が描かれたロゴのカフェ「StarBooks Coffee」があったら売れますか?とにかく「勉強や読書をするのにもってこいなカフェ」がコンセプトの読書カフェです。

もしも北欧のフィーカ文化やヒュッゲをコンセプトにしたカフェ「StarBjørks Coffee」があったら売れますか?

もしも敢えてブラックコーヒーしか出さないことで牛乳や砂糖その他の仕入れコストを削り、同時に豆で勝負するカフェ「StarBlacks」があったら売れますか?

こうして前職の職場があった半蔵門駅に到着するまでには、4つのアイデアを出して遊んだのである。ここで大事なことは、ダジャレという「言葉遊び」が、単なる言葉遊びではなく、新しいアイデアの芽を出す練習になるということだ。

無理もない。発想法として有名な「SCAMPER」というフレームワークがあるのだが、ダジャレはそのうちの「Substitute(置き換え)」と「Combine(組み合わせ)」に通じるのである。ダジャレで遊んでいたつもりが、知らず知らずのうちに発想法のフレームワークを回しているのだ。それこそが、ダジャレがSCAMPERを体感で覚える最高の教材になる理由なのだ。

発想力とは、長い時間うんうん唸って生まれるものではない。むしろ、時間が曖昧になる“すきま”に、ふっと姿を現すものなのだ。

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