この星の住人
【早朝の住人】
薄明の空に
濃厚な桃色に焼かれた雲が浮いていた。
その中にひとつ
翼の生えた子供の雲が
手をつないでいる。
わずかばかりの月は、
いっそう白く透き通る。
小鳥の群れが 一斉に枝を蹴った。
陽光と朝露を含んだ風が巻き起こり、
大地の若草を撫でては 空高く舞う。
どこかの森で葡萄が目を覚ました。
【真昼の住人】
音はない。
石造りの巨塔は
荒い肌でそこに佇んでいた。
その周りを 風が一周した。
それは山をかき回すほどに膨れ
木々を揺らしては地面に陽の宝石をこぼ
していく。
再び静寂。
大地の息づかいが 時を刻む。
【黄昏の住人】
野薔薇が濡れている。
あせた花弁にとどまる雫には、
茜色の空が詰まっていた。
夕日の中から蝶が現れ
野薔薇の葉の下で羽をたたんだ。
そのそばで 小さな声がくすくすと
別れのあいさつをしている。
絹糸を通したような羽が数枚
蕾の上を飛び交い
まもなく 消えた。
【深夜の住人】
夜空よりも闇の枝がざわめき
風は落ち葉をころがした。
小川のせせらぎの中で一枚、二枚
落ち葉は月光を含んだ柔い流れに乗って
闇に消える。
岩を打つ小さな滝の周りには
握れるほどの虹が淡く輝いていた。
ぽん、と何かが入水した。
老木の根の指先に
月光の真珠が輝く。
老木はわずかに目を開け、
また深い眠りについた。
海の夢をみていた。
